政府は従来、最低賃金について「2020年代に全国加重平均1500円を達成する」との目標を掲げてきた。だが達成時期を見直し、「2030年代前半」へ先送りすると報じられている。

複数の労組からなる「最低賃金全国一律大幅引き上げ実現!共同アクション」が7月2日、都内で会見。「目標が後退すれば年間の引き上げは44円程度にとどまる」と指摘した。
最低賃金で1年間ほぼフルタイムで働いても、年収(最低額の1023円で月150時間働いた場合)は184万1400円。さらに税金や社会保険料が引かれる。
会見に出席した下町ユニオンの石井美登里氏は「物価高騰を受け、卵2個を子ども3人に分ける、という家庭が存在する。子どもにひとり1個の卵を食べさせられるように、最低賃金を大幅に引き上げてほしい」と訴えた。

「全国一律の最低賃金がベスト」

最低賃金付近で働く人の実態は、統計にも表れている。
全労連が各地で実施してきた最低生計費試算調査によれば、健康で文化的な生活には時給1800円台から1900円台が必要で、都市部と地方に大きな差はないという。ところが2025年度(令和7年度)の地域別最低賃金は、全国加重平均で1121円。最低額の宮崎、高知、沖縄は1023円にとどまる。生計費との隔たりは、地方ほど深刻だとされる。
2025年度の改定は、全国加重平均で前年度比66円増と過去最大の上げ幅を記録し、中央最低賃金審議会が示す目安額を上回る答申を行った地域は39道府県、その割合は83.0%に達している。数字だけを見れば、大幅な前進だった。

しかし、賃上げがいつ実施されるかを示す発効日が新たな問題として浮上した。
最低賃金法14条2項は、最低賃金が改定された場合の発効日を原則「公示の日から30日を経過した日」と定めているが、例外として、それより後の日を定めることも認められており、2025年度は特定の日を指定する“指定日発効”が急増。11月以降に先送りした地域は27府県に上った。
この結果、東京(1226円)と最低額との地域間格差は、発効日がずれる期間に275円(22.4%差)まで拡大した。
群馬県の状況を報告した交通ユニオンの諏訪哲也さんは、同一企業でも地域で基本給が変わる実態を挙げ、「時給を踏まえれば、労働人口が県外へ流出するのは当然だ」と指摘。
10月1日の発効を求めるとともに、「全国一律の最低賃金にしていくことがベストではないか」と語った。

「引き上げ目標の先送りは許せない」

2026年度改定に向け、中央最低賃金審議会は6月25日、「令和7年度地方最低賃金審議会の審議結果を踏まえた論点と考え方の整理」と題した報告書を取りまとめた。
報告書は発効日を「大幅な引き上げを確保するための過度の『交渉材料』とすべきではない」とし、早期の発効を促している。
労組側はこの方向性を一定評価しつつも、警戒を解いていない。
全労連の黒澤幸一事務局長は、2025年度に多くの地方審議会が中央最低賃金審査会の目安を上回った背景を「地方の危機感だったのではないか」と分析。「倒産が増えたという話もない」と述べ、次のように述べた。
「最低賃金の目的は労働者の生活の安定です。
政府は2030年代前半に時給1500円にすると目標を“後退”させましたが、今が1121円ですから、年間たった44円しか引き上げないと宣言したに等しいです。しかし、物価高騰の中、この程度では生活できません。
政府目標の先送りは許せませんし、最低賃金を今すぐ全国一律1700円以上に引き上げるとともに、2000円を目指していくべきです」
また、会見に出席した全労連の秋山正臣議長は中央最低賃金審議会に対し、「生計費原則の重視」「地域間格差解消の道筋の提示」「すべての審議の公開」の3点を要望した。
「かつて、最低賃金は単に経済のデータと連動して決められていました。
しかし、政府が『2020年代に最低賃金1500円を達成する』との目標を設定してからは、使用者側の反対もあるなかで、それにできるだけ近づけようと、審議会も努力をしてきたのではないでしょうか。
ですが、目標の後退によって、その理屈が取り払われ、従前の決め方に戻る恐れがあります。
加えて、最低賃金法では『地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力』の3要素を考慮する(9条2項)としていますが、実際の審議は物価上昇率などはデータとして考慮されているものの、生計費が重視されていません。
われわれの実施した調査から考えると、現時点で時給1800円台が人間らしい暮らしには必要であり、引き上げにあたっては、こうした生計費の実情も重視していく必要があるのではないでしょうか」


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