なぜだろう。
漫画や小説が映像化されると、なんか違う・・・と気になるところがよくあるものだが、7月11日からはじまった「ど根性ガエル」(日本テレビ 土9時〜)は、登場人物が16歳も年をとっているにもかかわらず、あまり違和感がなかった。

たとえ16年経過しても、実写になっても、シャツに貼り付いたカエルと共生し、「ど根性」で日々生きて行く男・ひろしの話であることは変わっていない。
原作のひろしはハイネックの長袖着用で、実写では半袖Tシャツになっていたが、あまり気にならなかった(気になってるひとがいたらすみません)。
「ど根性ガエル」はど根性さえあればOKなのか。今夜2話に備え、変わった点を検証する
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変わったとこ、変えてないとこ、いろいろあるが、基本「ど根性」でなんとかなってきた作品ゆえに、「ど根性」さえあれば、実写になっても、16年経ってもOKなのかもしれない。

取り急ぎ、変わった点と変わってない点を並べておこう。

変わった点


◯主人公ひろし(松山ケンイチ)
30歳で、無職。実家暮らしでふらふらしている。

◯マドンナ・京子ちゃん(前田敦子)
離婚して戻ってきたら、黒京子になっていた。


◯ライバル・ゴリライモ(新井浩文)
パン工場の社長。ゴリラパンが売れてはぶりがよく、今度は選挙に打って出る。しかもイケメンになってる。←このひとが一番激変驚愕!

◯教師生活25年の町田先生(でんでん)
教師生活41年、校長先生になっている。もうすぐ定年。

変わらない点



◯母ちゃん(薬師丸ひろ子) のほほんと、でも強くあったかくひろしを育て続けている。

◯梅さん(光石研)
52歳のいまも独身。
よし子先生(白羽ゆり)を想い続けている。

グレーゾーン


◯五郎(勝地涼) 性格はあんまり変わってなくみえるし、語尾に「ヤンス」をつけてるが、警察官になっている点は立派になった感じ。

もっともグレーゾーン


◯ピョン吉(声・満島ひかり)
なにごとも「ど根性」! は変わらず。
ひろしにシャツを常時着用されなくなって、母ちゃんが着ていることが多い。
ハイネック長袖シャツからTシャツに。そのシャツにはかぎざきがあるが、黄ばむこともなく真っ白。でも、ときどきそこからピョン吉がはがれだし、どうやら寿命が近づいてきているらしい。


プロデューサーの河野英裕にインタビューしたら、ピョン吉とはなんぞや? ということを解き明かすために「ひろしとピョン吉の別れ」を描こうと考えたと言う。

「ど根性」ですべてをまるっと解決してきたピョン吉に、もっと理屈をつけようとする真剣な試み。

一話で、ピョン吉がはがれかかっているのを見てしまった母ちゃんは、しきりにこんなことを言う(脚本・岡田惠和)。

「世の中には永遠なんてものはないんだよ、ひろし。いまあるものを大切にしないと」

「今日あるものがね、あしたもあさってもそのまたずっと先も変わらずにあると思ったら大間違いなんだよ。
ちゃんと大切にしてちゃんと護らなきゃ。

なんだっていつなくなったっておかしくないんだよ。
生き物の命だってそう。
変わっちまうのがいやならね、自分の力でなんとかすればいいだろう」


ピョン吉のことを暗にほのめかしているわけだが、つまり、ドラマのピョン吉は「ど根性」の象徴であると同時に、「不変」の象徴でもあるのだろう。

16年変わらなかったひろしの生活が、ピョン吉がいなくなったとしたら変わってしまう。死んじゃうかも? = 変わっちゃうかも? というおそれをドラマの軸にもってくることで、まるで、原作と変わっちゃうかも? という見る者のおそれの感情までも、そこに集約してしまっているかのような大技だ。

母ちゃんとひろしの家は、植物がたくさん育っていて、猫もいて、生命の息吹を感じさせる。

派手さはないけれどかけがえのない生活も、変わらないでほしいもののひとつだと感じさせるし、これらもまとめてピョン吉のなかに内包されているといっても過言ではない気がした。
ピョン吉をこれほどまでにリスペクトして描かれたドラマなので、ひとつもいやな感じがしないのかも。
「ゆるキャラになれ」と言われてしまう時代遅れの熱血キャラであるピョン吉だが、やわらかいアールで描かれた姿形はゆるキャラ的ともいえなくないし、すぐうるうるする瞳も愛らしく、満島ひかりの声も切ないし、2015年でも充分いけるキャラクターである。

死を覚悟して「走りたくなった」と言う1話の終わりもじわっと来た。

薄れていくピョン吉シャツを着て、街に佇む松山ケンイチのエンディング(歌はザ・クロマニヨンズ)もいい。

見る者それぞれの、変わってほしくない大切なものを思い出させるドラマになりそうだ。


第2話は、今夜7月18日、夜9時から。
(木俣冬)