高校野球の取材をするようになって20年あまり経つが、地方大会での打率が9割台という甲子園球児を初めて見たような気がする。
鳥取城北の宮野快生(かい/3年)。
4試合 16打席(12打数 11安打、四球3、犠打1)0本塁打 7打点 4盗塁
打率.917 出塁率.933 長打率1.167 OPS2.100
あまりにも気になった筆者は、鳥取大会で宮野が立った16打席の映像をすべて確認してみた。
【鳥取大会で驚異の12打数11安打】
11安打のなかには、ラッキーな打球も何度かあった。犠打の打球を処理しようとした投手が尻もちをついて内野安打になったケースや、バスターした打球が外野の前に落ちたケースなど。しかし、大半は自分の間合いで力強くスイングした、正真正銘のヒットである。唯一の凡退になった二塁ゴロ(準決勝・境戦の第4打席)ですら、バットの芯付近でとらえた強い打球だった。
決して幸運だけで積み上げた11安打ではない。
映像から感じた印象を本人に伝えてみると、宮野ははにかみながらこう答えた。
「1打席1打席、ピッチャーに対してしっかりと振っていくことを考えていました。たまたまいいところに飛んだ打席もありましたけど、狙ったとおりに打てた打席も多かったです」
じつは鳥取大会の開幕前は、故障と不振に苦しんでいた。宮野は「とにかく練習量をこなして、考えて、また練習して......という感じでした」と振り返る。
初戦(2回戦)から準決勝まで、3試合の打順は7番だった。
2点のビハインドで迎えた第2打席。宮野が振り抜いた打球は中堅フェンスに1バウンドで届く2点適時二塁打になった。宮野にとって最高の打撃だった。
「強く振っているイメージはないのに、振り抜いたらあそこまで飛んでくれて。『あぁ、状態がいいんやな』と感じました」
この試合はほかにも2本の適時二塁打が飛び出すなど、4打数4安打5打点の大暴れ。チームも12対3で快勝し、甲子園出場を決めた。
9割超の打率を残したことについては、「終わってみて、『あ、そんなに打ってたんや』と思いました」と振り返る。自分が大仕事をしている実感はなかったという。
【母のトンカツとバットへの祈り】
それにしても、ここまで安打が続くのは普通ではない。大会中、何かゲン担ぎでもしていたのだろうか。こちらが当てずっぽうに尋ねると、宮野は恥ずかしそうに「ふたつあります」と告白した。
「ひとつは試合前日にお母さんがつくってくれたトンカツを食べることです。もうひとつは、バットを使った儀式をやっていました」
話が急にオカルトじみてきたが、「儀式」の内容を聞かずにはいられなかった。宮野は身ぶりを交えて再現してくれた。
「まずバットを拭いて、祈って、(両手で)バットを持つ。『明日は頼むぞ』と念じて、自分のなかで『打てる』と思ったら終わりです」
ちなみに「母のトンカツ」は、寮で出される夕食とは別に食べていたという。宮野は「ちょっと重たかったけど、これだけは食べろと言われていたので」と苦笑する。
鳥取大会が終わると、宮野は一躍「9割打者」と脚光を浴びた。取材も数多く受けることになった。意識すればするほど、重圧となってのしかかりかねない状況だった。
「あまり考えないようにしていました。チームメイトも気を遣ってか、(打率のことは)言ってこなくなりましたね」
8月9日、甲子園(全国高校野球選手権大会)初戦の岡山学芸館(岡山)戦。鳥取城北・加藤重雄監督への試合前取材では、宮野に関する質問が出た。
「(鳥取大会は)できすぎもできすぎです。打ち出の小槌でも持ってるんじゃないかと思うくらい、打ちましたからね。(エース右腕の)下浦(一心/3年)と宮野がいたから、ここにいられると思っています」
しかし、甲子園ではその「魔法」も解けてしまったのか。宮野は岡山学芸館の先発左腕・田路惣一朗(とうじ・そういちろう)の前に、4打席凡退に倒れている。試合は3対7で敗れ、鳥取県勢の夏の甲子園11連敗となった。
【この夏、初めて対戦した左投手】
試合後、宮野は沈んだトーンで自身の打撃について振り返った。
「いいピッチャーに対して打たされてしまって、自分のスイングができませんでした」
岡山学芸館バッテリーに相当研究されたのだろう。変化球主体で攻められ、宮野は本来の力強いスイングを封じられた。
ふと、あることに気がついた。鳥取大会で宮野が立った16打席は、すべて右投手との対戦だった。その点を指摘すると、宮野はうなずいてこう答えた。
「自分は左ピッチャーの変化球に課題があるんです。鳥取大会で結果を残せた大きな要因のひとつは、左ピッチャーと対戦しなかったことにあると思います」
鳥取大会を終えて関西地方に入ってから、打撃練習で自身の状態がピークを過ぎていることにも気づいていた。
まるで魔法が解けてしまったような感覚なのだろうか。そう尋ねると、宮野はこう答えた。
「そうですね......。今日の自分は、いたって普通(の打者)というか......」
高校卒業後は大学で野球を続ける予定だ。そして、将来的には教員を目指したいという。
「今の担任の先生が、自分の理想なんです。優しいけど、言うべきことはしっかりと言ってくれる。大学で『野球で生きていくのは厳しい』と感じたら、教師の道も考えていきます」
ちなみに、甲子園初戦の前日にはトンカツを食べたのか。そう尋ねると、宮野は気まずそうな表情でこう答えた。
「いえ、昨日はホテルの近くでカツ丼は食べたんですけど......」
卵でとじてしまったのか......。
驚異の9割打者は聖地で己を見つめ直し、新たな一歩を踏み出そうとしている。
菊地高弘●文 text by Takahiro Kikuchi










![Yuzuru Hanyu ICE STORY 2023 “GIFT” at Tokyo Dome [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/41Bs8QS7x7L._SL500_.jpg)
![熱闘甲子園2024 ~第106回大会 48試合完全収録~ [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/31qkTQrSuML._SL500_.jpg)