SMAPの分裂・解散騒動で日本中が揺れている。所属するジャニーズ事務所側はこの件について「協議・交渉」がなされている事実を認めており、今後の推移が注目される。


すでに多くの報道がなされているが、騒動の発端となったのは昨年1月に「週刊文春」で行われたメリー喜多川副社長のインタビュー記事。このとき、メリー喜多川副社長とSMAPを国民的アイドルに育てたマネージャーの飯島三智氏との間の軋轢が表面化し、昨夏頃にはSMAPのメンバーとともに独立する決意を固めたのだという。

ここで注目したいのが、昨年9月に発売されたSMAPの現時点での“ラスト”シングル「Otherside」(作詞:Leo今井、作曲:MIYABI)である。歪んだギターとアップテンポなリズム、縦横にかけめぐるホーンセクションが印象的なファンキーロックだ。
SMAP“ラスト”シングル「Otherside」に見える独立への決意と解散の危険性
『バンド臨終図巻』速水健朗 、円堂都司昭、栗原裕一郎、大山くまお、成松哲/河出書房新社

筆者は以前、『バンド臨終図巻』(速水健朗、円堂都司昭、栗原裕一郎、成松哲との共著、河出書房新社)という書籍で、古今東西の200に及ぶバンド、グループ、ユニットの解散について調査したことがある(5人の共著なので筆者の担当は40弱)。

バンドには「音楽性の違い」などではない、さまざまな解散の理由があると思い知らされたのだが、それとは別に個人的に気になったのが、“最後の曲に込めた解散メッセージ”である。


たとえば、先日再結成が発表されたTHE YELLOW MONKEYが解散前に発表したラストシングル「プライマル。」(01年)は、「振り切ったら飛べそうじゃん 今度は何を食べようか 卒業おめでとう」と歌う卒業ソングである。
吉川晃司と布袋寅泰によるユニットCOMPLEXのラストシングル「1990」(90年)は、「二人ならうまくやれるさ きっとやれる」と活動継続を求めるような歌詞だった(作詞は吉川)。
ぐっと遡るが、フォーク・クルセダーズのラストシングル「青年は荒野をめざす」(68年)では、「ひとりで行くんだ 幸せに背を向けて さらば恋人よ なつかしい歌よ 友よ」と歌われている(作詞は五木寛之)。これらはすべて、バンドが解散に向かっている時期に作られ、発表された曲である。

すべてのバンドが最後の曲にメッセージを込めているわけではないが、解散に向かっている際の心境が曲に反映することは大いにありうる。自ら作詞作曲を手がけていなくても、発注する主体、あるいは選択する主体はアーティスト側、マネジメント側にあるからである。


最後まで窮屈、変わらないなんてありえない


SMAPのラストシングル「Otherside」の歌詞をあらためて読んでみると、事務所からの独立についてのメッセージをそこかしこから読み取ることができる。

タイトルの「Otherside」とは「向こう側」「反対側」という意味だ。歌詞には「Othersideへ High Speedで まだ行こうぜ」とある。日本の芸能界の王道、中心にいるSMAPがあえて「反対側」へ行くとはどういうことだろうか? SMAPがジャニーズ事務所から離れることをイメージしてもおかしくはないし、そこまで直接的でなくても「今の地位を捨てて新しい道へと進む」という解釈は成立する。

歌詞の中には「最後までJammin’Tight」(最後まで窮屈)という現状を訴えるようなフレーズもある。「Thrill 感じて OK 切り開いて! Our way go」はそのままの意味だろう。
スリルを感じながら自分たちの道を切り開いていくという気持ちの表れである。

「We are forever」(俺たちは永遠だ)というSMAPとしてあり続けたいという意思表明がある一方で、繰り返し「We go wherever」(俺たちはどこへでも行くさ)とも歌われている。これは「Otherside」というタイトルとも通じている。

繰り返しといえば「Don’t be afraid」(恐れるな)とも歌われている。また、それに続く「No Way We Never Chage」は、「変わらないなんてありえない」という意味に取れる。これも「今のままではいられない」というSMAPのあり方の変化を示唆する歌詞ではないだろうか。


これらの歌詞がすべてメンバーの気持ちであると言うつもりはない。「Otherside」のカップリング(両A面)の「愛が止まるまでは」の歌詞について、中居正広は「歌詞の意味が今でもよくわからない」と語っている(WEBオリスタ2015年9月4日)。ちなみにこの曲を作詞作曲したのが不倫騒動を起こしているゲスの極み乙女の川谷絵音であり、独身主義を貫く中居が「よくわからない」と言っていることは、なんとなく納得できる。

だが、アーティスト側、マネジメント側が「Otherside」という曲を選択し、SMAPがデビューした日付けである9月9日に合わせてリリースしたということに、何らかの意味合いがあってもおかしくはない。騒動の発端が昨年1月なら曲の発注には十分間に合うし、夏頃には独立の決意を固めていたのだとすれば、SMAPの独立宣言のように見えるこの曲を9月9日にリリースするというタイミングはぴったりすぎる。

だが、事務所から独立すればSMAPという名前や過去の曲などをそのまま使うことができなくなる可能性だってわかっていただろう。
その意味でも「Otherside」はとてもスリリングな曲だったと言うことができる。もしこのままSMAPが解散してしまうようなことがあれば、そのレポートにはこの曲の名を刻んでおきたい。

なお、「Otherside」の歌詞がSMAPの独立を示唆しているということについては、すでに東京スポーツが昨年9月9日の時点で報道している。さすが東スポと言うほかない。
(大山くまお)