メニコン<7780>は日本を代表するコンタクトレンズメーカーの1社だ。しかし、世界のコンタクトレンズ市場ではJohnson & Johnson Vision、Alcon、CooperVision、Bausch + Lombなどの巨大企業が立ちはだかる。
販売網を買い続けてきたメニコン
同社は。国内では定額制会員サービス「メルスプラン」を展開し、海外では欧州、中国、東南アジアを中心に事業基盤を広げてきた。その成長を支える手段の一つがM&Aだ。同社の近年のM&Aを振り返ると、大型買収で一気に売上規模を拡大するより、国内外の販売網や顧客接点、専門機能を取り込む案件が目立つ。国内では地域販売会社を買収して営業基盤を強化し、海外では現地販売会社や特殊コンタクトレンズ関連企業を傘下に収めてきた。
メニコンの近年のM&Aには、大きく三つのパターンがある。海外成長市場への進出、国内販売チャネルの強化、高付加価値領域への進出だ。2019年10月、イタリアのコンタクトレンズ・ケア用品メーカーSOLEKOを買収した。欧州の使い捨てコンタクトレンズ市場で有力なイタリアに製造・販売基盤を取得し、海外事業の拡大を図る。
2020年10月には、大阪市内でコンタクトレンズ専門店3店舗を運営するハマノコンタクトを買収し、関西地区の販売基盤を強化した。
続く2021年1月には、医療用機械器具の販売・輸出入を手がける板橋貿易の株式86%を35億6000万円で追加取得し、完全子会社化している。狙いは中国市場で、同社が持つ現地販売網を活用し、就寝中に装用して角膜形状を一時的に変化させ、日中の裸眼視力を改善するとともに、子どもの近視進行を抑制する効果が期待されるオルソケラトロジーレンズやケア用品などの販売拡大を目指した。
2024年3月にはフランスのLaboratoires Dencottを買収した。同社が持つのは、通常のコンタクトレンズでは十分な視力矯正や装用が難しい患者向けの特殊レンズに関するフィッティング能力と眼科医とのネットワークだ。
同年9月には、シンガポールのOculusが東南アジアで展開していた販売会社3社を取得。すでに現地に持っていた製造拠点と合わせ、製造・販売の両輪をそろえた。
2026年6月には、仙台市内でコンタクトレンズ販売店3店舗を運営するインターオプチカルを子会社化し、東日本での販売基盤を強化した。一連のM&Aでメニコンが取り込んできたのは、企業規模そのものではない。「市場への足掛かり」「販売網」「顧客接点」「眼科医との関係」「特殊レンズの専門能力」だ。
コンタクトレンズ市場は「人数」から「単価」の成長へ
メニコンのM&A戦略を考えるには、市場の将来を見なければならない。AI(人工知能)経済予測プラットフォームのxenoBrainは、国内コンタクトレンズメーカー市場を2025年に2844億円と推計し、2030年には3588億円へ拡大すると予測する。5年間で26%増え、年平均成長率は約4.8%となる。
もっとも、日本では少子高齢化が進み、主要利用者層となる若年・生産年齢人口は減少する。
市場拡大を後押しするのが、同じレンズを2週間や1カ月使用するタイプから1日使い捨て(1DAY)への移行だ。交換頻度の高い1DAYが普及すれば、利用者1人当たりの年間購入額は増加する。酸素透過性に優れるシリコーンハイドロゲルレンズや遠近両用レンズなど、高付加価値製品の普及も平均販売単価を押し上げる可能性がある。
さらに新市場として注目されるのが「近視管理」だ。従来のコンタクトレンズは近視になった人の視力を矯正する製品だった。これに対してオルソケラトロジーレンズは、子どもの近視進行を管理するという新たな需要を生み出している。コンタクトレンズ産業は今後、「より多くの人にレンズを売る市場」から「顧客1人とより長く、深い関係を築く市場」へ変化する可能性がある。
国内M&Aで買うのは「顧客接点」
前述のように国内市場でメニコンが進めてきたのが、ハマノコンタクトやインターオプチカルなど販売会社の買収だ。なぜ、メーカーであるメニコンが販売会社を取得するのか。同社は月額定額制の会員サービス「メルスプラン」を展開している。契約レンズの継続的な提供に加え、度数変更や破損・汚損時の交換など、規定に基づくサポートを提供する仕組みだ。
