インタビュー中の場所移動で明らかにヘソを曲げた鳥居みゆき。無事インタビューは終わるのか? 小説『余った傘はありません』刊行記念インタビュー、完結編です。

PART1PART2


【私がデザインしたかった通りの装丁】
鳥居 この部屋狭いよ。写真撮るのにも向いてない!

芦沢マネージャー でも、この部屋しか空いてないんで。

鳥居 なんで前もって取ってないのよ。ね、「だって〇〇なんですもん」が出たでしょ。もういいよー。何の話でしたっけ? 好きな食べ物の話?

── タイトルの話でしたけど、次に行きましょうか。
ええと……この装丁すごくいいですよねー。

鳥居 あ! ありがとうございます。いいでしょう。鈴木さんって人がやったんですけど、あの人やるね。センスいいんじゃないですか?

── 鈴木成一デザイン室ですよね、装丁。そりゃあブックデザインの大家ですから……前作『夜にはずっと深い夜を』は引き算のデザインで、今回は足し算のデザインですよね。
どんなオーダーをしたんですか?

鳥居 「古いレース」がいいよね、という話をしたくらいかなぁ。でも、紙は絶対これで、というのはお願いしました。

── 紙から指示してるんですね!

鳥居 この紙って、日焼けをする紙なので、「いつ出た本なの?」という雰囲気になるかなぁと思って。

── 普段から本や装丁は気にされてるんですか

鳥居 そうですね。そんなことはありません!

── えー、どっち……じゃあ、好きな作家やジャンルはありますか?

鳥居 私が好きなのは、ずっと安部公房さんです。夢野久作さんも好きですけど。
あと最近は沼田まほかるさんが好きですね。あとはオーソドックスなのを読んだり、外国の作品を読んだり。

── 本、お好きなんですね。

鳥居 本、大好きです。でも、この『余った傘はありません』とかいう本はまだ読んでないんですよ。

── 読んでくださいよ。
面白いですよ。

鳥居 えー、ほんとに? 面白いの、この本?(笑) どこが面白かった?

── ちょうど、夏に読むのにピッタリな本ですよね。少しホラーが入っていて。レース柄も「夏のレース」という感じですよね。

鳥居 本当? これ、背表紙からパカって広げると傘が開いた感じになるんですよ。すごく素敵でしょ。
まさに私がデザインしたかった通りの装丁。センスいいね、鈴木さん。


【私自身が「よしえ」でもあり「ときえ」でもあり】
── 今回の作品は、「よしえ」と「ときえ」という双子の姉妹の話であり、その2人にまつわる家族の物語でもあると思うんですが、鳥居さんご自身にもお姉さんがいらっしゃいますよね。自分の姉妹関係や家族との関わりが作品に影響していますか?

鳥居 うーん……私自身が「よしえ」でもあり「ときえ」でもあり、全部が自分の中のものであると思うから。だから、自分に姉妹がいるから書いた、とかはないんですけど……確かに、私が太ってて「白ブタ」って呼ばれていた時代に姉はキレイで、すっごく格差がありましたね。

── 「よしえ」と「ときえ」の関係性に似てますね。
女同士の、嫉妬とも愛情ともつかない感じがリアルでいいなぁと思いました。

鳥居 昔、姉には友達がたくさんいたのに、私には「友達はいない」っていうフリをしていたんです。それが後になってからわかってスゲーむかついたんです。今となっては、それは友達が一人もいなかった私への優しさだったと思うんですけど……あ、思い出した。その当時、実家で一緒なのに2人で年賀状を送りあったんです。で、私にはその一通しか年賀状は来なかったのに、姉は「いっぱい来ちゃったー」とか言って。おまけに、私はちゃんと書いたのに、姉が書いた年賀状は「A HAPPY NEW YES!」となってて。

── 「A HAPPY NEW YES!」(笑) いいじゃないですか!

鳥居 「間違ってる! 唯一の年賀状が間違ってる」ってすごく悲しくなったのを思い出しました。「YE」まで書いて、条件反射で「S」書いちゃったって言ってましたけど。

── 「私も友達いないから」というフリするの、不思議な感覚ですね。

鳥居 ね。「私も全然勉強してないから」っていうのと同じですよね。そんなことがあって、ムカついてずっとしゃべってなかったんですけど、大人になってからは許せるようになったんですよね。

── 何があったんですか?

鳥居 子どもの頃と違って、大人になると自分自身のことだけで考えられるようになるじゃないですか。そうすると「自分の中での満たされ度」になるから、姉は関係なくなってくるんですよね。そうすると、一回他人みたいな感じになって、許せるようになって……姉に対してのそういう思いは、作品に影響している部分があるかもしれないですね。

── 鳥居さん自身が「よしえ」でもあり「ときえ」でもある、ということですが、私も読んでいてこの2人は頭の中で鳥居さんをイメージしていました。他のキャラクターで、誰かをイメージしたり、当て書きした、ということはありますか?

