いよいよ11月10日(土)から公開されるアニメ映画「ねらわれた学園」
特集の第2回は、中村亮介監督インタビューの前編です。
2008年にTV放送された監督デビュー作「魍魎の匣」でも、京極夏彦の人気小説を、妖しくも美しい映像のアニメーションへ生まれ変わらせた中村監督。初めて劇場アニメの監督を務めた今作ではみずから脚本も務め、1973年刊行のSFジュブナイルの名作を、現代に生まれ変わらせました。
(第1回の渡辺麻友さんインタビューはこちら

――初の劇場アニメ監督作品、公開間近ですが、今のお気持ちは?
中村 作品って、観られるまでは作り手のものだけど、観た後は観た人のものだと思っているんです。だから、受け手の皆さんにどういう風に観られるのか、すごいドキドキしていて。本当に緊張しますね。楽しんで頂けたら一番というか、それに尽きるんですけど。
「ねらわれた学園」はきっと、観た方によって感じ方も違えば、解釈も違う、楽しんだポイントも違う、文学的な作品だろうと思うんです。ひと通りの解釈や説明に、わざと限定していない部分もあって。いわば行間を広くとってある。だからすべての方に、その人なりの違う楽しみ方で、映画館での時間をすごしてもらえたなら、一番嬉しいですね。
――私は、先日の試写で拝見して、非常に楽しませて頂きました。
中村 ありがとうございます。

――そもそも、どのような経緯で、「ねらわれた学園」という作品をアニメ化し、その監督を務めることになったのでしょうか?
中村 制作したサンライズ第8スタジオのプロデューサーの平山(理志)君と、僕が監督する良い原作はないか考えていて。いくつか候補があった中でも、一番やれたら良いなと思っていたのが「ねらわれた学園」で。僕らは大学のとき、同じ児童文学のサークルに所属していたんですね。だから、二人ともジュブナイルSFが大好きだったんですよ。
――原作の「ねらわれた学園」は、読書や映画が好きな人なら、読んだことが無くても、タイトルは聞いたことがあるだろうというくらいの作品ですよね。
中村 有名ですよね。
眉村(卓)先生の作品は、他にもたくさん読んでました。「ねらわれた学園」は改めて読み返してみても、すごく面白かった。僕は、昔読んだ児童文学を読み返すのが好きなんですけど。読み返したとき、多少がっかりする作品と、大人になった今読んでも、楽しく読める作品とがあるんですね。「ねらわれた学園」は後者で。本当に面白くて、グイグイ読んでしまいました。

