キアのルーツは「自転車」と「マツダ車」の生産

 韓国第2位の自動車メーカーで、現代自動車(ヒョンデ)グループの一角を成すKia(以下、キア)は2026年5月、商用・乗用バンでBEV(バッテリー式電気自動車)の「PV5」を日本へ上陸させました。本モデルは、用途に応じたカスタマイズが容易なモジュール式の構成部品の採用や、ソフトウェアなどとの高度な融合を進めた新発想の車両プラットフォーム「PBV」(プラットフォーム・ビヨンド・ビークル)が設計の基礎となっています。

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 筆者(まるも亜希子:カーライフ・ジャーナリスト)はPV5が誕生した背景や、キアが今後どのような未来を描いていくのか、とても興味がありましたが、このたび本拠地である韓国へ赴き、同社のさまざまな施設を見学する機会を得ました。そこで知ったキアのルーツから現在、そして未来への展望をレポートしていきます。

 まず温故知新ということで訪れたのは、キアの歴史が学べる「VISION SQUARE」という施設です。ここで最初に目を惹かれたのは、「三千里号」という1台の自転車。これはキアの創業者が日本で自転車づくりを学び1952年に完成させた、韓国初の国産自転車とのことです。

 その後、同社は1962年に三輪トラック「K360」を、1974年には四輪乗用車「ブリサ」を発売。これらは日本の東洋工業(現:マツダ)が開発したモデルがベースで、1970~80年代にかけて韓国現地では「国民的クルマ」の代名詞となるほど大ヒット。キアの名を一躍有名にしました。

 そして1980年代には、日本人にとってもいまだに馴染み深い商用バンの「ボンゴ」も発売。こちらも韓国ではバンの代表格となるほどの人気を集めました。キアのスタッフは、このボンゴで培ったバンの製造や販売のノウハウが、PBVを初採用したPV5にもつながっているといいます。

 キアはその後もマツダ(やその提携先であったフォード)との関係を続けながら、北米にも輸出された都市型SUVの「スポーテージ」や高級SUVの「テルライド」、中国で開発・販売された「セラト」や欧州で人気の「シード」など、世界でも認められる魅力的なモデルを送り出していきました。

 本施設の展示のラストを飾っていたのは、2021年のブランドリローンチ時に発表された「EV3」や「EV9」「EV4 GT-Line」などのBEVモデルですが、目を見張るのはそのデザイン性の高さ。「Movement that inspires(インスピレーションを与える動き)」をスローガンに掲げるブランドとして、独創的なデザインをキアの文化のひとつと捉え、独自のモビリティ像を確立していることが強く伝わってきました。

 さらに筆者はこの後、キアはデザインの強さを裏付ける最新テクノロジーや厳しいテスト、そして徹底した生産工程の管理をもってクルマを作っていることを、身をもって体感することになりました。

最新の工場には「人型ロボット」も導入予定

 次に訪れたのは、キアのファソン工場の「AutoLand Hwaseong」です。同社は世界9か所の生産拠点で合計約380万台を生産していますが、この工場はなかでも最大の拠点。特に、今回見学した同工場の「EVOプラントEast」はPV5のために建設された最新鋭の工場で、機密事項が多いため、スマホやカメラをはじめ電子機器の持ち込みはすべてNGでした。

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キアの韓国・ファソン工場(画像:キア)

 入ってすぐに驚いたのは、工場とは思えない静かさと、ほとんど人がいない光景でした。ここは年間約10万台の生産能力を誇りますが、既存の工場のように天井から車体を吊り下げて作業を行うのではなく、AGV(自律走行ロボット)によって床下を車両が通っていく「セル生産方式」をとっています。

 これはヒョンデ・グループのロボティクス技術を活用したもので、取材時は21基のAGVと261基のロボットが稼働。ロボットにはアームにビジョンカメラが搭載されており、作業する位置や部品の情報を正確に認識して作業していました。

