『息もできない』『牛の鈴音』など自主制作映画に脚光が当たる韓国にて、撮影費500万ウォン(約35万円)・総制作費2000万ウォン(約142万円)という手作り感覚の超B級SF映画が登場し、国内映画ファンの間で注目を集めている。

この作品『招かれざる客(不請客/the uninvited)』は、アパートで共同生活を送る万年受験生と2人のニートが、寿命銀行からやってきた4次元怪人ポイントマンとの契約により、部屋ごと宇宙に拉致されるという破天荒な物語だ。

SFとは言えほとんどの舞台が貧相なアパートの室内であり、いかにもなCG合成が独特なチープさをかもし出す。作品内には不条理な笑いであふれているが、就職難・ワーキングプアといった社会への問題意識を背景に持っており、ユーモラスなだけではない、ひとくせもふたくせもある作品となっている。

個性的すぎて見る人を選びそう……というのが筆者の率直な感想だが、この『招かれざる客』は今年7月、富川ファンタスティック国際映画祭(韓国富川市)で初めて上映され、口コミでチケットが完売するなど大きな話題に。9月には独立映画専門の劇場から上映を開始したが、10月にはソウル近郊のシネコンまで上映の場を拡大している。
「想像力の大胆なスケール」「アンドロメダまで飛び出すアストラルな才能」と絶賛する映画評論家も。またその題材からか、特に「韓国の2ちゃんねる」と称されることの多い掲示板サイト、「DCインサイド」ユーザーたちの心をがっちりつかんでいるようだ。


同作品がデビュー作となったイ・ウンイル監督は、寄せられる高い評価について「自分でも不思議です。韓国にはSF作品が少なく、しかも自主制作でSFという部分が受けたのかもしれません」と話す。
イ監督がこの作品を撮影したのは、弁理士試験を放棄しインドを放浪、その後1年だけ勤めた会社を辞めた29歳の頃だ。400万ウォンの貯金を資金とし、自分が住んでいた安アパート(家賃20万ウォン=約1.4万円を3人で払っていた)を舞台に、一緒に住んでいた本物の司法試験受験生たちを俳優にキャスティング、撮影を始めた。監督自身もニート役・ポイントマン役の二役を演じている。

撮影費用を抑えるために、ガラスが割れるシーンでは、溶かした砂糖で作った透明な板を用いるなど試行錯誤を繰り返した。
10カ月の撮影で、親から援助してもらった100万ウォンを含む500万ウォンを使用。なお、そのうち最もお金がかかったのが、スタッフの食費だという。
撮影は終えたものの、CGやサウンドなどの制作作業にお金が足りず、資金集めに奔走し、3年後の2010年に、ようやく完成の日の目を見ることに。

低予算でも想像力次第で面白いSF作品が作れることを証明したこの作品は、韓国映画において全く新しい立ち位置にいることは間違いない。
「独立映画のスケールでは撮れないアイデアがたくさんあり、今後は産業映画の場で活動していきたい」と語るイ監督。彼の作品が日本でも観賞できる日を待ちたい。

(清水2000)