Bitter & Sweet結成当初は、メンバー二人とも10代~20歳で愛らしいルックスということもあり、同じ事務所のハロー!プロジェクトのコンサートに出演したり、各種アイドルフェスに出演するなどアイドル色の強い活動も目立っていたが、自身で作詞作曲を行なったり、ロックアーティストたちとの共演を行うなど次第に音楽アーティスト色を強めて行った。そして2017年、二人の念願だったメジャーデビュー。その後もコンスタントにライブやリリースを続けていった。そして昨年5月をもって惜しまれながらBitter & Sweetを解散した。
その後田﨑さんは所属していた事務所を退社。7月より独自で音楽活動を開始、楽曲制作に取り組み始めた。
7月にはタワーレコード池袋店で同作初のリリースイベントを実施。独立後もイベントや対バンライブ、バースデーライブなど人前で歌う機会もあったが、ASAHIとしてステージに立つのはこの日が初。筆者もASAHIのスタートのステージを見るべく、イベントのミニライブに足を運んだ。当日はASAHIとして初のステージということで「緊張します」と話していた彼女。やはり、新生“ASAHI”として歌うということに特別な思いがあったのだろうか。後日そのことを聞くと、「ステージに立つ前にスタッフさんと話し合いを重ねて、パフォーマンスの面で“ああでもない、こうでもない”と結構ギリギリまでやっていたので、そういう面での緊張でしたね(笑)」とのことだった。
具体的には「見せ方が大きいですね」という。「今まで二人でのステージだったので、動きを合わせることが多かったんですけど、今回新たな環境で新たなスタッフさんからパフォーマンスの面でいろいろアドバイスいただくことが多くて、いろいろ勉強になっています」と語っている。この日のステージでは、デビューミニアルバムより『わたしのあした』をはじめ3曲を歌唱、堂々としたステージを見せつつも、これまでと変わらないほっこりとしたMCでファンを喜ばせた。
★ 「小さな頃から自分の中にあるふつふつとした思い、それがロックに乗せたときが一番開花するんじゃないかと…」昨年、11年半活動したBitter & Sweetを解散。
独立の理由は「区切り」だという。グループ活動が10年を超えたタイミング、そして年齢的にも、「次のステップにも行ってみたいと思って……」。独立は急に思い立ったということでなく、5年ほど前から少しずつ考えていたという。「新たな一歩を踏み出したいという思いや、やってみたいこともあったので。夢を追いかけて……」とその思いを明かした。
現在は音楽活動をプロデュースするスタッフはついているが、以前ならマネージャーがやってくれていたことにも今は挑戦し、慣れない作業にも取り組んでいるという。「こういうところも自分でやらなければならないんだと気づくことがいろいろあり、勉強になっています。初めてのことはすごく緊張するし、“これで言い方合っているのかな?”と思ったりもするんですけど、そういうときは今までお世話になったスタッフさんにアドバイスしてもらっています」とのこと。以前の事務所やスタッフとの交流も続いているとのことだ。
またアーティスト活動のほか、趣味である“恐竜”“妖怪”のジャンルで、一出場者としてイベントに参加していたところから仕事につながってきたり、それにまつわり映画出演も決まった。その際の活動は「田﨑あさひ」名義で行っている。
ロックアーティストとして本格的に活動することを考えたのは独立後のことだという。そもそも彼女が音楽の道を志したきっかけがロック。中学3年生のとき、地元・長崎の野外フェス「Sky Jamboree 2010」でRADWIMPSのライブを観て大きく感銘を受けたことが、そのきっかけだった。
デビュー後も、同じ事務所に所属していた女性ロックバンド・LoVendoRとの対バンライブツアーや、他事務所のロックアーティストとの対バンも経験したが、そういったライブではひときわ楽しそうな表情を見せていた彼女が印象に残っている。「この人はやっぱりロックが好きなんだ」と思わされた。