この事業モデルを持つメニコンにとって、販売会社の買収価値は単に店舗の売上高だけではない。
重要になるのがLTV(顧客生涯価値)だ。要は「何人の顧客を獲得し、一人ひとりとの取引から将来どれだけの利益を生み出せるか」にかかっている。販売会社買収とメルスプランには高い戦略的親和性がある。買収によって取得した顧客接点をメルスプランや自社製品の継続利用につなげることができれば、顧客LTVを高めるM&Aモデルへ発展する可能性がある。
海外M&Aは「市場への入口」を買う
海外では戦略が異なる。メニコンは国内では有力メーカーだが、世界の一般コンタクトレンズ市場では巨大企業を追う立場だ。世界大手と正面から競争するには、生産設備、研究開発費、広告宣伝力、ブランド力、販売網のいずれでも巨額の投資が必要になる。そこで活用してきたのが、M&Aによる市場参入だ。
板橋貿易の買収では中国の販売網を確保し、自社のオルソケラトロジーレンズやケア用品の販売拡大を狙った。東南アジアではOculus傘下の販売会社を取得し、既存の製造拠点と組み合わせて事業基盤を構築した。
Laboratoires Dencottの買収はさらに一歩進んだ案件といえる。
オルソを起点に世界市場で勝てるか
メニコンは最新の中期経営計画で、オルソケラトロジー市場を1DAYと並ぶ成長分野と位置付け、2027年に中国、日本、欧州において20%程度のシェア獲得を目標としている。
世界大手と全面競争するより、自社が優位性の確立を目指す領域に経営資源を集中し、オルソケラトロジーを起点とする近視管理分野でトップを狙う方が成長戦略として合理的だろう。
今後も地域販売会社の買収は続く可能性がある。国内では顧客基盤の強い販売会社を傘下に収め、メルスプランや自社製品を組み合わせて地域シェアを高める。海外では成長地域の販売会社を取得し、自社製品を投入する。
しかし、これからのM&Aでは、近視進行抑制技術、特殊レンズ、眼科診断機器、画像解析技術、近視進行予測AI、患者管理システムなど周辺領域へ対象を広げる必要があるだろう。
同社の成長戦略から考えれば、買収対象として浮かび上がるのは「患者」「眼科医」「技術」「データ」へのアクセスを持つ企業だ。こうしたM&Aを通じ、診断からフィッティング、レンズ提供、定期検査、ケア用品の供給、近視進行のモニタリングまでを一体的に提供する戦略が考えられる。「販売網を買って自社製品を流すM&A」から「近視管理のバリューチェーンを構築するM&A」への進化だ。
「レンズを売る会社」から「顧客の眼を生涯支える会社」へ
例えば、メルスプランで培った会員制ビジネスモデルとオルソケラトロジー事業を融合する。子どもが近視管理プログラムに加入し、眼科医の診断を受け、オルソケラトロジーレンズを利用する。
成長後は1DAYコンタクトレンズへ移行し、中高年期には遠近両用レンズなどを利用する。メニコンが一人の顧客と数十年間にわたって関係を築く「生涯アイケア会員モデル」になりうる。
このビジネスモデルが成立すれば、メニコンの収益構造も変わる。「何枚のレンズを売ったか」ではなく、「何人の顧客と関係を持ち、何年間にわたって、どれだけのアイケア製品やサービスを提供したか」が企業価値を左右することになるからだ。
メルスプランという会員基盤、国内外の販売網、オルソケラトロジー事業、特殊レンズ技術、眼科医とのネットワークをM&Aによって結びつける。そして「コンタクトレンズを製造して売る会社」から「顧客の眼を生涯にわたって支えるグローバルアイケア企業」へ転換する。これらが実現すれば、顧客との長期的な関係を土台に価格競争の影響を受けにくい収益構造を構築し、「サービスとしてのコンタクトレンズ」を提供する企業として、世界大手と競合しない成長モデルを築くことができるだろう。
文:糸永正行編集委員
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