フジテレビ系「刑事ゆがみ」(木曜22時〜)最終話。
呆然「刑事ゆがみ」最終話。オダギリジョーのパブリックイメージそのものがトリックだった、やられた!
イラスト/Morimori no moRi

オダギリジョーは、狂人、異常者、天才など、凡人には計り知れない世界を生きる役が良く似合う。


オダギリジョーを使った印象操作


そんなオダギリジョー演じる横島不二実は、全身真っ黒の服を着て、何話も前から意味深な登場の仕方ばかり。しかも、死んだはずだとか、カリスマ小説家だとか、自身の小説「ロイコ」に似た殺人事件「ロイコ事件」の犯人だとか。見ているこっちからしたら、横島は狂人だと想像せざるを得ない。

最終話の冒頭、今までほぼセリフの無かった横島が、フォークリフトをサンタクロースの格好で乗り回し、高笑いを浮かべながら海にマネキンを投げ入れる。そして、マネキンをヒズミ(山本美月)と勘違いして海に飛び込んだ弓神(浅野忠信)におしっこをかけてさらに高笑い。もう絵に描いたような狂人だ。

しかし、物語が進むに連れ、とんでもない事実が発覚する。
横島は、「ロイコ事件」の犯人ではなかったのだ。それどころか、小説もゴーストライターなしではまともにかけない似非カリスマだったのだ。

横島がやったことと言えば、ゴーストライターの河合武(渋川清彦)の才能に嫉妬し、その奥さんの伊代(酒井美紀)を襲ったことくらい。あとは、弓神の指示通りに動いただけだった。横島はただの小物だったのだ。小物がプライドをこじらせて、突飛な行動を取ってしまっただけだった。


オダギリジョーが悪のカリスマっぽい佇まいをしていたら、誰だってそれを信じるに決まっている。せいぜい逆に良い奴なんじゃない? と逆を想像することくらいしかできない。なのに、ただの小物。これはオダギリジョーのパブリックイメージを巧みに使った印象操作だ。ただただ、騙された。

1〜8話の弓神の言葉が返ってくる


「刑事ゆがみ」は、事情を抱えた罪を犯した者に焦点を当てることで、ドラマ性を生んできた。
弓神が犯罪を犯す人間の気持ちを推し量り、時には寄り添い、突き放すことで、犯人をおもんぱかるシーンが大きな見どころと言える。

最終回でそういった事情を抱えていたのは、他でもない物語の主人公・弓神だ。そんな弓神を羽生(神木隆之介)が尋問し、問いかけていく。その姿、口ぶりはまるでいつもの弓神のようで、物語を通して大きく成長したことをうかがわせる。

弓神が今まで犯人の気持ちをおもんぱかる事が出来ていたのは、自分にも大きな隠し事があったからだろう。だからこそ、人が抱えている秘密に誰より敏感だったのだ。
天才的な想像力で犯人を突き止めてきた弓神は、ただ、犯人と境遇が似ているだけに過ぎなかったのだ。

それだけに、今まで弓神が犯人にかけてきた言葉たちは、弓神にそのまま突き刺さる。「18年間罪悪感に苛まれて苦しかったはず」(3話)「他に方法はなかったのか?」(4話)「子供っていうのは親が思っている以上に敏感だぞ」(5話)「わかるよ、光希ちゃんの気持ち」(6話)。弓神は、他にも様々な言葉を犯人に投げかけている。これらすべては、自分とヒズミに向けて言っているように感じられてならない。

(沢野奈津夫)