90年代を代表する名作SFアニメ「機動戦艦ナデシコ」の佐藤竜雄監督が、久々に手がける本格スペースオペラ「モーレツ宇宙海賊」。キャッチーで個性的なキャラクターたち。
本格的でイマジネーションあふれるSF設定。そしてなにより、可愛いけど凛々しいヒロイン加藤茉莉香の成長していく姿が魅力的な作品です。
地上波では、先日放送された第5話のラスト。普通の女子高生だった茉莉香が、父親の跡を継ぎ、宇宙海賊船・弁天丸の船長になることを決意。“宇宙海賊・加藤茉莉香”の物語が、ようやく本格的にスタートします。そこで佐藤監督に、この作品との出会いから今後の展開まで、お話を伺いました。
前後編のインタビュー、まずは前編です。

――第5話で、ついに茉莉香が宇宙海賊になることを決意しましたね。
佐藤 ようやくですね。5話まで見て「宇宙海賊じゃねえじゃないか!」と思った人は多いと思うんですけど。でも、笹本(祐一)さんの原作(『ミニスカ宇宙海賊』)も、1巻は、まだ海賊じゃないですからね(笑)。
――5話までは、プロローグといったイメージですか?
佐藤 理由として一番大きいのは、茉莉香が海賊になる決意をしっかり描きたかったんです。
それがないと、「周りに言われたので船長になりました」みたいにチャラくなっちゃうので。ふわふわと雰囲気だけで海賊船の船長になったように見られてしまうと、この先、全然突っ走る感が出せない。「モーレツ」にならないんですよ。海賊の船長になってからは、さらにいろんな人たちが出てきて、茉莉香の周りに集まってくるのですが、その説得力がなくなるんです。
――最初に、茉莉香というヒロインを、しっかり描きたかったということですね。
佐藤 そうですね。
最初は3話くらいに詰めようかな、とも思ったんですけど。どうしても(決断が)軽く見えちゃって。最近のアニメは、基本テンポ良くやらないといけないし、冒険ではありました。ただ、僕自身としては、元々はテンポの早いアニメをやってたんですよね。逆に、ここ10年くらい、チェンジオブペースって、どういう風にやれば良いのかなと考えることが多いです。
――同じ佐藤監督のスペースオペラでも、「機動戦艦ナデシコ」の序盤は、非常にハイテンポな展開でした。

佐藤 「ナデシコ」を知っている方は、1話で発進から戦闘まで行くと思っていたでしょうね。今回は、その5倍かけてます(笑)。
――多くの「ナデシコ」ファンが、佐藤監督の新たなスペースオペラを楽しみにしていたと思います。この作品に関わることになった経緯などを、教えて頂けないでしょうか。
佐藤 2008年の年末にキングレコードの大月(俊倫)プロデューサーと、駅のホームで偶然会って。「竜ちゃん、今度SFやろうよ。
『ミニスカ宇宙海賊』っていうんだ。じゃあ」とか言われて、そのまま別れたんですね(笑)。その後、年が明けてから正式にお話を聞いたのですが、僕の方が別の仕事に入ってたので。正式に動き出したのは、2009年の夏ごろ。まだ、原作は2巻までしか出ていませんでしたね。
――原作小説を読んで、どんなアニメにしようかというコンセプトは、すぐに浮かんだのでしょうか?
佐藤 小説の場合はスペオペ入門みたいな感じで、索敵して敵を突き止めて、それからどうするっていう過程などを、しっかり描いているんですけど。
(SFを読んでない)今のラノベ読者には、ちょっとハードルが高いかもなって気はしました。ただ、僕は、そういう思考実験や、これは原作ではあまり触れられてないけど、普通の子が海賊の船長になる過程に魅力を感じて。先の物語がどうなるかは分からないけど、自分なりにやってみようかなと。まずはキャラクターの方から攻めて、文芸作業(脚本や設定の制作作業)をしていきました。
――確かに、ストーリーにも直接関わるSF設定の多い作品です。そのあたりの描写については、どのようなことを意識されているのでしょうか?
佐藤 そういったシーンでは、説明のために少し饒舌にならざるを得ないから、ダイアローグ(会話のセリフ)には気をつけました。むしろ、その会話の中でキャラの性格付けができればいいなと、前向きに考えましたね。そういう理由で、今回は、各キャラのダイアローグと性格づけが直結してるので、最初の1クールは全部自分で脚本を書きました。文芸作業の段階では、原作が3巻までしか出てなかったので、2クール以降はオリジナル要素が増えるんですが。そこは、他の(シナリオ)ライターさんにも入ってもらってます。そして、僕は終局の5話をやる。そういう割り振りにしました。
――そういった文芸作業の後、ビジュアル面のメインスタッフなどを決めていかれたのですか?
佐藤 宇宙船などメカ設定の部分は並行して進めていきました。絶対に時間がかかるので、そうせざるを得ないんです。だから、先に物語の着地点を見つけて、宇宙船は何隻出ますよ、とか考えていきました。そこはしっかり考えておかないと、後半、作業量が膨れあがって大変になるんです。まあ、僕がシリーズ構成(脚本面の責任者で、物語全体の構成も考える役割)を引き受けた時点で、最後は物量戦になるって宣言してたんですけどね(笑)。
――そういう事情もあって、5人ものメカデザイナーが関わられているのですね。その一人には、「マクロスF」の総監督・河森正治さんの名前もあります。
佐藤 僕の方から推したり、制作会社(サテライト)さんから推薦があったりで、いろいろな人に集まってもらったのですが。結局、知った顔が多くなりました。河森さんは、「劇場版マクロスF」もあるし、その後には「アクエリオンEVOL」も控えているということで、オデット二世の一隻だけをお願いしました。(作品内の設定の)技術体系的に、他の船と多少違っていても大丈夫でしょうという判断で。河森さん以外の方も含めて、基本的にはそれぞれのメカのコンセプトと(作中での)運用だけを、こちらから提示するのみに留めて、その上で皆さんのやりたいようにやってもらいました。
――メカ関係だけでなく、キャラクターも含めた全体的なビジュアルの方向性は、どのようなに考えられていたのですか?
佐藤 一言で言うなら、ちょっと骨太な感じ。元々、宇宙海賊の出自が、独立戦争の中から生まれているので。(アニメーションキャラクター原案で)あきまんさんに白羽の矢を立てたのは、そういうところが欲しかったからです。茉莉香は、可愛い顔をしているんだけど、男前で、同性からも惚れられる。百合ではなくね(笑)。マッチョな感じではなく、そんな女の子にしたいと思ったんです。
――あきまんさんの描かれた茉莉香を見て、第一印象はいかがでしたか?
佐藤 「こうきたか!」という感じですね。もうちょっとマッチョな感じで来ると思っていたので。そこから調整していくつもりだったんですけど、わりと最近の流行に近い感じの絵が来ました。あと、もう分かる人にはバレてると思いますけど、前髪が「コンバトラーV」の南原ちずるなんですよね(笑)。
――あ! 本当だ!! どこか懐かしい印象も感じたのは、この前髪のせいかも。
佐藤 ええ。たぶん、あきまんさんが好きだった安彦(良和)さんの絵、しかもガンダムじゃない頃の絵と、最近の流行の絵をアレンジして入れてきたのだと思うんですね。それを中核に、いろんな要素を配置してる。元々から魅力のある絵なんですけど、話が進んでくると、さらに違って見えてくるんじゃないかなと思いました。ももクロ(ももいろクローバーZ)のオープニングもそうですけど、段々と作品に馴染んでくる。可愛いだけの顔じゃないのが良いんですよね。ひと癖もふた癖もある、こういう顔の子じゃないと言えないよなっていう、セリフやシチュエーションがどんどん増えていくので。
――そのあきまんさんのデザインを、アニメーションキャラクターデザインの竹内浩志さんが、アニメで動かしやすいようにアレンジしたということですね。
佐藤 はい。あとは、アニメの中で目力を強調できるようにという点も、竹内さんの方で調整してもらいました。やっぱり、茉莉香にしてもチアキにしても、目が印象的ですから。基本的に、船に乗って船長席に座っていると目線は前を向いているので。正面顔で、どれくらい惹き込まれるかっていうのは大事。そのあたり(の好み)については、「ナデシコ」の頃とあまり変わってないですね(笑)。
――茉莉香のキャラデザインの中には、新しさと懐かしさが組み合わさっているということでしたが、作品自体もそういった感覚があります。スペースオペラというクラシックな題材と、最近のアニメのテイストや技術がミックスされて、魅力になっているのではないでしょうか。
佐藤 だから、1話から5話まで見てくれた人が、まずは「古いな」と感じるのは正解だと思うんですよ。ただ、話が進んで行くと、ヨット部部長ジェニーとか、副部長のリンとか、茉莉香以外のキャラも立ってきて、かなりくせ者揃いだと分かってくる。そうしたら、「あれ? 古いだけじゃない?」って思ってもらえるんじゃないかと。いわゆるお嬢様学校のハイソ系かと思ったら、みんな違いますからね。
――弁天丸クルーの予備軍みたいな、濃いキャラクターもいますよね(笑)。
佐藤 ええ。そのあたり、たとえ女子高生でも、船乗りっていうのはこういう人間だってことが、そこはかとなくでも出れば。弁天丸の人たちに、スムーズにバトンタッチできるかなと思ってました。
(丸本大輔)

後編に続く