小学生の頃、道ばたや公園にエロ本が落ちていたら大騒ぎになったものだった。読んだところで何が何だか分からないのだが、「普段、絶対手に届かないものがすぐそばにある」という特別感は、簡単に小学生のテンションを上げる。
年末に行われた、小学校の同級生たちとの飲み会でも、やっぱり“道ばたのエロ本”の思い出話で大いに盛り上がった。ある関西の知人は「あの頃のエロ本は、ほんまに“通貨”やった」としみじみしながら語っていた。多くの人が「路上でエロ本に出くわす」経験をしたことがあるだろう。実際手にとって読んだかは別として。

しかし、普段あまり人目につかないよう、人々から細心の注意を払われているエロ本が、なぜあんな風に白昼堂々とその姿をさらけ出していたのだろうか。今思うとなかなかおかしな光景である。
そんなわけで私は“道ばたにエロ本”現象の謎について、自分なりに解明してみることにした。

街を漂流するエロ本
おそらくエロ本も、はじめはひっそりと公共のゴミ箱や、ゴミ回収場所に捨てられていたはずだ。いくらなんでも、堂々とポイ捨てする人はいないだろう。しかし、それを目ざとく見つけたホームレスのおじさんや小中学生の手により、外の世界に引っ張りだされてしまったのではなかろうか。そして彼らは読んだあと、どこかにこっそり置いてくるだろう。拾ったものを古紙回収に出すとは考えにくい。
すると、また見つけた誰かに拾われて読まれる。そのうち雨に濡れてボロボロになって、ページが風で吹き飛んだりする。そうやって流れ流れて、道ばたに辿り着いたのではないだろうか。つまり、海辺の漂着物のような存在なのだ。

“道ばたのエロ本”の行方を追う
さまざまな人の手によって街をめぐり、どこかに漂着するエロ本。だが最近、めっきり遭遇することがなくなった。
いったいどこへ行ってしまったのだろうか。

まず一番に考えられるのは「紙のアダルトメディアの衰退」だろう。アダルトメディア研究家の安田理央氏も、雑誌『創』2013年12月号で、エロ本業界の厳しい現実を述べている。安田氏のコラムによると、2000年以降、インターネットの普及でアダルト雑誌の売上は激減。有名誌が次々と廃刊し、出版社も倒産が相次いでいるという。入荷しても売れないので、書店でも取り扱わなくなっているそうだ。


つまり、エロ本自体の流通量が減ってしまったのである。そもそもエロ本を買う人が減ったので、捨てられる本もなくなったというわけだ。よって、遭遇の機会も少なくなったのである。

“捨て場所”も消えつつあるエロ本
次に、「公共のゴミ箱が減って、エロ本の捨て場所がなくなった」という点も挙げたい。エロ本購入者の中には、バレないように公共のゴミ箱にひっそりと捨てていた人もいたのだろうだが、近年、公園や路上のゴミ箱は激減している。埼玉県戸田市情報ポータルサイトによると、家庭ごみの不法投棄などにより、悪臭やゴミの散乱が増え、環境が悪くなるため撤去が進んでいるそうだ。
戸田市以外の公園でも、あまりゴミ箱を見なくなっていることから、同様の理由で撤去されていると考えられる。

また、分別収集のために複数のゴミ箱を設置するのはコストがかさむという理由もある。利用者もきちんと分別して捨てていないことが多々あり、問題となっていた。こうして公共のゴミ箱は姿を消し、その代わりに「ゴミは持ち帰りましょう」という注意書きの看板が増えることとなった。

一方、この動きでとばっちりを食らったのはコンビニである。公共のゴミ箱がコンビニしかないせいで、客から通行人まであらゆるゴミを捨てていくこととなった。
一応「家庭ごみは捨てないでください」等の注意書きがしてあるが、店員が監視しているわけでもなく、あまり効果はなかったようだ。そこでコンビニは、ゴミ箱を店内に設置する対策などを取っている。これでは人目もあるし、エロ本でなくとも家庭ごみを堂々と捨てることは難しいだろう。(本来そのような雑誌を公共のゴミ箱に捨てるのはルール違反なので、今が正しいのだが) こうしてエロ本は、こっそり捨てられる場所を失ってしまった。エロ本は、捨てられる場所まで縮小してしまったのである。

消えた道ばたのエロ本を偲ぶ
以上の理由から、すっかり姿を消してしまった“道ばたのエロ本”。読者の皆さまの中には、「エロ本との邂逅」を、路上で果たしたという人もいるだろう。“道ばたのエロ本”は、不意打ちのエロを見せつけてくることで、少年少女の心を揺さぶってきた。あの一瞬の動揺と高揚感、そしてなんとも言えない緊張感。実に素晴らしい。すっかり大人になった今、あれをもう味わえないかと思うと少し寂しい。私は、そんな思春期のドキドキ体験を忘れないために、これからも「道ばたのエロ本との思い出」を大切にしていきたい。
(富下夏美)

【参考文献】
『コンビニのレジから見た日本人』竹内稔著/株式会社商業界
『創』2013年12月号「“冬の時代”エロ本出版社にリストラの嵐」文・安田理央

※当記事は筆者の経験・主観に基づくテーマを元にしているため、事実と異なる場合もあるということをご了承下さい。