大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 

第10回「篤姫はどこへ」3月10日放送  演出:盆子原誠

江戸で、島津斉彬(渡辺謙)のお庭方になった西郷吉之助(鈴木亮平)。
9話で、殿から、仕事柄、さまざまな秘密を知ることになるだろうと言われ、その秘密を守れないときにはこれを使えと、刀をもらった。

10話では、さっそく吉之助にたくさんの秘密が入ってくる。
“お庭方”から“篤姫付き用人”となる吉之助の目を通して、徳川政権の裏で密かに進行する、覇権を狙う企みが描かれるという寸法だ。
「西郷どん」10話。橋本左内役の風間俊介、幾島役の南野陽子が頼もしい
原作

ひとつめの秘密・ヒー様


島津斉彬から、一橋慶喜(松田翔太)と昵懇になるよう命じられ、水戸屋敷で出会ったヒー様が一橋慶喜なのか確かめに品川宿へ向かう吉之助。
ヒー様はすっとぼけて「牛男」とからかいながらも、吉之助の真剣さに根負けして、正体を明かす。
「こんないい男が世の中にふたりもいるわけなかろう」というセリフに、ヒー様のキャラがよく出ている。
そんなヒー様こと、一橋慶喜は「俺は将軍にはならん」と斉彬に伝えろと言う。
ヒー様の正体と彼の心のうちを、吉之助は知ってしまった。


ふたつめの秘密・篤姫


篤姫(北川景子)は、「大きくて強くて面白か男です」とすっかり吉之助に夢中であったが、薩摩の父・忠剛(すわ親治)の死を知らせる手紙が来ると、それどころではなくなって、城をこっそり抜け出してしまう。
吉之助が探しに出ると、着物を町娘と取替え、海で亡き父を想って泣いていた。
「悲しかときは泣いたらよか」「悲しみを絞りだすほど泣きもんそ」と吉之助に言われ、
しばし思い切り泣き叫んだ篤姫は、気持ちを切り替えすくっと立ち上がる。
もらい泣きする吉之助に、「メソメソするな、しっかりせい」と逆に励ますほどに。
生家を出て、島津家の娘として生きることを選んだ篤姫は、生みの親を想って泣くことすら許されないようで、
「今話したことはわれらだけの秘め事じゃぞ」と吉之助に釘をさす。
吉之助は、篤姫の本音も聞いてしまった。

みっつめの秘密・島津斉彬の野望


吉之助が品川宿で偶然出会った謎の蘭方医(風間俊介)はじつは福井藩士の橋本左内で、吉之助の住む部屋を訊ねてくる。
じつは密偵として行動していて、島津斉彬が衆議一致(みんなで一体になって政治をする)を目指し、一橋慶喜を次の将軍にする企てについて話し、吉之助を驚かせる。

なんにも知らない吉之助に「僕はひどく大きな勘違いをしていたようだ」「こんな男をかいかぶっていたとは」と左内は話をしたことを悔やむが、あとのまつり。
吉之助は、直接、斉彬に真意を確認すると、公方(又吉直樹)はカラダが弱いので、万が一のとき、一橋慶喜を将軍にしようと画策していることを聞く。
おまけに、公方に嫁ぐことになっている「於篤は不幸になる」と予想していていることを知って、愕然。
吉之助はとんでもないことを知ってしまった。

とまあ、第1話からずっと、あらゆる要人と吉之助が知り合いになり、あらゆる情報を知っているという、ひじょうに都合のいい話になっているが、そうしないと主人公が出てこない場面が増えてしまうので仕方ないのであろう。そこはあたたかい目で見ていきたい。


篤姫が、大奥の御台所になるための学びの一環である書で、「洪福」(大きな幸せのこと)を書いたことと、
最後に斉彬が「於篤は不幸になる」と言うところとが対になっていたり、吉之助と左内が、島津家の現況を話しているとき、篤姫が同じく、島津家の状況(関ヶ原の戦いに敗れて、200有余年も過ぎたいまでも、大名のなかでランクが一番下)を知ったり、話がただの状況説明にならないように工夫されているところも、プロのエンタメ作家の仕事だと思う。

風間俊介、南野陽子が魅力的


9話で、徳川斉昭(伊武雅刀)、井伊直弼(佐野史郎)、徳川家定(又吉直樹)、一橋慶喜(松田翔太)と
役者が揃ったと喜んだものだが、10話ではさらに橋本左内(風間俊介)、幾島(南野陽子)が登場し、
層を厚くする。

大河ドラマ初出演の風間俊介は、昨年10月クールの日曜劇場「陸王」(TBS)では、ときおり出て来て、主人公(役所広司)との絡みの場面を見応えのあるものにしていた。「西郷どん」でも、吉之助の仲間としていい仕事をしそうだ。
ジャニーズの俳優は主役という印象が強いが、近年は、脇にまわってもいい仕事するケースが目立ってきた。風間俊介はその代表格的存在で、主役もできるが、脇で抑制しながらも説得力ある芝居をする。

「バイプレイヤーズ」のような脇役を主役にしたドラマが支持されるように、一人だけが目立つ作品よりも
多様な人たちの群像劇が好まれる時代に、みごとにフィットした俳優といえるだろう。

篤姫の指南役・幾島役は南野陽子。
「控えよ」というときの鼻にかかった声が印象的。

「もす」
「もす」
「もす」
「もす」
「もすもすもすもすばっかりや」
 篤姫と吉之助が発する薩摩言葉特有の「もす」が癇に障るエピソードが面白かった。
幾島も薩摩の出でだが、篤姫が御台所になるには、薩摩言葉は封印しないといけないのだ。

南野が「許されません」と言ったとき、
彼女の代表作「スケバン刑事II少女鉄仮面伝説」での土佐弁による決め台詞「おまんら許さんぜよ」をなつかしく思い浮かべた視聴者も多いだろう。
このときは南野陽子がナマりっ子だった。

9話に一瞬登場し、一見、誰かわからないほどの化けっぷり(ふだんの髪型のインパクトが大きいだけなのだろうが)に視聴者を驚かせた公方役の又吉直樹は、10話でもちょっとだけ出演した。
写生していたら、対象の柿が落ち「落ちた、落ちた」と取り乱す。
その様子は、島津が言った「公方のカラダが丈夫ではない」ということよりも、心のほうが丈夫じゃなさそうに見えて、面白かった。

薩摩編から出ている、吉之助の友人・有村俊斎(高橋光臣)と大村格之助(北村有起哉)もコメディリリーフとして奮闘している。
「んにゃんにゃんにゃ」と盛り上がる格之助(「アンナチュラル」で情けをかけるところが1ミリもない悪党を演じた人とは思えない)、「グリッちひねった」「ガシッとあいないもうした」と騒ぐ俊斎。

このひとたちが出ると、なんだかほっこりする。
(木俣冬)