スペースX上場で宇宙産業への注目が高まっています。宇宙関連株は「夢のテーマ」から、防衛、通信、地球観測、データ活用を支える実需産業へ変化しました。
宇宙産業は、かつての「夢のテーマ」から、防衛、通信、地球観測、データ活用を支える実需産業へ変わりつつあります。宇宙関連株だからと買うのではなく、実際に売上につながる受注があるか、資金調達は十分か、実証の予定は近いかを確認することが必要です。
宇宙ビジネスは「夢」から「使う時代」へ
まず宇宙産業の見方は直近で大きく変わっています。2020年代前半は「民間企業が本当に宇宙に行けるのか」が注目点でした。しかし現在では、宇宙を安全保障、通信、地球観測、災害対応、データ基盤としてどう活用するかが焦点となっています。
日本においては、内閣府の宇宙基本計画で国内宇宙関連市場を2030年代早期には、2020年の約2倍にあたる8兆円に拡大するとしています。
<内閣府の宇宙基本計画> 2020年 2030年代早期 市場規模 約4兆円 約8兆円 宇宙ソリューション産業 約3.5兆円 約7.4兆円 宇宙機器産業 約3,500億円 約6,000億円 出所:内閣府「宇宙基本計画」より楽天証券経済研究所作成
内閣府、文部科学省、経済産業省、総務省が連携する「宇宙戦略基金」が動き出しており、2023年度補正3,000億円、2024年度補正3,000億円、2025年度補正2,000億円が示されています。将来的には総額1兆円規模の支援を目指す枠組みです。
<宇宙戦略基金の仕組み>
これは、宇宙関連企業にとって大きな追い風です。宇宙ビジネスは、売上が本格的に立つ前に研究開発費や打上げ費用がかかります。そのため、政府の補助金、委託契約、政府調達があるかどうかは、企業の成長スピードや資金繰りを左右します。
JAXAの宇宙戦略基金では、民間ロケット、次世代衛星通信、宇宙交通管理、月・地球間通信インフラなどが公募対象となっており、国策テーマとしての色彩が強まっています。
スペースXが変えた宇宙産業の前提
世界の宇宙産業を語る上で、SpaceX(スペースX:SPCX)の存在は欠かせません。最大のポイントは、ロケットを再使用することで打上げ回数を増やし、コストを下げたことです。
スペースXによれば、2026年7月20日時点で完了ミッション678件、着陸639件、再飛行601件が表示されています。ロケットの打上げは特別なイベントではなく、繰り返し行うインフラ事業に近づいています。
さらに、大型ロケットのStarship(スターシップ)が実用化に近づけば、1回あたりに運べる衛星や貨物の量が増え、衛星1kgあたりの輸送コストが一段と下がる可能性があります。
これは、衛星を運用する企業にとって大きな意味を持ちます。打上げコストが下がれば、より多くの衛星を打ち上げやすくなり、地球観測、通信、災害監視、防衛向けデータなどのサービスを拡大しやすくなるからです。
ただし、投資資金は「宇宙関連なら何でも買う」という段階ではありません。この市場に資金は集まっていますが、より大きな調達ができる有力企業や、事業化が近い企業に集中する傾向があります。個人投資家も、テーマの大きさだけでなく、勝ち残る条件を満たす企業かを見極める必要があります。
日本の宇宙関連株にとっての追い風
スペースXによる打上げコストの低下は、日本の宇宙関連企業にもプラスに働きます。特に、自前でロケットを持たない衛星サービス企業にとっては追い風です。
QPSホールディングス(464A)のようなSAR衛星企業、アストロスケールホールディングス(186A)のような軌道上サービス企業、アイスペース(ispace:9348)のような月面輸送企業は、ロケットそのものよりも「宇宙でどのようなサービスを提供するか」が収益源です。輸送コストが下がれば、衛星数の拡大や事業化の前倒しにつながる可能性があります。
もう一つの追い風は、防衛・安全保障需要です。QPSHDは、防衛省の「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」で、契約期間5年、売上見込697億円の大型案件を獲得しています。宇宙スタートアップは売上の見通しが立ちにくい企業も多い中、政府案件は収益の安定性を高める重要な材料になります。
宇宙株の見方:PERよりも受注と資金を重視
宇宙スタートアップを見るとき、通常の株式投資でよく使う株価収益率(PER)ではあまり銘柄比較ができない場合があります。多くの企業がまだ赤字で、利益が出ていないためです。
その場合、株価売上高倍率であるPSRという指標も確認したいところです。企業の時価総額が年間売上高の何倍あるかを示し、売上に対して株価がどのように評価されているのかを見ることができます。
例えばアストロスケールHDは、2026年7月17日時点で株価981円、PSR23.38倍とされています。将来成長への期待は大きい一方、すでに高い期待が株価に織り込まれている点には注意が必要です。