――1973年に刊行された原作では、当時の中学校が舞台になっていますが、今作では舞台を現代に移し、新たな物語が描かれています。中村監督は、脚本から手がけられていますが、どのようなスタンスで原作小説に向き合われたのでしょうか?
中村 まずは、原作の良さを最大限引き出せるような映画でありたいと。それも、新しい切り口で。これまでに何度か映画やドラマになっている作品なので、同じ切り口でやるなら、そちらを見ていただければ良いということになりますから。なぜ今、なぜアニメでやるのか。その意味があって、初めて、この作品を知らなかった若い人にも楽しんでもらえる映画になると思ったんです。
そのために、時代設定を現代に変えたり、この作品に適したアニメーション表現を模索したり。自分なりに試行錯誤しましたが、なによりも原作に対する敬意を忘れずに、作っていきたいと思いました。
――ストーリーも、キャラクターもオリジナルですが、先に生まれたのは?
中村 僕は、同時に進めていくタイプなんですが、今回はどちらかといえばストーリーでしたね。原作のストーリーの大きな枠組みは変えたくなかったんです。未来から謎の少年がやって来る。その少年が、超能力を学校の中に広めていき……という原作の流れは必ず守ろうと思いました。
その上で、舞台を現代に置き換えて。彼が未来から持ち込む超能力は何か……すなわち現代的なテーマは何であるべきか、考えました。原作だと、ファシズムに主人公たちが対抗する話になるんですけど、現代の中学校の中にはたぶんファシズムは無いと思うので。
――1970年代当時ならではのテーマですよね。
中村 なので、現代の中学生にとって切実な問題というのは、年齢的にも時代的にも、コミュニケーションの問題かなと考えて、それをテーマの中心に置きました。
――そのテーマを描くために、携帯電話がキーアイテムになっているわけですね。
中村 実際には、今はソーシャルネットワークの時代なので、携帯というアイテム自体、古くもあるんですけど。何か1つのアイテムに集約しないと、この尺の中では話が分かりにくくなってしまうので。
――たしかに、TwitterとかSkypeとかLINEとか、コミュニケーションツールの種類も増えているので、手を広げるときりがないですね。
中村 しかも、ビジュアル化もしにくいですし。だから、いろいろな意味で分かりやすくするために、今回は携帯というツールに絞って描いた感じです。それでもこのテーマって、難しいぐらいだと思うんですよ。
――では、4人のメインキャラクターは、どのように生み出されていったのでしょう。ナツキとケンジがダブル主人公のような形ですが、先に生まれたのは?
中村 ケンジが先ですね。原作も少年が主人公だったので。そこで悩んだのが、今の時代のヒーローを、どう描くかということなんですけど。戦隊物に例えると、(昔ながらの)レッド的なキャラクターって、今は主人公にしづらいんですよ。
――真のリーダーといったキャラが、主人公になる作品は少ないですね。
中村 だから、普段は特に目立つわけでもなく、すごく自然体な子。だけど、事件が起こっていく中で、普段どおり自然体だからこそ、だんだん光って見えてくる。そんなキャラクターが、今の時代の一つのヒーロー像なのかな、と。
――ケンジは、まさにそういう少年ですよね。非常に素直な少年ですが、物語の序盤では、いわゆるヒーローらしさをまったく感じさせません。
中村 僕自身が中学生の時、友達同士の間でも、素直になれなかったところがあって。
――変に格好つけちゃうような?
中村 ですね(笑)。だから、そういう気取ったところが全然ないキャラクターに対して、すごく憧れがあるんですよ。最初は格好悪く見えるけど、みんなが切羽詰まっても自然体で変わらないから、だんだん格好良く見えていくるような主人公でありたいなと。なので作品の中では、ケンジ本人よりも、「他の人には魅力が分からなくても、自分だけはケンジが好き」と思っているナツキに、僕自身の思いは一番投影されているかもしれません。
――ナツキ目線で、自分にとってのヒーローであるケンジを見てる感じですか?
中村 そう言ってしまうと、性別が違うので、ちょっと変な気もしますけど(笑)。ケンジのように、自然体でいられたらなって憧れるんですよ。今の時代、ありのままの自分でいられることが、子供のときだけでなくて、大人になっても、何より難しいことだと思うので。
――非常事態以外は、ぼや~っとした、ただの男の子ですよね。
中村 そうなんですよ。宮澤賢治風に言うと「でくのぼう」みたいな。非常事態以外は、それで良いのかな。僕自身そうありたいな、と思ったりもしますね。
――ナツキは、幼なじみのケンジへの思いを伝えられず悩んでいるわけですが。絶対に、「なんで、私はこんな男の子が好きなんだろう」とも思ってますよね(笑)。
中村 そうそう(笑)。そこから(物語が)始まりたいなと思ったんです。
――では、物語のキーパーソンである謎の転校生・京極についても教えて下さい。
中村 学校の中に波紋を引き起こしていくキャラクターなんですけど、それだけで終わるのではなく。物語の中で、必ず彼の内面にも入っていきたいと思いました。自分なりにそれを探しながら、シナリオだったり、絵コンテだったりの作業を進めていった感じですね。
――中学生というのは、精神的にすごく大人っぽい子もいれば、まだまだ子供の子もいる微妙な年齢ですよね。
中村 そうなんですよね。
――そんな中学生たちをメインキャラクターとして掘り下げ、描いていくのは大変だったのでは?
中村 まずは、自分自身が中学生を分かったつもりにはならないよう、心掛けました。中学生について考えたり、自分の中学時代を思い出したりするとき、参考にしたテレビ番組が二つあって。一つは、NHKの番組で。アンジェラ・アキさんが、「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」という曲を、中学校の合唱コンクールの課題曲として作るドキュメンタリーなんですけど。アンジェラさんが15歳のとき、30歳の自分に宛てた手紙を書いて、お母さんに預けていたんです。その手紙が、30歳になったとき、そのことをすっかり忘れていたアンジェラさんのところに届くというエピソードから始まるんですけど。
――タイムカプセルのようなものですね。
中村 はい。その手紙には、15歳のアンジェラさんの思いや悩みがつづられているんですけど。それは、30歳のアンジェラさんから見たら、取るに足らない小さな悩みに見える。でも、15歳の自分が毎日すごく悩んでいたという実感も嘘ではない。だから、30歳のアンジェラさんが15歳の自分に対して、「その悩みは取るに足らないことだよ」とは絶対に言えない。言えるのは、「大丈夫だから」ってことだけだ、という内容のドキュメンタリーなんですよ。
――良い話ですね。
中村 その番組を見て思い出した感覚なんですけど、中学生にとっては、家と学校と通学路が、世界のほぼ全てで。それ以外の場所は、自分の世界の中にはなかったように思うんですよね。だからその中で、何かすごく嫌なことがあっても、逃げ出す場所がない。大人から見てちっぽけな悩みに見えても、すごく真剣で切実な悩みなんです。しかも、大人になれば、悩みを言語化もできるんですけど、中学生の時は気持ちが未整理で。言葉にして客観的になれない分、余計につらかったりするんです。そういった感覚を、大人の感覚で雑に扱わないで、丁寧で繊細でありたいと思いました。
――では、もう一つ参考にした番組というのは?
中村 「手紙~」は、ある意味、真面目な一面で。もう一つは「アメトーク!」なんですけど(笑)。
――え? 意外な番組が出てきましたね(笑)。
(丸本大輔)

(後編に続く)