お風呂上がりに一杯の牛乳、というおなじみの習慣がある我が家で、ある日母がぽつりとつぶやいた。
「牛乳って冬になると濃くなるんだよね」
何も知らなかった私。
牛乳は年中同じ味ではないのか? それは常識なのか? 真相を確かめるべく、さっそくリサーチしてみることにした。

まず自宅にあった「森永のおいしい牛乳」(成分無調整)のパック側面を見てみると、「乳脂肪分3.5%以上」とある。この「以上」というのが何やら怪しいじゃないか。当然ながら、牛乳は生き物から絞られたもの。成分は機械的にいつも一定と決まっているわけではないのかもしれない。

森永乳業株式会社広報IR部の梶さんにお話を聞いたところ、「牛乳の味が季節によって変化するのは本当です。
冬になると牛乳に含まれる脂肪分が高くなり、濃く感じられるようになります」とのご回答。脂肪分の高い冬の牛乳は濃厚な味、脂肪分の低い夏の牛乳はサラッとした味になるというのだ。一般に「成分無調整」と書いてあるものは、その言葉の通り、絞ったそのままの牛乳を殺菌処理してパック詰めしているので、森永乳業の製品に限らずこのような変化があるという。

変化の原因は何か。梶さんによると、牛乳の味は育てる環境やえさなど色々な要因で変化するが、一般的に牛は暑さに弱いため、夏になると食べるえさの量が減って体内の脂肪分が低くなり、その結果、乳に含まれる脂肪分も低くなる。それに対し、冬の牛乳は脂肪分が高くなるということだ。

知り合いの酪農家にも聞いてみると、季節によって与えるえさが違うことも牛乳の成分を変化させる要因だという。夏は青草を食べたり水をたくさん飲むため脂肪分が低くなり、冬は貯蔵しておいた水分の少ないえさを食べるため脂肪分が高くなるそうだ。

こう聞くと、やはり飲み比べてみたくなるが、そこには賞味期限の壁が立ちはだかる。通常、牛乳の賞味期限は2週間ほどなので、夏と冬にそれぞれ絞ったものを同時に飲み比べることは当然ながら不可能だ。味の変化は感じることができるのだろうか?

「脂肪分の変化はゆるやかなので、一般の人が同一の商品で味の変化を感じることは難しいです。季節が変わる時期に2カ月くらい飲まずにいて、久しぶりに飲めばわかるかもしれませんが……」(梶さん)

味比べの実現はなかなか難しいようだ。


せめて脂肪分の高低による味の違いを感じてみようと、「森永のおいしい牛乳」の成分無調整(乳脂肪分3.5%以上)と低脂肪牛乳(乳脂肪分1.5%)を飲み比べてみたが、若干“のどごし”の違いを感じる程度で、味の違いは想像していたよりもわずかだった。季節変化も明確にわかるほどではないのか? それとも私の味覚が鈍感なだけなのか?

その答えは、この酪農家の言葉に隠れている気がする。
「牛乳は、暑い夏はサラッと飲めて、かつ栄養がたっぷり。冬はちょっと濃い牛乳を飲んで脂肪をつけ、寒さから体を守る。牛乳の成分の変化は自然の理にかなっているんです」
人間の味覚も、自然に季節変化をしていて、ひょっとしたら違いを感じないのかもしれない。知れば知るほど自然は奥が深いと心から思った。

(ミドリ)