「今も悔しくて高校野球は見られない」エバース佐々木が明かす甲子園への未練と、野球で培った“自分の笑い”への自信
「今も悔しくて高校野球は見られない」エバース佐々木が明かす甲子園への未練と、野球で培った“自分の笑い”への自信

高校時代、白球を追いかけていた人気お笑いコンビ・エバースの佐々木隆史。芸人となった今も、高校野球への思いは色あせていない。

新刊『ここで一球チェンジアップ』(太田出版)を刊行した佐々木さんに球児だった日々の記憶、野球から学んだこと、そして今だからこそ語れる高校野球の苦い思い出についてじっくりと聞いた。(前後編の前編)

宮城県内の強豪・古川学園で甲子園を目指したエバース佐々木

ちょうど高校野球の地方大会が終わって甲子園が始まります。佐々木さんは高校野球、見られますか。

エバース・佐々木隆史(以下同) 高校野球はそんなに見ないですね。

お忙しいからでしょうか。

いや……母校(宮城県・古川学園)の結果とかは追ってましたけど、あんまり映像としては見れないんですよ。

なぜですか?

僕、高校野球のことになると悔しくなっちゃうんで。甲子園出場が決まった瞬間とかを見ると、甲子園に行くヤツが羨ましくて、あんまり見れないんです。

今もまだそういう気持ちがあるんですね。

そうですね。甲子園の夢は見なくなったけど、でもやっぱり、まだありますね、あの時の悔しさは。

佐々木さんの地元でもある宮城県の高野連が、野球用語について考える取り組みを始めましたよね。「死」「殺」「刺」「盗」などを含む用語を例示して、代わる表現を募集しているそうです。

あれ、宮城県なんですか!

そうなんです。野球だけに限らず、お笑いの世界でも以前は使えていた言葉がコンプライアンスの関係で使いにくいみたいなことはあると思うのですが

アメリカでは普通に「スチール」とかは使ってますよね。だから、別にそんな目くじらを立てなくてもとは思いますけど。だってそれ聞いて、本当に刺すヤツはいないと思うんですよ。野球の用語を変えても刺すヤツは刺しますし。

漫才のネタでもそういうことはありますか?

確かに、僕らがM-1で(相方の)町田(和樹)をケンタウロスにするっていうネタをやった時に、「町田がもしケンタウロスになったらさ、合コンで女の子お持ち帰りする時に、その子乗せて帰れるよ」みたいなことを言ったんですよ。

そうしたら「お持ち帰りなんて」みたいな感じで叩かれて。まあでもそれは多分気にしすぎてて、本当に一部の過激な人だけが「うわー」ってなっただけで、燃え広がらなかったんですけど。でもそれがあってから、もう「お持ち帰り」って言葉は言わないようにしたんですよ、僕。そこで余計な炎上とかしたくないですし。

せっかくの面白い漫才を、そんなつまらないことで邪魔されたくない。

そうですね。だからもう言わないようにしてるんですけど、「お持ち帰り」。

野球の経験が芸人に活きたこと

—普段から言葉について考えてらっしゃいますか?

結構考えますけどね。でも炎上とかそういうことよりは、こういう言い回しのほうが面白いなとか、その観点ですけど。

—佐々木さんは「学生生活で何かひとつのことを一生懸命やってた人のほうが、その人の面白さが確立してる」という持論をお持ちです。ご自身の野球部の経験も、ネタに影響を与えていると思いますか?

はい。でも部活じゃなくてもいいんですけどね。帰宅部の人でも、多分1個めっちゃ好きなものがあったりとかしたら面白いと思うんですよ。一番面白くないのは、自分が好きとか面白いとか思ってないけど、周りに合わせて行動してたヤツが、大人になって一番面白くないやつになると僕は思うんですけど。

—どうしてそう思われるのでしょうか。

自分の芯がないから、じゃないですかね。自分がそれ面白いからじゃなくて、クラスのイケてるヤツと仲良くなるために、そいつらに合わせて一緒に行動したりするヤツが、僕は一番面白くなくないと思うんですよ、大人になって。

それよりは、学生時代ずっと一人で過ごしていても、自分の好きなものがはっきりあるヤツは、その後、面白くなれると思うんですよ。

—佐々木さんの新刊からは「熱中して取り組んで頑張ってきたものがあれば、いざその目標がなくなってしまっても、次の新しい目標が見つけられる」という思いが伝わります。その次の目標を見つけて行動に移せるのは、やはり苦しい時も野球を貫いた自分自身への信頼からだろうなって思います。

自分自身は「貫いた」ってほど、かっこいい感覚ではないんですけどね。なんですかね。僕の場合は、野球をずっとやってたっていうのがあるので、野球に対して熱量を持ってしゃべれるわけじゃないですか。そして何かに「熱量のある人」って面白いじゃないですか。だからそこの感覚、「熱量」がないと……なんだろうな。

—「熱量」ですか。エバースのお二人をよく知る、構成作家の山田ナビスコさんが過去のインタビューで「佐々木がどうしてもネタの中に元阪神タイガースの鳥谷敬を入れたがって、でもそれだとお客さんがわかりづらいから取れば?」と提案してもそこは頑なだったと。

そう(笑)。いや、自分が面白いと思ってることを貫くのは、一長一短ではあると思うんですけどね。僕、学生お笑いの出身の人とかはそのあたりめっちゃ器用なイメージがあって。

学生お笑い出身の芸人との違い

どういうところが器用なんでしょうか?

学生お笑いは、部活動とかサークル活動でお笑いをやること自体が、青春ということじゃないですか。青春でお笑いをやっていた、学生お笑い出身の人たちって。

だから、人を笑わせる術とか、これをやったらウケるみたいなのがめっちゃ上手いというか、鍛えられて備わってる感じがするんです。だけど、学生お笑い出身じゃない芸人は、別のものに青春してきた、お笑いじゃないものに。

だから何かお笑い以外にも面白さを見出して、それを面白いと思ってる人間だから、なかなか最初はお客さんに合わせにくいとかはあるのかなとは思うんですよ。

なるほど。佐々木さんの場合は青春をかけてきたものが野球で、そこでの面白さやウケることが基準になっていた。

そうですね。ただその分、学生お笑いの人たちにはない「俺はこれが面白いと思うんだ」っていうのがあるから、彼ら彼女らに負けないものを持っている自信もあるんですよ。学生お笑い出身の人たちは「お笑いファンが笑うこと」「ファンが面白いと思うこと」をするのはうまいけど、自分が面白いと思っていることをするのは、俺らのほうが向いてるみたいな感覚というか。

すごくわかりやすいです。エバースはなかなか漫才で結果が出なくても「まだまだアウトプットのやり方が下手なだけで、もっとやったらもっと絶対に上手くなるだろう」と考えていたとも佐々木さんはおっしゃっています。それは確固たる自信ですよね。

でもそれって、M-1で決勝に行くっていう結果が出たから持てた自信の気もしますが(笑)。まあでもそうですね、自分のやり方で間違ってないんかな、みたいなものはある気がします。

後編「芸人として絶対にしたくないダサいこと」へつづく

取材・文/西澤千央  写真/垂水佳菜

『ここで1球チェンジアップ』(太田出版)

佐々木隆史 エバース
「今も悔しくて高校野球は見られない」エバース佐々木が明かす甲子園への未練と、野球で培った“自分の笑い”への自信
『ここで1球チェンジアップ』(太田出版)
2026年7月14日1980円(税込)240ページISBN: 978-4778341404憧れの甲子園には届かなかった。でも、芸人という次の夢を見つけた——
『M-1』2年連続決勝進出のエバース・佐々木隆史の初エッセイ!

宮藤官九郎 推薦!

「共感しかない」
エバースの漫才が大好きな理由が良くわかりました。
ここは世界の中心じゃないし、自分は主人公じゃない。
そう思って生きて来た人間の「恥ずかしい」に対する異常なまでの警戒心。
なるほどな。町田くんは、恥ずかしい世界に押し出された生贄なんだな。

M-1グランプリ』2024、2025と2年連続で決勝進出を果たしたお笑いコンビ・エバース。
そのネタ作り&ボケ担当である佐々木隆史が、自身の半生を綴った初のエッセイ集が刊行。
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