驚きのニュースとして世間の注目を集めた、現役中学生にして最小年プロ棋士となった藤井聡太4段の活躍。
その藤井が今なお棋界のトップに君臨する羽生善治3冠と、AbemaTVの対局企画で勝負して固唾をのんだが、なんと勝敗の行方は111手で挑戦者である藤井4段が勝ち切るという結果となった。


しかしながら、その藤井と対戦した羽生善治という棋士こそ、そのずば抜けた異例の強さで中学生にしてプロ棋士デビューを果たし、前人未踏の記録を次々に達成してきた比類なき天才なのだ。そんな羽生善治の偉業はいったいどんなものなのか?

唯一無二“七冠独占”という大記録


羽生善治が将棋ファンならずとも広く国民にまで知られるひとつの偉業は、やはり史上初のタイトル棋戦全七冠(竜王・名人・棋聖・王位・王座・棋王・王将)の独占にほかならないだろう。

19歳で初タイトルとなる竜王を獲得し、その後王位争奪の勝負を繰り返しながら6冠を達成する。その後1996年におこなわれた第45期王将であった谷川浩司王将との対戦に勝ち、将棋界初めての全冠制覇という偉業を達成したのだ。

羽生善治の七冠という前代未聞のニュースは、NHKでも速報が出されたり、新聞等でも大きく報道されるほど驚異的な記録として知られた。
しかしながら、この七冠独占については、同じ年の棋聖戦で敗北したことにより、わずか167日間での幕引きとなってしまうのだが、羽生本人は「通常に戻れるのでホッとした」と語っている。

すべてのタイトルホルダーの半分が羽生善治!?


じつは七冠達成の他にも羽生善治ならではの歴史的記録というのは数多くある。
七冠をそれぞれ複数期獲得すると得られる「永世称号」の資格を6つ保持し、史上初の「永世六冠」というタイトルを得ている。


また、通算の一般棋戦優勝回数では、棋界の名人といわれた大山康晴とならぶ44勝と歴代1位タイになっており、通算タイトル獲得数については大山康晴を凌ぎ歴代1位。そのうえ獲得賞金も15年連続1位だ。
「10年間内にタイトルホルダーが70名いたとするなら、そのうち半数35名は羽生善治だ」とネット上でネタにされるほどである。

チェスもかなり強い羽生善治


羽生の将棋の所作として有名なのが、勝ちを確信したときの手の震えだ。
2003年に19歳だった渡辺明5段との王座戦に勝利したのだが、局面終盤になり羽生の手が震えだし、駒がまともに持てないまでになっていた。
その後、幾度と羽生にこのような現象が見られるが、将棋界ではこの状況を「羽生が勝利を確信した時」と語られている。


また、羽生は将棋以外にも趣味にもなっているチェスの強さが有名だ。七冠達成の時期より覚えたそうだが、その強さは相当なもの。
国際チェス連盟からのタイトル称号(FM)を与えられているほどであり、日本国内でのチェス大会では優勝もしているため、国内1位の記録を持っている時期もあった。
羽生自身は、「将棋とチェスは全く違うもの」と語っているが、過去には将棋とチェスの同時打ちなどの変則ルールでの対戦も試みている。

対戦時には寝癖がトレードマークであったり、年配の対戦者を前に上座に座ってしまうことがあったり、何かと天然っぽい様子も隠しきれない性格の羽生。そんな側面も魅力かもしれないが、七冠を達成した1996年には女優だった畠田理恵と結婚し、2児の父にもなっている。


いざ勝負になると予断を許さない戦術を巧みに進めていくところは、天才棋士の名に恥じない大きな強みだが。強い若手が台頭してきた今後も、どんな記録を更新するのか期待したい。
(空町餡子)

※イメージ画像はamazonより将棋から学んできたこと これからの道を歩く君へ (朝日文庫)