「シベリア」という食べ物をご存知だろうか。
友人・知人20名に聞いたところ、知っていたのは5名だけ。
いずれも30代~40代の男性で、うち4名が関東地方の出身。が、知らないと答えた人も、写真を見ると「ああこれか」。名前は知らぬが昔確かに食べた、そんな懐かしさ溢れるお菓子だ。

大正5年以来シベリアの製造・販売を続ける横浜の「コテイベーカリー」さんによると、シベリアが生まれたのは明治後半から大正初期。ちょっと変わった名前の由来は、「ようかんが大雪原を走るシベリア鉄道に見えるから」、「カステラとようかんがシベリアのツンドラの地層に見えるから」、「日露戦争に従軍した菓子職人が発明したから」、「ロシア革命で神戸に亡命した貴族の姫君が、恋人が眠るシベリアの凍土を想い作ったから」など諸説あるそうだ。

ところで、シベリアは昔、喫茶店のメニューにも載るほどメジャーだった。
シンガーソングライター・あがた森魚の『最后のダンスステップ』にも登場する。給食に出たこともあるという。しかし、今ではその名を知る人も少なくなってしまった。コテイベーカリーさんに、歴史について聞いてみた。
「シベリアは和菓子のようですが、パン屋がパン焼き釜の余熱を利用して作っていたので、パン屋で売られていました。また、シベリアに使われるカステラは卵を多く使用するため高級感があり、喫茶店などでも出されていました。
戦後しばらくまでは、シベリアを作る町のパン屋も多くありましたが、食生活の欧米化・多様化、スーパー・コンビニの台頭で町のパン屋は廃業せざるを得なくなり、シベリアも姿を消したのです」

シベリアの製造には、結構な手間暇がかかるという。最近のおしゃれなパン屋さんで見かけないのはそんな理由かもしれないが、シベリアの人気、実は近年高まっているという。
「意外なことに男子中高生にも人気があります。若いサラリーマンの方も増えました。男性向け青少年マンガで取り上げられることが多く、『男のスイーツ』という側面があるようです。若い女性の方は『レトロかわいい』という感覚のようです」(コテイベーカリーさん)

シベリアの中身は、水ようかんだったり、普通のようかんだったり、あんこだったりといろいろ。
特に決まりはないそうで、お店の工夫次第だという。そして、特にこの地方のお菓子、ということもないという。シベリアを「知っている」「知らない」の違いは、「近所のパン屋さんにシベリアがあったか」「あがた森魚の歌を聞いたことがあるか」の違いだったようです。
(R&S)