鳥居 全部、私ですね。私がやりたい! なんとかならないですかね、映像化。でも、西岡徳馬さんと蟹江敬三さんが好きなので、その2人はなんとか入れこみたいですね。私のギャラが少なくなってもいいんで(笑) でも、映像化は本当にどこかに売り込みたいんですよ。「世にも奇妙な物語」とか。

── あー、「世にも奇妙な物語」ピッタリですね。全体じゃなく、どこかの章だけを抜き取っても、成り立ちそうですよね。映像化、期待したいです。


【ひとつの単語から別な話を思い出しちゃう】
── この本は、こういう人に読んでほしい、というような、狙った読者層はありますか?

鳥居 前の本は、病んでる人に読んで欲しい、っていうのがありましたけど(笑)、今は幅広くいきたいな、という気持ちがあるんで、子どもやキッズなど幅広く。でも、最初にも言いましたけど、『鳥居ワールド』って言われないようにしたい、というのが一番大きいですね。そんなワールドないから! わからない分野のことを「シュール」って言うのと一緒ですよね。

── 簡単な言葉で片付けるな、と。

鳥居 そう。私なんてすぐ「支離滅裂」とか「乱入」とか使われますから。前にも、ある番組に出たときに「鳥居みゆき乱入」って書いてあったんですけど、でもオファーが来てるから行ってるんであって、私2時間前にスタンバッてますからね(笑)。でも、そういうのを親が見て「乱入しちゃだめよ!」って言ってくるんです。

── そういう連絡がご実家から来るんですね(笑) ちょっと意外です。

鳥居 ウチは母も父もちょっと変なんです。以前、「プラズマクラスターが欲しい」というから買ってあげたら、「あれからずっと調子がいいよ」とか言ってたんです。でも、この前実家に帰ってみたら、機械の中の外さなきゃいけないビニールとかそのままで使ってたんです。これ、何にも吸ってないし、何にも出してないよー! と。

── 小説の中では、そういう身の回りで起こったことを描いたりもしてるんですか?

鳥居 そんなのないですよ! そんな面白いことばっかり起きないですから! あ、でもこの前喫茶店に行ったら、店員さんが私だと気づいてくれて、サービスでエスプレッソアートで熊を描いてくれたんです。でも、私頼んだの、アイスコーヒーなんですよね……これ、言った方がいいのかどうか、困りましたねぇ。以前だったら、こういうことあったら「どう辱めてやろうか」って思ってたハズなんですけど、私も大人になりましたねぇ。

── 今みたいな、あるエピソードから違うエピソードに飛んでいくのは、よしえとときえの会話の、何かの単語から話が脱線していくところに通じますね。

鳥居 そうなの。私、普段から自分がしゃべっているときでも、ひとつの単語から別な話を思い出しちゃうんです。

── あれは、普段のご自身の感じなんですね。あの連想ゲームのような話の展開の仕方は面白いなぁと思って。

鳥居 そう。だから、ああいうのはいくらでも出てくるので、書いていても楽です。


【「子育て日記」みたいのを書いてみたい】
── 先ほど色んな野望があるとおしゃってましたが、具体的に動いてるもの、構想しているものはありますか?

鳥居 うん。洗濯機をドラム式に変えたいんですけど、我が家の洗濯機の枠だと置けないので、レンガとか敷いて、ドラム式を置けるようにしたいです。ドラム式って、なんであの枠に合わせてくれないんだよ、もう!

── えーと……他には?

鳥居 夏場のお湯の温度設定がよくわかんない。普段は42℃にしてるんですけど、それだと夏は熱いですよね。あれ、本当に腹立つ!

── えーーと……お仕事関係では?

鳥居 あ! お仕事関係ならそうって早く言ってよぉ。そうですねー、今、Wiiのコントローラーが家に4つあるんですけど、4人は家に来てくれないので、3本無駄にしてるんですよね。だから、家にたくさん人が来てくれるようにしたいですね。

── んん(笑) Wiiでは、何のゲームを遊んでるんですか?

鳥居 Wiiはねー、アンガールズの田中さんと前にマリオをやりました。田中さんが「一緒にやろう」って遊びにきたんだけど、私が下手くそだから「ちょっとどいてて」って仮死状態にされて、田中さん一人でクリアして朝になって帰りましたよ。私はすごくつまんなかった。

── 自分の家なのに?(笑) 田中さん、意外と強権なんですね。えーと、じゃあ、次に書きたいテーマは? 

鳥居 あ、書きたいこと? そう言ってよ。「子育て日記」みたいのを書いてみたいですね。子どもいないけど。

── 鳥居さんの子育て日記、面白そうですね

鳥居 でも、子ども作んないといけないからなぁ。

── では最後に……今回の『余った傘はありません』をこう読んで欲しい、というメッセージはありますか?

鳥居 そうですね。この本ってちょっと特殊でして。3D眼鏡で読んでも、何にも飛び出してこないんですよ。そこに注意して、3D眼鏡をかけて読んで欲しいですね。

── あ、3D眼鏡は使うんだ。

(オグマナオト)