一方、アイスペースは、2026年7月17日時点で株価411円、PSR18.61倍と十分高いものの、アストロスケールと比較すると低い水準です。月面輸送や月周回インフラというテーマは魅力的ですが、商業化までには時間がかかり、短期的にはミッションの進捗(しんちょく)と資金繰りが株価材料になりやすい銘柄となっています。
<宇宙関連銘柄とPSR> 銘柄 主な宇宙関連
事業領域 PSR アストロスケールHD(186A) デブリ除去・
軌道上サービス 23.38 QPSHD(464A) 小型SAR衛星・
地球観測 25.51 アイスペース(9348) 月面輸送・
月周回インフラ 18.61 三菱重工業(7011) ロケット・
衛星 2.58 IHI(7013) ロケットエンジン 1.81 出所:各社資料より楽天証券経済研究所作成。2026年7月17日時点
宇宙産業の成長性:売上は伸びるが、黒字化はこれから
宇宙関連スタートアップの魅力は、高い売上成長率です。アストロスケールは売上収益が24.5億円から59.4億円へ141.8%増、ただし、まだ先行投資段階で営業損失は99.7億円で、黒字化には時間がかかっています。
QPSHDは、2026年5月期売上高38.3億円、前年比42%増となり、営業損失は8.3億円ですが、宇宙戦略基金の補助収入もあり、純利益は11億円の黒字化を達成しています。今後は防衛省案件がどれだけ予定通り収益に反映されるかが重要です。計画通りなら成長株としての評価が高まりやすい一方、進捗が遅れれば株価の調整要因になります。
アイスペースは、2026年3月期の売上高は33.0億円で26.1%減少しました。2027年3月期はプロジェクト収益90億円を見込むものの、当期純損失130億円を予想しています。投資する場合は、黒字化よりもまずミッション成功、資金確保、事業計画の進捗を重視すべき段階にあります。
宇宙株に投資する前に確認したい三つのリスク
宇宙株の第一のリスクは、ミッション失敗です。宇宙開発では、一度の打上げ失敗や実証延期が、株価、事業計画、顧客からの信頼に大きく影響します。H3ロケットでも、過去に失敗と原因調査がありました。宇宙関連株では、打上げ予定や実証イベントが近づくと期待が高まりやすい一方、結果次第で大きく値動きする点に注意が必要です。
第二のリスクは、株式の希薄化です。宇宙関連企業は成長投資に多額の資金が必要なため、増資や転換社債による資金調達を行うことがあります。
QPSHDは2026年3月に第三者割当増資で152億円を調達し、アストロスケールHDも2026年5月に転換社債(CB)と普通株式を組み合わせた総額306億円の資金調達を公表しています。
第三のリスクは、スペースXの存在そのものです。スペースXが低コスト・高頻度打上げをさらに進めれば、日本のロケット開発企業には価格競争の圧力がかかります。一方で、衛星データ、軌道上サービス、月面輸送など、ロケットを使ってサービスを提供する企業にとっては追い風にもなります。
同じ宇宙関連株でも、ロケットを造る会社と、ロケットを利用する会社では投資環境が異なる点を意識したいところです。
まとめ
2026年の宇宙産業は、テーマ株から実需株へ移る過渡期にあります。投資家が注目したいポイントは、
[1]政府契約がある
[2]売上成長率が高い
[3]資金調達が済んでいる
[4]打上げや実証イベントが近い
という四つの条件です。
宇宙という大きなテーマに魅力を感じる一方で、企業ごとの収益化の近さとリスクを分けて見ることが重要です。三菱重工業(7011)、IHI(7013)は防衛、航空宇宙、エネルギーを含む国策大型銘柄として、宇宙単独ではなく国家インフラ全体に投資する位置づけです。
QPSHDとアストロスケールHDでは、QPSHDは防衛省697億円案件で収益の視界が最も明確で、アストロスケールHDは軌道上サービス市場の中長期オプション性が高い銘柄です。
アイスペースについては月面輸送・月周回インフラのポテンシャルは大きい一方、赤字・ミッション延期・資金調達リスクを織り込む必要があります。
「宇宙関連株」は成長株として非常に魅力的ですが、一くくりにせず、打上げ企業、衛星データ企業、軌道上サービス企業、月面インフラ企業、防衛重工企業に分けて考えるべきだと考えています。
2026年時点で収益化が比較的見えやすいのは、防衛、SAR衛星、通信、宇宙交通管理といった分野です。一方、月面ビジネス、デブリ除去、ロケットは、中長期の成長オプションとして位置づけるのが現実的です。宇宙株に投資する際は、受注動向と、株価に織り込まれた期待を冷静に確認したいところです。
(茂木 春輝)

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