定期運転終了の国鉄形車両を使用

 JR北海道は2026年3月のダイヤ改正で、国鉄時代に製造されたディーゼル車両キハ40形の定期運転を終えました。ただ、観光列車や臨時列車の一部では運用を続けており、管内での全廃までは数年間の猶予があります。

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 そんな特別運用が2026年7月1日に始まったのが、「花咲線」の愛称を持つ根室本線の釧路(釧路市)~根室(根室市)間135.4kmです。紫色の外観が特徴的なキハ40形の観光列車「紫水(しすい)」を組み込んだ列車が8月31日まで毎日1往復しています。「紫水」の太平洋側の座席の一部は指定席を設けており、料金は1000円です。

 うち釧路発8時21分、根室10時53分着の列車は「地球探索鉄道号」と名付けられています。折り返しの根室11時12分発、釧路13時23分着の快速「はなさき」でも運転しています。

「地球探索鉄道号」という壮大な愛称にひかれ、筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は指定席券を買って「紫水」に乗り込みました。乗る前は大きく出た列車名だと受け止めていましたが、行程が進むにつれて見方が変わっていきました。

 釧路~根室間の片道運賃は3080円ですが、期間限定で販売されている3日間自由に乗降できる大人4000円のフリーパスを購入することで割安に往復できました。スマートフォンで買える電子チケットで、画面に表示されるQRコードを釧路駅改札口の専用改札機にかざして通りました。

「極寒地仕様」ならではの違い

 釧路の4番線に待ち受けていた「地球探索鉄道号」は2両編成で、「紫水」は釧路側に連結されていました。車体が鋼鉄製のキハ40形は両端に運転台を備え、客室の2か所に片開き扉があります。

 国鉄時代の1977~82年に392両製造され、うち150両を引き継いだJR北海道のキハ40形は極寒地仕様。

このため、キハ40形が現在も多く活躍しているJR西日本の暖地仕様とは大きく異なる点があります。

 JR北海道に残る極寒地仕様は、客室に「二重窓」を採用。2枚の窓ガラスの間に空気の層をつくることで冬には外の冷気が車内に伝わるのを防ぎ、車内の暖房性能を高める工夫を凝らしています。また、冷房装置を搭載しておらず、天井には外部の空気を採り入れて換気するベンチレーターと、元の扇風機の代わりに取り付けられた「クールファン」と呼ばれる長方形の送風装置が付いているだけです。

スマホでのアンケートが「開けない」そりゃそうだった!?

「紫水」は1980年製のキハ40形を改造しており、車内の壁面や床、座席に木を多用することで自然のぬくもりを演出しています。根室側には、国鉄末期の1986年に製造されたステンレス製ディーゼル車両キハ54形の「地球探索鉄道号花咲線ラッピング列車」を連結しています。

「地球探索鉄道号」は観光利用促進に向けた実証事業の一環として、「紫水」の太平洋側の主に4人掛けのボックスシートを指定席に設定しています。釧路から3駅目の別保(釧路町)を過ぎると、検札に来た係員から「海側指定席ご利用の皆様にアンケートにご協力をお願いしています」と依頼されました。

 渡された紙に記載したQRコードを読み取ってオンラインで回答する仕組みです。しかし、筆者がスマートフォンで読み取ろうとしても回答するページへいっこうに飛びません。それもそのはず、辺りは一面の原生林で、携帯電話の電波が圏外になっていたのです。

エゾシカ多数、さらに…

 別保と、2駅先にあるヨ3500形車掌車を駅舎に活用した尾幌(厚岸町)のあいだの23.9kmは、JR北海道が「よくエゾシカが現れるようです」と説明する区間の一つです。

エゾシカの群れが線路を横切ることが多いため、列車が警笛を鳴らす様子がよく見受けられます。

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「よくエゾシカが現れる」とされる別保と2駅先の尾幌の区間で列車を横切るエゾシカの群れ(別の列車から撮影)

