バイクって、普通は何を燃料にして走りますか? 「ガソリン」ですよね。ということは、CO2が排出されてしまう。

じゃあ、もしも「水素」で走ることができたならばどうなるか? それは、“エコ”です。
そんな“水素バイク”、「井上ボーリング」(埼玉県川越市)が現在開発中だそうです。

しかしだ。水素で発電し、モーターで走行する“燃料電池車”という車は、すでに世に出ているわけで。
……それとは、違うんです。同社が開発に取り組む“エコバイク”の仕組みは、もっと手っ取り早い。


では、理解しやすいように両者を比較しましょう。
・燃料電池車
水素で発電し、モーターで走行する
・水素バイク
従来のエンジンに専用のタンクを付け、ガソリンの代わりに水素を直接燃やして走る

後者の方式の意義深さは、“そもそも”まで遡ることでつかめてきます。
「ウチが開発する水素バイクは、2ストのエンジンなんです」(同社・井上社長)
オートバイのエンジン形式には、「2スト」と「4スト」の二つがあるのだそう。小型でパワーがあり、出力特性が面白くてオートバイにピッタリなのが2ストエンジン。しかし、2000年を最後に、日本のメーカーは2ストバイクの製造を止めてしまっている。理由は、排気の問題。
簡単に言うと、排気が汚い。大気に優しくない。
「でも、2ストはオートバイにピッタリなエンジンですし、今でもファンは非常に多いです。そこで2スト延命策の案として、この水素で走るエコバイク開発に取り組み始めました」(井上社長)
水素で走るならば、排出されるのは水蒸気(CO2は98%以上削減される)。なるほど、2スト派が嬉しくなるようなエコ対策じゃないですか!

しかしだ。この水素バイク、まだまだ完成には程遠い模様。
一回の充填には3,000円かかるし、一回の充填で走行できるのは10分間のみなんです。
「ウチみたいな小さいショップが開発に取り組んでも、限界があります。だから、大きなメーカーが真似してくれればいいなぁ……と」(井上社長)
えっ、パクリ大歓迎ですか!?
「はい、あえて特許は取りません。というか、大きなメーカーでしたら社内では既に研究に取り掛かっていると思います。技術的には、そんなに難しくないですし」(井上社長)
実は、“時代の流れ”も追い風になっている。トヨタやホンダが燃料電池車を製造したことで、ガソリンスタンドならぬ“水素スタンド”が各地に設置され始めた。
インフラ的にも、現実的な話になってきたのだ。

こうなると、現状の課題は自然に解消されていく。
「我々が手に入る水素はおよそ147気圧で、水素ステーションで提供される水素は700気圧。その差は、5倍です。また、タンクの問題も解消されます。現状の水素バイクのものと比較し3倍の量の水素が入るタンクがあるのですが、そのタンクを特注で作成するには1000万円ほどかかります。
当社ではそこまでできないので、ぜひ大手メーカーに介入していただきたいです。ウチの取り組みは、あくまで“提案”だとお考えください」(井上社長)
大手メーカーの参入が本格化し、水素バイクが大量生産されれば、井上ボーリングも本望。タンクが3倍に、気圧が5倍になれば、単純計算で15倍。10分×15で、150分の走行が可能になるじゃないですか!

そして水素バイクのメリットは、もう一つある。
「現在、エンジンの付いたオートバイやクルマは世界に約9億台あります。これらを全部乗り換えるとしたら、新たに専用の工場を作ったりで、製造過程で膨大なCO2が排出されます。
しかしこの水素バイクならば、作る過程でCO2は出ない上に、走ってもCO2は出ません。究極のエコバイクです!」(井上社長)

いや、本音を言うと真意は別にある。この取り組みは、オートバイに対する愛情の裏返しなのだ。
「全てを新しいオートバイに乗り換える必要はない。過去に誕生した数々の名車に少し手を加えれば、“エコバイク”へと生まれ変わる。これは、ファンの思いでもあります」(井上社長)
そういう意味でも、水素バイクにエンジンを残すことはマストだった。
「僕らはエンジン屋なので、エンジンが末永く残ってほしいと思っています」(井上社長)

エコの時代だからと言って、今あるオートバイから乗り換えちゃうのは世知辛い。名車への愛とエコの精神は同居します。
(寺西ジャジューカ)