日経平均株価が7万円を一時突破するなど歴史的な上昇を見せている一方で、ドル円相場も一時1ドル162円台をつけるなど円安が止まらない。モノの値段が上がっている一方で日本国民の生活が改善しているようにはなかなか感じられない。
現在の経済状況は「確かにバブリー」
今、世界には過剰な流動性が溢れかえっています。まるでドライパウダー(待機資金)のように、行き先を一生懸命に探している状態なのです。
過去を振り返れば、5年か7年おきにどこかで市場が盛り上がり、それがバブル的に崩壊するという歴史を繰り返してきました。
リーマンショック後、資金は中国などに向かいましたが、それも限界を迎えています。現在は戦争などの「有事のドル買い」も重なってアメリカに資金が集中しています。
さらにAIやデジタルのブームが重なり、アメリカの株高が起き、その影響を受けて日本の株価も上がっているのが現状です。
バブルというのは「崩壊して初めてバブルだったと分かる」という名言がありますが、現在の状況は確かにバブリーだと言えます。しかし、それがいつ崩壊するのかは誰にも分かりません。
日本の実体経済がなぜ、株高についてきていないのか
懸念すべきは、日本の実体経済がこの株高に必ずしもついてきていないことです。半導体分野には注目が集まっていますが、それだけで日本経済全体を引っ張ることはできません。
実際、日本の主力産業である自動車メーカーの株価は上がっておらず、政府の成長戦略の重要な柱にも入っていないのです。
世銀やIMFも世界全体の成長率を下方修正しており、経済実体が大きく好転する状況にはないという現実を直視しなければなりません。
日銀の金利引き上げと円安の問題についても、本質的な議論が不足しています。結論から言えば、日銀が名目金利を少し上げたからといって、すぐに円高に向かうわけではありません。
なぜなら、名目金利から物価上昇率を引いた「実質金利」で見れば、日本は1%から2%近い大幅なマイナス水準にあるからです。欧米の実質金利がゼロから若干のプラスであることを考えれば、日本の実質金利は依然として低すぎるのです。
質の悪い便乗値上げが横行している
もちろん、現在の円はあまりにも過小評価(アンダーバリュー)されているため、何かのきっかけで円高に振れる局面はあるでしょう。
しかし、基本的には実質金利が低いことに加え、経済のファンダメンタルズを良くするような政策が取られていないため、簡単には円高に向かいにくい構造になっています。
国民の皆様が生活の中で感じている「物価高」も深刻です。しかし、実はマクロで見ると、スタグフレーションと呼ぶほどインフレ率が高いわけではありません。政府の経済見通しでも今年の物価上昇率は1.9%から2%程度と、全体としては落ち着きを見せています。
ではなぜ、生活実感としてこれほど高く感じるのか。一つは生鮮食料品など身近なものが大きく上がっているからです。そしてもう一つは、価格を変えずに内容量を減らす「シュリンクフレーション」が横行しているからです。
さらに問題なのは、政府が「高圧経済」の名のもとに「賃金を上げろ、物価を上げろ」と旗を振ったことで、社会全体に「便乗値上げ」の口実を与えてしまったことです。
国際的な輸入価格の引き上げを理由にしながら、国内価格の引き上げも行われているのが実態です。この4ヶ月間は実質賃金がプラスになっていますが、これが長期的に続くかどうかは極めて疑わしいと言わざるを得ません。
高市政権、石破政権と本質的には何も変わっていない
先日、政府の「骨太の方針」の原案が示されましたが、これを読むと、事務方がいかに苦労して書いたかが透けて見えます。
「責任ある積極財政」という矛盾を抱えた言葉の帳尻を合わせるため、今までと本質的には十分変わっていないものを、変わったかのように見せる工夫に終始しています。
例えば「プライマリーバランスの評価」について。単年度で見ないと言いながら、そもそも過去に単年度で達成目標にしたことなどありません。
また「国債残高比率の指標」については、GDPに対する国債残高比率を見るといっても、物価上昇率と名目GDP成長率が同じであれば、結局はプライマリーバランスを見るのと同じことです。
「給付付き税額控除」も実態は給付しか行わないものであり、これまでの石破政権や岸田政権から本質的には何も変わっていません。
さらに「経済対策としての補正予算を組まず、本予算に組み込む」と勇ましく語っていますが、これは小泉政権時代からやっていた当たり前のことです。
きちんとした移民受け入れと労働市場改革を
減税についても、税調の審議を経ていないため、骨太の方針には明確に書き込めず、のらりくらりとした姿勢が目立ちます。総理がどこまで本気で改革を考えているのか、まだビジョンが見えてきません。はっきりいえばこれまでの石破政権や岸田政権と大きく変わらない政権とも言えます。
今の時代、政府の役割は従来以上に重要です。防衛費の増額やリスクを伴う研究開発への投資も必要です。
しかし、支出を増やすなら、コンセッション(官民連携)の推進や本格的な社会保障改革など、政府がやってきた余計なことを減らす努力をしなければなりません。それを怠れば、行き着く先は増税しかありません。
日本経済の起爆剤となるのは、きちんとした移民の受け入れと並んで、何よりも「労働市場の改革」です。
現在、深刻な人手不足にもかかわらず賃金が上がらないのはなぜか。かつては高齢者や女性の労働参加によって人手不足を補ってきましたが、それも限界に達しています。
実は今、転職が容易な20代や30代の給料は上がっています。より高い賃金を求めて職場をかえるからです。しかし、中高年の給料は上がっていません。終身雇用と年功序列のもとで絶対にクビにならないと信じ、今の職場にしがみついているからです。
本人が「今のままで安泰だ」と思っている以上、政府がいくらリスキリングのプログラムを提供しても進むはずがありません。労働市場が柔軟になり、賃金の低いところから高いところへ人が移動して初めて、国全体の賃金は上がるのです。
野党は「中傷動画問題」のような重箱の隅をつつくようなことばかりに終始
また、日本の大企業が外資系企業のようにレイオフ(一時解雇)を行えないのは、強い労働組合と「訴訟リスク」があるからです。
1979年の東京高裁の判例により、解雇権の濫用が厳しく制限されています。
だからこそ、この古い判例をオーバーライド(上書き)するような新しい法律を、国会が責任を持って作らなければならないのです。
しかし、肝心の国会は機能不全に陥っています。国会の機能というのは、要するに「野党が強いかどうか」にかかっています。
今の野党は、中傷動画問題のような重箱の隅をつつくようなことばかりに終始し、国民もすでに飽き飽きしています。
維新は何をやっているんだ
本来であれば、野党こそが労働市場の改革など、根本的な制度改革を積極的に提案・追及すべきなのに、それを全くやっていません。この点については、日本維新の会にも責任があると感じています。
定数削減や国旗損壊罪成立といった主張だけではなく、橋下徹氏がいた頃の「維新らしさ」を取り戻し、国会で本格的な制度改革の議論をリードしてほしいと強く期待しています。今は高市政権をひたすら立てているだけではないでしょうか。
日本経済が直面しているのは、小手先の対策では解決できない構造的な危機です。過剰な流動性に支えられた危うい株高や、場当たり的な財政支出、そして痛みを伴う労働市場の改革から逃げ続ける政治の姿勢は、将来世代に対する無責任に他なりません。
今、求められているのは、些末なスキャンダル追及に明け暮れる国会ではなく、国民に「改革に伴う痛み」を直視させ、本質的な制度改革を断行する真のリーダーシップです。
与野党を問わず、保身を捨てて日本経済の土台を根本から作り直す重厚な政治論争へと立ち返ることを、私は強く求めます。
文/竹中平蔵

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