 エゾシカが線路に立ち入るのは、別の理由もあります。それは列車とレールの摩擦で生じた鉄粉や塩分をなめることで、体に必要なミネラルを補給しているのです。

 JR北海道は乗客に対して「エゾシカなどの野生動物との衝突を避けるため、急ブレーキを使用する場合がありますのでご注意ください」と呼びかけていますが、乗った列車はスムーズに進みました。

 別保~尾幌間に「よくエゾシカが現れる」のは事実で、筆者が目撃しただけでも8頭いました。さらに驚いたことに、国の特別天然記念物・タンチョウも3羽見つけました。

 厚岸(厚岸町)の手前では右手に厚岸湾が広がり、列車は雄大な景色を楽しめるようにスピードを落としました。暖流の黒潮と寒流の親潮が交差するためプランクトンが豊富な海域で、出荷している「カキえもん」や「弁天かき」などのブランドのカキは食通をうならせています。

 釧路から厚岸までは自由席もかなり空いていましたが、9時15分の厚岸出発時には満席になりました。団体旅行客らが乗り込んだためで、お目当ては20.2km離れた隣駅の茶内までの別寒辺牛湿原の絶景です。水辺にヨシやスゲ、ミズゴケ類が生い茂り、ヨシの陰には身を休めるエゾシカの姿も見えました。

 線路は単線のため行き違いがあり、9時33分に到着した茶内では8分停車して反対方向の列車を待ちます。

下車すると、プラットホームで懐かしいキャラクターが出迎えてくれていました。

壮大な列車の愛称に偽りなし?

 茶内の駅名標の脇には、アニメ「ルパン三世」に登場する銭形警部のパネルがあったのです。木造駅舎の入口右手には酪農家風の格好をしたルパン三世のパネル、対をなして左手には峰不二子の姿もあり、絶好の記念撮影スポットになっています。

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JR根室本線根室駅のホームにある「日本最東端の駅『根室駅』」の看板(大塚圭一郎撮影)

 茶内駅がある浜中町は「ルパン三世」の原作者、故モンキー・パンチ氏の出身地のためです。世界を股にかけて追跡劇を繰り広げるキャラクターは、「地球探索鉄道号」のお出迎えにうってつけと言えるでしょう。

 10時4分に到着した厚床(根室市)のホームには、標津線厚床支線が分岐していたことを示す「0(ゼロ)キロポスト」と説明文が立っていました。ここから北へ、標津線の中標津(中標津町)までの47.5kmをつないでいましたが、標津線本線とともに1989年4月末に全線が廃止されました。

 根室本線釧路~根室間の2025年度の営業損益が13億7700万円もの巨額赤字に陥っていることを踏まえると、閑散とした途中駅からローカル線がさらに枝分かれしていたことに驚きを禁じ得ません。

 さらに進んで根室市の別当賀~落石間は、線路に沿って「晴れていれば美しい大海原を見渡せる」(地元住民)という落石三里浜海岸が延びています。ところが、この日の海は濃霧の厚いベールに覆われていました。

 車窓から放牧されたウマが草を食んでいる様子を眺めたり、1961年8月の開業から2025年3月14日の廃止まで日本最東端駅だった東根室の跡地を確認したりしていると、定刻の10時53分に現在の日本最東端駅である根室に行き着きました。

 キハ40形の重厚な乗り心地も手伝って、2時間半余りの「地球探索鉄道号」は驚きと発見に満ちた旅情豊かな行程でした。

筆者は国内外で多くの列車に揺られてきましたが、短時間のうちにこれほどバラエティーに富んだ大自然を観察でき、野生動物とも遭遇できる列車は珍しいと断言できます。

「地球探索鉄道号」という愛称も看板に偽りなしで、指定席券を買う価値もあった今回の旅路。通信が安定していた根室でアンケートに「満足」との回答を打ち込むと、残っていた宿題を片付けたような充実感にとらわれました。

【めちゃオシャレ】これが「最果てのキハ40」の車内です!(写真)

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