そして今の彼女が語る。「小さな頃から自分の中にあるふつふつとした思い、それがロックに乗せたときが一番開花するんじゃないかと思うようになって。ようやくASAHIが前に出てきました」。
Bitter & Sweetとして発表してきた音楽を否定しているわけではない。むしろ大好きで「今後それを全く歌わないということではなく、ちょこちょこと歌っていきたいなと思います」という。また10年以上にわたりデュオを組んでいた長谷川萌美さんともいたって良好な関係。「二人でのライブはすごく楽しかったし、すごく恵まれていたんだとも思います。
そして今回ASAHIとしてリリースした1stミニアルバム。これまでのBitter & Sweetナンバーとイメージが異なる4曲を収録している。ただゴリゴリのロックサウンドという印象ではない。ASAHIにとってのロックとはどういうものなのだろう。「私の中では“ロック=その人の生き様”だったりするので。それがピアノ一本で歌うとなってもロックになるのかなと思っています」と語る。今回の収録曲でも、これまで積み上げてきたものにとらわれず、ここから新しい自分の表現を追究していきたいという彼女の想いに触れることができる。
歌詞はフィクションの世界を描いたものでなく、やはり再スタート第一弾、「ASAHIとしての最初の曲はリアルな心情を伝えられていいのかなと」、今回の表題曲『わたしのあした』、そして、もう一つの自作詞曲『小さな幸せ』が生まれた。
★“どん底”の時期に生まれた一曲「“小さな幸せ”に気付けるように無理にでも視野を広げなければ…」上記のASAHIとしての初のリリースイベント時のMCで、“昨年後半にすごく落ち込んでいた時期もあった”と話していた彼女。独立して数ヶ月の時期、いろいろと考えなくてもいいことまで考えてブルーになる時期だったのだろうか、それとも思うように曲を作れない“産みの苦しみ”があったのか。彼女に直接問うとこう説明してくれた。
活動がキャパオーバー気味になっていたところに初対面の人にぐさっとなる一言を言われたことが大きかった。「そうですね、初めての方に言われたのがポイントで、日本人らしい謙虚さは持っているつもりで、でも謙虚じゃなくって行き過ぎちゃったっぽくって、卑下になっていたみたいなんです。“いや、私なんかが……”っていう……。それに自分で気づけなかったというところに、その方に言っていただけて、目が覚めたことがすごくありがたかったなと思います」。
音楽的に壁にぶつかったということではなかったというが、「歌うことが好きなので、ライブを減らすことはしたくなかったんですけど、ずっと同じペースでやっていると爆発していたかなと思ったので……」とペースを考えるようになったという。
そんなこともあった昨年後半から制作されていた今回のミニアルバム。
収録曲の歌詞の中には、“積み上げてきた努力は 時々ジェンガみたいに崩れる”という気になるフレーズも。「数年前には“努力って絶対報われる”と思っていたんですけど、いろいろ現実が見えてくる年代になって、『そうか、報われない努力もあるんだ』と思って。ちょっと理不尽さを感じることもあるけど、“それが人生か、そうだよな、そんなことを考える機会が増えました」。
その収録曲『小さな幸せ』を作っていた時期が精神的に一番どん底だったという。「本当に本当に自分から自信を削ぎ落とされていた時期で、この曲の歌詞はすごくリアルな私の声です。ある日コンビニでお買い物したときに、100円割引のレシートが当たって、“以前の自分だったら、これ、すごく喜んでいたな”って思って。でも今はそれを喜ぶ心の余裕がなくなっちゃている。“これはまずい”と思いました。その感覚は忘れたくないと思って作ったのがこの楽曲でした。そういう日々の“小さな幸せ”が身の回りに絶対あるはずなのに、人に優しくしてもらったとか、いろいろあるはずなのに、それを幸せと捉えられない今の自分がすごく不自由な感じがしちゃって、そういう幸せに気づくように、視野を広くしたいなと思って書きました。気持ち的にいっぱいいっぱいになっちゃうと、世界に自分一人しかいない状態にいる感じで、視野が狭くなっていたので、無理やりにでも視野を広く持ちたいと思いました」と同曲の制作時の心境を明かしてくれた。
