子供の頃、大人は何でも知っていて、何でもできる存在だと思っていた。だけど、実際に大人と言われる年齢になってみたらどうだろう。
いまだに知らないことばかりだし、できないことだらけ。機嫌が悪いと周りに八つ当たりしてしまうこともある。「また大人気ないことをしてしまった……」と後悔する毎日だ。

大人ってこんなもの? それとも自分が大人になりきれてないだけ? 仕事に遊びに忙しい日々の中で、ふと、このままでいいのだろうかと不安になることがある。このモヤモヤを解消できないかと『大人らしさって何だろう。』の著者・大網理紗さんにお話を伺った。


大網さんは、現在は話し方やマナーを教えるスクールを経営しているが、航空会社やホテルでVIPの接遇等に携わってきた経歴の持ち主。各界の第一線で活躍する人たちをもてなした経験をはじめ、仕事やプライベートでの実体験や、周りにいる人たちをみて感じたことをもとに“大人”について書き上げたのが『大人らしさって何だろう。』だ。

「昔自分が見ていた大人と今の自分を比べたとき、本当に大人になれているのかわからない。世の中には、年齢は若いのに大人らしい人もたくさんいますし、その逆の人もいる。年齢とは関係ない“大人らしさ”があるのでは? と、本当の大人になる方法を具体的な行動から考えてみました」と執筆時のことを教えていただいた。


確かに今まで出会ってきた人たちを思い浮かべてみると、若いのにしっかりしている人も、年齢よりも子供っぽいと感じる人もいる。そう思わせる振る舞いや考え方の境界線があるのかもしれない。

では、大網さんが出会った中で、素敵な大人だと感じたのはどんな人だろう。
「自分の意見や主張をしっかりと持ちながらも、相手や場の空気を大切にして、周りに気を配れる余裕を持っている人です。また、慕われ上手であったり、品のある親しみやすさを持っていたりする人です」

本書では、大網さんが接客している際にネームプレートを確認して名前を呼んでくれる、「ありがとう」とお礼を言ってくれる等、細やかな気配りのできる人がVIPには多かったというエピソードが紹介されている。気配りができる余裕があるからこそ、周りにいる人たちも気持ちよく過ごすことができ、この人のために何かしたいと思うのだろう。
周りの人たちの協力や支えを得て、VIPは活躍しているのかもしれない。

そんな素敵な大人たちと接していた大網さん自身が普段心がけているのは「人を許せるやさしさ、誰かを受け入れる余裕をもつこと。周りの人を大切にすること。その人に対する思いを、言葉や贈り物に込めること」だそうだ。なるほど、“大人らしさ”というのは、周りの人へ気配りできるかどうかが境界線になっているようだ。

さらに「ひとつの事柄に対してひとつの見方をするのではなく、いろんな見方を踏まえて決められる “バランス感覚”を持っていること。
苦しんで悩んでも最後に出した答えを信じて進む、信念を持っていること」も“大人らしさ”につながるのではないかと教えていただいた。

では、今後自信を持って「大人だ」と言えるようになるために、何から気をつければいいのだろう。「ビニール傘を持たないなど、ちょっとした持ち物や服装を見直してみること。何となく選ぶのではなく、気遣いや内面を表現できるように心がけてみること。ニガテな人を尊敬できなくても、尊重するように心がけてみること」とアドバイスをいただいた。
何かを選んだり決めたりするときに感情に流されず、自分も周りの人も気持ちよくなれるかを考えてみてはいかがだろう。


「大人になると、責任やプレッシャーで押しつぶされそうになったり、答えがでないでモヤモヤと悩んだりすることが多くなりますが、大人になったことで出会える幸せや楽しさがたくさんあると思うので、枠や限界に苦しむのではなく、大人っていいなと思ってもらえたらうれしいです」と大網さんからのメッセージに、肩の力が抜けた気がした。

「自分よりも若い世代、後輩や子供たちに胸を張って“大人っていいよ”と言える人が増えたらいいなと思います。私たち大人が楽しんで輝いて生きているところを見せることが、大人の役目だと思うので、読んだ後、ちょっと頑張ってみよう!と思ってもらえたら嬉しいです」

「大人っていいよ」って伝えることができたら、子供たちが未来を楽しみにしてくれるかもしれない。それなら、もっと大人を楽しみたいと思う。子供たちに格好いいと思ってもらえる大人になれたらと思う。そんなことを考えると、30年後、50年後が楽しみになってきた。
“大人らしい”大人になるため、まずは八つ当たりをしないようにしよう。
(上村逸美/boox)