今でこそ、Aクラス入りが当たり前となっている阪神タイガース。
しかし、80年代後半から00年代初頭にかけては“暗黒期”と呼ばれる長い低迷期にあり、特に1995年から2001年までの7シーズンは6度も最下位に沈むという状況にありました。


90年代阪神を彩ったダメ外国人たち


そんな“ダメ虎”における象徴の一つが、毎年彗星の如く登場しては去って行く、助っ人になっていない助っ人外国人たちです。
メジャー通算成績が凄かったり、春先で抜群の好成績を残したりしながら、いざシーズンが始まってみるとまるで戦力にならず、シーズン途中か終了時に帰国……というのが様式美化されている感さえありました。

特に、開幕前に“バースの再来”と銘打たれる長距離砲はだいたい地雷。MLB10年通算226本塁打ながら、日本では圧倒的な低打率と三振数を誇ったロバート・ディアー(1994年)、確実性のない打撃からファンから「ハイアット、はいアウト」と揶揄されたフィル・ハイアット(1997年)、「2軍に落とせない契約」を結んだため低調な成績ながら1軍に居座ったマイケル・ブロワーズ(1999年)など、枚挙に暇がありません。

しかし彼らはまだマシなほう。これらネタ系外国人選手の中でも、群を抜くダメさ加減で半ば伝説化しているのが1997年、MLBの名門ボストン・レッドソックスから鳴り物入りで加入したマイク・グリーンウェルです。

凄かったグリーンウェルのメジャー時代


グリーンウェルは、アメリカ・ケンタッキー州出身の外野手であり、メジャーリークではレッドソックス一筋12年。テッド・ウィリアムズ、カール・ヤストレムスキー、マニー・ラミレスら歴代の名選手を輩出した伝統の左翼でプレーし、1986年にはワールドシリーズの出場にも貢献しています。


個人としても、MLBオールスターゲームへ2度出場。1988年には打率.325・打点119・本塁打22・OPS.946という抜群の成績により、シルバースラッガー賞を受賞し、MVP投票では2位となる得票数を獲得。
MLB通算成績で見ても、打率.303・打点726・本塁打130という実績を叩きだしていました。

球団史上最高額! 年俸3億円以上で契約


この大物を獲得するために、阪神は球団史上最高額の年俸3億円オーバーという破格の条件を提示。
これを快諾したグリーンウェルは、1997年の年明けに来日。報道陣を前にギターの弾き語りで六甲おろしを披露したり、春季キャンプに臨む際、リストバンドをレッドソックスの「赤色」からタイガースカラーの「黄色」にしたりするなど、チームになじもうと努力しているように見受けられました。

そんなグリーンウェルに対し、阪神は礼をもって尽くします。
従来5文字しか入らなかった甲子園球場の電光掲示板を、7文字まで入るように作り変え、彼のために家賃150万円もする神戸市内の高級マンションを借り上げもしました。「部屋が狭い」と言われれば、リノベーション工事で壁をぶち抜き、2倍の広さにしてあげたことだってあります。

それもこれも好成績を残してもらうためであり、暗黒時代を打ち破る起爆剤になってもらうためでした。

試合ではそこそこ活躍していた


しかし、2月中旬から暗雲が立ち込めます。「牧場と遊園地経営の契約更新のため一時帰国したい」というグリーンウェルからの突然の申し出に、渋々ながら応じる阪神。
すると今度は「背中が痛いから当分アメリカに留まる」との連絡が。戻ってきたのは4月下旬。
シーズン開幕から1か月が経とうとしていた時期でした。

試合に初出場したのは、5月3日に甲子園球場で行われた対広島戦。調整不足で多少ふっくらした風貌ながら5番を任せられたグリーンウェルは、5打数2安打2打点と活躍。翌日に行われた試合でも勝ち越しの2点タイムリーを放つなど、きっちりと期待に応えます。

その日のヒーローインタビューでは「毎日5万5千人のファンが来てくれれば、選手たちはみんなもっと活躍するよ。応援してください」と一言。
4月に連敗が重なり、早くも下位に沈んでいた阪神にとって、まさに救世主ともいえるグリーンウェルにファンは大きな期待を寄せていたものです。

しかしまさかこの数日後、5万5千人のファンどころか、全国の野球ファンを敵に回す暴挙に出るとは誰も予想しなかったことでしょう。

自打球で骨折→「神のお告げ」で引退


5月11日、対巨人戦においてグリーンウェルは、自打球をもともと痛めていた右足甲に当てて骨折。その時はわりとナチュラルに歩いていたにもかかわらず、後日に球団事務所に現れたときは、ギブスでガッチりと固定した右足を、さも痛そうに引きずっていました。
そして、こう言い放ったのです。

「野球を辞めろという神のお告げがあった」

このような引退宣言をし、5月16日には帰国。
日本での通算成績は7試合出場で、打率.231・安打6・打点5・本塁打0……。振り返ると、1安打が5000万円以上という破格の契約だったわけです。

日本人とアメリカ人で宗教観に違いがあるとはいえ、まさか「神」を理由に多額の年俸を持ち逃げされるとは……。
阪神ファンのみならず、全野球ファンが唖然とした瞬間だったのは言うまでもありません。おそらく彼を超えるダメ外国人には、当分お目にかかることはないでしょう。
(こじへい)

※文中の画像はamazonより(ニューエラ) NEW ERA HANSHIN TIGERS 【PINCH HITTER 9FORTY NPB CLASSIC/BLK-GOLD】 阪神タイガース