彼女が自身で作詞作曲を始めたのは2015年頃。デビュー3年目の頃だ。発表した初めての自作曲『蕾』では、“理想と現実の間で悩む姿”“今の自分はこれでいいのか”と内省的な歌詞が印象に残っていた。以後は、ほんわかと可愛い恋愛曲や近年は大人っぽいラブソングなどそれ以外の曲も多数あったのだが、やはり節目節目に“理想と現実の間で思い悩む”“自分はこれでいいのか”という曲があった。「そうですね。おっしゃる通りで、何かしらで感じていたことを書きとめていましたね。そういう楽曲は私の中でもやっぱりひときわ大事な楽曲だなと思っています」と語る。ただ自身が成長する中で、“これでいいんだ”“それを受け止めて前に進んでいこう”というニュアンスも見えてきていた。
可愛い楽曲や恋愛曲は「読んだ小説や漫画などにインスパイアされて」作ることが多かったという話を以前してくれたが、「内省的な曲はほぼほぼ自分の心の叫び?」と問うと「そうですね」と彼女。
それは『小さな幸せ』の歌詞にもあるように、“難しく考える癖”は昔からあり、物事を必要以上に真面目に捉えてしまいがちな彼女ならではのことなのかもしれない。2015年に曲を書き始めた頃からずっとその思いを抱いていたのだろうか。「そうですね。あれ?っていう別の角度から突き刺さっている何かがあって、それについてずっと考えていると思います」と思いを明かしてくれた。世の中にはそこまで考えこまない人も多い。“まぁ、なるようになる”と考えられる人もいる。彼女の場合、すごく繊細で、目の前の物事がずっしり心に響いて、向き合うことになる傾向にあるようだ。
このほかのミニアルバムにはカバー曲も2曲収録。『AQUAMARINE』は今井麻美さんの楽曲のカバー。比較的これまでの路線に一番近い楽曲だが、レコーディングに一番苦労したという。「実際に歌ってみると、『あれ、違う! これじゃない、これじゃない』と。『もっと曲の良さが出るはずなのに』と試行錯誤してスタジオの使用時間ギリギリまで歌っていました(笑)。何パターンか歌い方を試してみたんですけど……」と苦心したことを明かした。もう一曲『まぶた』はarpのカバー曲。逆に「こちらは私の中ではすっと入り込めたし、すっと歌えた」と振り返った。
11月22日、自身の誕生日の2日後にはASAHIとして初のワンマンライブが決定している。「この日は生バンドで2公演させていただきます。めちゃくちゃかっこいいライブになると思うので、いろんな方にぜひ来てほしいなと思います」とメッセージを送る。
ロックシンガーとしての本格スタートになるワンマンライブ、「見せ方にはこだわって考えていきたいと思います」とのこと。ASAHIにとってのロックとは形ではなく精神的なものが大きいとのことだが、でも「サウンドが大きく変わった面は打ち出していきたい」と意気込んでいる。
「まだまだやりたいこと、叶えたいこと、見たい景色もあります。今は周りの方にすごく恵まれているので、しんどいというより楽しいのほうが大きくて。確かに大変なことも多く、考え込んでしまうこともあるのですが、どちらかというと前向きです」と現在はポジティブ思考で前に進めているようだ。
スタートしたばかりのロックシンガー・ASAHI。現状、その知名度が高いとは言えない。大きな事務所に所属していた頃のようなプロモーション力に頼ることもできない。そんな中で、自身の音楽だけで新たなキャリアを切り開いていくことはなかなか容易ではないが、さまざまな心の葛藤を抱えつつ、今、力強く歩みを進めようとしている。そんな彼女の“あした”に大いに期待したい。
文/田中裕幸

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