ヨーロッパは外国が近い。例えばブリュッセル・パリ間は約300kmしかなく、日本だとほぼ東京・名古屋間の距離にある。
そのヨーロッパで4月3日、ブリュッセル・パリ間を約10ユーロ(約1300円)で繋ぐ高速鉄道が走り出した。タリス「イージー(IZY)」である。

タリスとはベルギー、フランス、オランダ、ドイツなどを繋ぐ欧州の国際新幹線のこと。イージーはそのLCC(ローコストキャリア)だ。

運賃たった10ユーロ!欧州のローコスト国際新幹線で「立ち乗り席」に乗ってみた
パリ北駅に停車中のイージー


欧州の高速列車は立ち乗りができない


イージーはなぜ安いのか。その理由は立ち乗りにあった。イージーの最安値10ユーロの運賃は「座席を保障しない」切符なのだ。


欧州の高速鉄道は、基本的に座席数以上の乗客は乗せない。つまり座席が埋まってしまえば、それ以上その便の切符は買えず、日本の新幹線のように立ち乗りでの乗車はできない。ところがイージーは、1便10人に限り「座席を保障しない」というカテゴリーを設け、10ユーロで売り出した。

「座席を保障しない」ことは「必ず立ち乗りになる」わけではない。もし乗車した便に空席があれば、座ることができる。満席の時は、ビュッフェ車両(ただしイージーではビュッフェの営業はない)で目的地までを過ごす。


運賃たった10ユーロ!欧州のローコスト国際新幹線で「立ち乗り席」に乗ってみた
ビュッフェ車両


実際立ち乗り席に乗ってみた


座席保障がない切符での乗り心地はどうなのか?

実際乗ってみると、やはり2時間半の移動は少々疲れた。イージーは高速専用線ではなく在来線を通るためか、揺れも気になった。試し乗りした営業初日の便は空席があったため、他の10ユーロ客はすべて座っていた。そのためビュッフェ車両はスペースがあったものの、もし10人全員がビュッフェ車両内に立っていたら、もう少し疲労を感じていたかもしれない。

ただし10ユーロでのブリュッセル・パリ間の移動は、かなりお得感がある。そういう意味では、選択肢として大いにアリだろう。

10ユーロ以外の席も、今までのタリスより低く設定されている。
10ユーロの次に安い運賃が、乗車口付近の折りたたみ補助席15ユーロ(約1900円)だ。通常の座席は2等にあたる「スタンダード」が19~59ユーロ(約2400~7500円)。1等「スタンダードXL」は2等運賃に10ユーロ追加で乗れる。ちなみに今までのタリス運賃は、2等が29~99ユーロ(約3700~12600円)、1等が65~142ユーロ(約8200~18000円)である。

運賃たった10ユーロ!欧州のローコスト国際新幹線で「立ち乗り席」に乗ってみた
2等車両


LCCとはいえ、座席の広さは2等でも十分にある。1等は2列と1列で並ぶ3列のシート配置であるため、さらに快適に過ごせる。


安い代わりに様々な制限も


LCCであるイージーは乗車に各種制限が設けられている。

一度購入した切符の払い戻し、変更ができない。手荷物の数と大きさが決められている。サイズは35cm×55cm×25cmと27cm×36cm×15cmの2つまで。これを超えた際は超過料金を払う。通常のタリスはパリ・ブリュッセル間を1時間半で繋いでいるが、イージーは在来線を通るため平均2時間15分かかる。
通常のタリスでは飛んでいる車内Wi-Fiはない。

そのため、スケジュールが変わりやすいビジネス利用には向かない。一方で、あらかじめ予定が決まっていて、大きな荷物を持たず小旅行としてパリもしくはブリュッセルを訪れるには、存分に価値を発揮するサービスだ。12歳未満の子ども運賃は通常の座席で10ユーロなので、家族での移動にも良いだろう。

運賃たった10ユーロ!欧州のローコスト国際新幹線で「立ち乗り席」に乗ってみた
乗車を待つ人々


ブリュッセル・パリ間は、高速バスや自家用車を使っても、およそ3時間の距離である。近年では自動車相乗りサービス「ブラブラカー」の利用も広がっており、低価格で移動できる交通手段は多い。
このような中、安い運賃と車より早いスピードを武器に、高速鉄道LCCは欧州全体に広がっていくのか。それは今後のイージーの成功次第と言えそうだ。
(加藤亨延)