やられた。キュンキュンした。

今週号の週刊少年ジャンプ(2011年10号)に載っていた、福島鉄平先生の読み切り「月・水・金はスイミング」がスゴかった。

タイトルのとおり、スイミングスクールが題材のショートストーリー。スイミングスクールに通う千葉オサムくんは、同じ中学・同じスクールに通う有川マドカさんのことがちょっと気になっていたーーというお話。一応、恋愛マンガだけど、主人公とヒロインの関係は最後までほぼ平行線、会話のやりとりもほとんどない。

だけど、だけど……!
これがものすごくキュンキュンするんですよ!

実は僕も、小学校時代はオサムくんと同じ「スイミングっ子」だった。
スクールの送迎バスが来るのは17時25分ごろ。
バスの時間はけっこうまちまちなので、20分くらいには家の前に出てた方がいい。大好きなロボットアニメの再放送を、いつもいいところで切らなきゃならないのがもどかしかった。
バスは途中で何人かの子供を拾いながら、だいたい30分くらいかけて川向こうのスクールへ向かう。乗ってしばらくは一人だけど、15分くらいすると仲良しのYくんが乗ってくるので、話し相手ができて嬉しい。スクールが終わると、バスは子供たちを乗せてまた川を渡っていく。行きのルートをそのまま逆戻りするので、帰りはYくんが先に降りる。
そんな生活が6年間続いた。

「月・水・金はスイミング」でも、スクールへ向かう送迎バスの場面が何度も出てくる。オサムくんがバスに乗っていると、途中でマドカさんが乗ってくる。帰りはマドカさんの方が先に降りる。
年頃の男の子と女の子だから、僕とYくんみたいに一緒に座ったりはしない。マドカさんは別の友達と座っていて、おにぎりを食べたりしてる。
帰り道、オサムくんが一人でほっぺたを窓にくっつけて外を見てると、自然にマドカさんたちの会話が耳に入ってくる。ねえねえ、オニギリの具は何が一番好き?

それを聞きながら、「オカカ!」と心の中でオサムくん。
するとマドカさんも、「そうねえ…オカカかしら」。

きゃあああああ!

好きな具が一緒、ただそれだけの話。それで何か二人に進展があるわけでもない。オサムくんの表情にも特に変化はない。

でも、でも! この胸に突き刺さるような、甘酸っぱいキュンキュンは一体なんなんだ!

「クラスとスイミングが一緒」
ということ以外は
「自分とはなんのかかわりもない人だ」(203ページ)

オサムくんにとって、マドカさんはずっとそういう人だった。だけどある日マドカさんがスクールを辞めてしまうと知って、なんだかマドカさんのことが「とても気になる」ようになってしまう。
別に今までだって何か会話があったわけじゃないし、クラスメートなんだから学校へ行けば普通に会える。なのにオサムくん、気になって気になって、得意なはずの体育でボールを取り損ねちゃったり、音楽のテストでうっかり歌詞を忘れちゃったりする。一方のマドカさんはいつもと変わらなくて、ふと「いつもどおりかあ」なんて思っちゃったりする。ああああ、わかる! すっげーわかるよ! その気持ち!

たぶんマドカさんも、中学3年でスイミングは一区切り、って約束だったんだろう。
オサムくんも中学3年だから、お母さんは「区切りもいいし、そろそろ辞める?」なんて言う。

(やめませんけど)
(そんなこと一言も言ってませんけど)(224ページ)

けど。けど。
やめないけど、マドカさんが乗ってこない送迎バスのことを思って「今日がスイミングじゃなくてよかったなあ」なんて思っちゃったりするオサムくん。やめるなんて一言も言ってないけど、マドカさんのいないスクールで、なんだかいつもより疲れちゃったりするオサムくん。
おーい、それなんだよ!
その「けど」の続きに、早く気付いて!!


作者は以前、「ジャンプ」で「サムライうさぎ」というマンガを書いていた人。
「サムライ」は途中からバトル漫画になっちゃったけど、連載初期のほのぼのラブコメ路線の方が僕は好きだった。
もともと細かな日常の風景や心情描写のうまさはジャンプ作家の中でもずば抜けていて、この作品でも、「窓の外を見てるように見せかけて、実はガラスの反射越しにマドカさんたちを見てるオサムくん」とか、「マドカさんが降りちゃった後のがらんとした車内の寂しさ」とか、ひとつひとつのコマにちゃんと意味があって、セリフは少ないのに、登場人物の心の動きがすごくよく伝わってくる。加えて「スイミング」では舞台が現代になったこともあって、「サムライ」よりぐっと共感を呼びやすくなった。

主人公とヒロインがラスト寸前まで言葉を交わさない、という設定は「バクマン。」の劇中マンガ「ささやかな時」にそっくり。だけどまさかそれを実際に、こんな形でマンガにしてくるとは思わなかった。

「高校おんなじだよねっ」
「また仲良くしようね!」(237ページ)

たったこれだけのセリフで、これほど読者をキュンキュンさせられる福島先生は、やっぱり天才だと思った。未読の人は、今週号のジャンプが売り切れないうちに、いますぐ書店かコンビニへ走りましょう。(池谷勇人)