 よくよく見ていると、ドアとフェンダーを取り付ける工程では細かなドアヒンジまで正確に取り付け、室内の天井に内張を貼る工程では接着面のシールのみを剥がし、ボディ内側にすっと入り込んで貼り付けるという、とても器用な作業もこなしていました。人の手で行うと無理な姿勢での取り付けとなり、身体への負担が大きかった工程も、ロボット化することで効率化と労働環境の改善につなげているとのことです。

 すでに溶接工程は100%自動化されており、今後もヒョンデ・グループのロボティクス技術がさらに活用されていく見込み。今回は見ることができなかったものの、すでにこの工場では四足歩行ロボットの「Spot」が実際に稼働しており、また2027年以降には北米工場から人型ロボット「Atlas」も導入される予定だといいます。

 キアはこうしたロボット化を加速しつつ、現在はPV7やPV9用の新たなEVOプラントを建設中。完成すれば約15万台の生産能力を持つ拠点になる予定です。

驚異の空力性能を実現させたテスト拠点

 続いて、約100万坪という広大な規模を持つヒョンデ・グループの研究開発拠点「ナムヤン研究所」を視察しました。

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韓国現地にてキア「PV5 パッセンジャー」に試乗(まるも亜希子撮影)

 BEVにとって欠かせない熱エネルギーの総合研究室では、外気温マイナス40度の寒冷地から60度に達する高温地帯まで、さまざまな環境を想定した耐久試験を見学しました。ここでガラスの結露・凍結の状態や、室内で暖房が維持できるかどうかなど、さまざまなデータをチェックします。

 実際にマイナス20度でのテスト中に室内へ入ってみると、そこは体中の毛穴が一気に引き締まるような冷気で満たされていました。しかしそんな環境下でも、バッテリーの温度は試験開始から15分以内に26.5度まで回復。これは他社のモデルと比べても優秀といえるそうです。

 また、電費性能を左右するエアロダイナミクスの試験場では、直径8.4mという巨大なファンが発する強風も体感しました。ここでは床面を動かすことで、最高200km/hでの走行状態を再現できるとのこと。

 この試験場で得られたデータを活用し、PV5は空力性能を示す指標のCd値において、バンでありながら0.29という低い数値を達成しました。Cd値は0.30より小さければ優秀とされていますが、空力に不利なワンボックス車のPV5で達成したのは驚異的です。

PV5は「ポスト・ハイエース」になれるか?

 これらを踏まえて、筆者はいよいよPV5に試乗するために「PBVエクスペリエンスセンター」という施設へ向かいました。ここで用意されたのは、PV5のうち乗用モデルの「パッセンジャー」です。短いクローズドコースでの試乗でしたが、運転席と後席から、その実力を検証することができました。

 まず印象的だったのは、出足からハッキリわかったボディの強固なカタマリ感と、安定していてなめらかな加速フィールでした。乗り心地性能が試せる波状路や凹凸路の区間では、振動を長引かず、スッと一発でいなすしなやかさを兼ね備えていると実感できました。

 加速状態からの急制動でも、姿勢の前のめり感が小さく、ブレーキフィールも自然で感心しました。今回は3人乗車の状態だったため、荷物を満載すると印象が変わるかもしれませんが、それでも大きさを感じさせない運転のしやすさと安心感、自然な操作感には好感を持ちました。

 今回の現地施設の見学では、1台で溶接箇所が6000にものぼるという生産工程での徹底した品質管理や、研究開発拠点での地道なテストまで、キアのPV5に対する本気を目の当たりにしました。また、本社では日本語でのウェルカムボードのほか、キア・コーポレーション PBV事業部のキム・サンデ副社長が猛勉強したという日本語でのスピーチで歓迎も受けました。日本でのPV5の普及に向け、並々ならぬ熱意を持っているのだと実感しました。

 日本でPV5が挑むライバル車の代表格は、おそらくトヨタの「ハイエース」でしょう。日本では“バン=ハイエース”となって久しいですが、同車には現時点で電動モデルがなく、“EVバンの決定版”の座は未だにほぼ空席の状態です。実力も熱意も充分に秘めたPV5は、果たしてEV時代の“ポスト・ハイエース”となるのか、今後の動向が注目されます。

【写真46枚】韓国・キアの「新型EVバン」の開発・生産拠点

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