「スカーレット」28話。涙のおはぎから、コテコテの西川貴教登場
連続テレビ小説「スカーレット」28話。木俣冬の連続朝ドラレビューでエキレビ!毎日追いかけます

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連続テレビ小説「スカーレット」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~
「スカーレット」28話。涙のおはぎから、コテコテの西川貴教登場

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第5週「ときめきは甘く苦く」28回(10月31日・木 放送 演出・佐藤 譲)


お金持ちのお嬢様・あき子(佐津川愛美)と恋仲になった圭介(溝端淳平)は荒木荘を去っていく。
喜美子(戸田恵梨香)は圭介の好きだったおはぎを作って持たせようとするが、両手がいっぱいだと受け取らない。
喜美子は、おはぎ嫌いのあき子に合わせておはぎを食べなかった圭介のことを見ているにもかかわらず、あえてのおはぎ。
しかも受け取ってもらえない。これによってふたりの決定的な別れを描く。この一手がプロである。朝ドラを書いている作家は皆、プロだが、今回はプロ中のプロだと唸らざるを得ない。

去っていく圭介を見送るさだ(羽野晶紀)と雄太郎(木本武宏)が顔を見合わせるときの表情も良い。羽野晶紀は舞台の、それこそプロ中のプロ(現在、ノダマップに21年ぶりに出演中)なので、短い時間でこういうなにげない仕草を入れるのはお手のものだ。


さだも雄太郎も喜美子の恋を知っているからやや落胆している。そこにもうひとりの荒木荘のメンバー・ちや子(水野美紀)はいない。新聞社に勤務しているからだろうけれど、顔を出さず「二度と敷居をまたぐな」と雄太郎に伝言していることで、彼女の圭介の鈍さへの怒りが想像できる。

「おはぎ」の想像


ドラマに書かれてはないが、圭介と喜美子の実らぬ恋の辛さを、どうしてもっと明確ではなく、どこか曖昧に描くのだろうと想像するに、ひとつは、喜美子がまだ幼く(っていってももう18歳だが)、淡い初恋として描きたいから。もうひとつに、当時はまだありそうな家柄の問題なのかなという気がした。あくまで想像である。圭介は今後医者になるにあたり、家柄のいいあき子を選ぶしかなかったのではないか(もちろん好きだったのだろうが)。
喜美子という選択肢は彼にはきっとない。女中に手を出したみたいなことも倫理的に問題があるわけだし。朝ドラでなければ、ここまで清くなくもっとドロドロした展開の可能性だってある。そういう現実的なことを断定形で書かずして、「おはぎ」でいろんな想像をさせる。そこがプロだと思う。当たり前の朝のメニューと思うと、ちょっとこのお浸しの醤油、なんか違う、そんな感じがする。


おはぎを食べる戸田恵梨香の涙


受け取ってもらえなかったおはぎをお台所であけながら、圭介との思い出を回想する喜美子。
このエピソードを子役もしくはほんとうに十代の俳優がやっていたら、もっと、未分化な恋が際立ったんじゃないかとも思ったが、戸田恵梨香の泣き顔を見ていたら、そんな気持ちは吹き飛んだ。

憧れのお兄ちゃん役を好演した溝端淳平は、戸田恵梨香と共演した「BOSS」(09年)でクールでとがった芝居をしていた戸田とは反対に、「やる気、元気、花形」とアホぽい賑やかしキャラをやっていたが、そのときと比べて、ぐっと大人になったなあとしみじみした。あれからもう10年経っていた。ちなみに、「BOSS」の脚本家は次回「エール」の林宏司。

新たなターンへ。喜美子、もうひとりのジョージと出会う


戸田恵梨香の涙と、上品なナレーションで、初恋物語はすっと終わって、新たなターンに入る流れも良い。

久しぶりに大久保さん(三林京子)も出てきて、喜美子を一人前と認めないのは、荒木荘を出ていったら寂しいじゃないかという情であった。
雄太郎のギター漫談みたいのあり、平さん(辻本茂雄)の下着コント(?)ありで、くすぐりも忘れない。

そして、いよいよ、滋賀県の星・西川貴教が「コテコテの大阪弁」で、芸術家・ジョージ富士川役で登場。滋賀県の星としていい仕事をされることを期待する。
ダメな父(北村一輝)と同じ名前の人物っていう仕掛けも良い。

ヒロインは女中


10月30日、朝ドラ第103作が発表された。タイトルは「おちょやん」。
ヒロインは「とと姉ちゃん」でヒロインの妹を演じた杉咲花。
関西の女優・浪花千栄子をモデルにした物語で(公式サイトには“※このドラマは実在の人物をモデルとしますが、物語を大胆に再構成し、フィクションとして描きます。”とあるので、今回はモチーフでもヒントでもなくモデルである)。
貧しい家に生まれ、女中奉公に出された先で芝居の世界に出会い、女優として歩んでいく姿を描くそうで、ここでもヒロインは女中。杉咲は大河ドラマ「いだてん」でも女中役だった。脚本の八津弘幸は「家政婦のミタゾノ」を書いている。
家政婦も女中も、雇われて家事を代行する女性である。外からはわからない家庭の秘密が暴かれる「家政婦は見た」が昭和のヒット作だったわけだが、令和のいま、再び「女中」の目線で家族の姿を見ることが面白いのかもしれない。山田洋次監督で映画にもなった直木賞受賞小説「小さいおうち」(中島京子)も女中の物語であった。
まあでも喜美子の女中のターンもそろそろ終了であろう。
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

登場人物のまとめとあらすじ (週の終わりに更新していきます)


●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 絵がうまく金賞をとるほどの腕前。勉強もできる。とくに数学。学校の先生には進学を進められるが中学卒業後、就職する。

川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいる。家に泥棒が入り、
喜美子の給料を前借りに行く。

川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉 

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。高校生になっても友達がいないが、楽しげな様子を書いた手紙を大量に喜美子に送っている。喜美子とは幼いときキスした仲。

熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。高校で友達は照子だけだったが、ラブレターをもらう。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。

●滋賀で出会った人たち
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を「ゴミ」扱いされる。

草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいた。帰国の際、離れ離れになってしまった妻の行方を探している。喜美子に柔道を教える。

工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。

…中川元喜  常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
博之…請園裕太 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。

●大阪 荒木荘
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対するが、辛抱して彼女を一人前に鍛え上げたすえ、引退し娘の住む地へ引っ越す。女中の月給が安いのでストッキングの繕い物の内職をさせる。

酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。妹を原因不明の病で亡くしている。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者で不規則な生活をしていて、部屋も散らかっている。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて俳優を目指すが、デビュー作「大阪ここにあり」以降、出演作がない。
静 マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。

平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ 喜美子の働きを気に入って、引き抜こうとする。
石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加 
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。

あらすじ


第一週 昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。
第四週 昭和30年 喜美子18歳 女中として一人前になり荒木荘を切り盛りする。

脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき