暗いご時世をせめて夜空だけでも明るく照らしてくれるだろうと期待された「アトラス彗星(ATLAS彗星:C/2019 Y4)」だが、そんな願いも虚しく宇宙に散ってしまったようだ。
3月の記事で、5月末には月よりも明るく輝く可能性があるとお伝えしたのだが、ATLAS彗星は近日点に届くどころか、地球の軌道の内側に入り込むことすらなく、核が完全に砕けてしまったとのことだ。
最新の画像は、ハッブル宇宙望遠鏡によって4月20日と23日に撮影されたもの。パッと見は4、5個に見えるが、実際は30個ほどの断片に砕け、そのまま太陽へと向かっているそうだ。
【太陽に近づき核が崩壊、肉眼では見えない明るさに】
昨年12月に発見されたアトラス彗星は、5月末には満月に匹敵するほど明るくなり、今年最高の天体ショーになるだろうと期待されていたのだが、それはもう叶わない。
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太陽に近づく彗星核が砕けることはそれほど珍しくはなく、たとえば2013年に飛来した史上最大級に明るいと話題になった「アイソン彗星」も結局は蒸発してしまった。
それでも、天文学者はまだアトラス彗星に注目している。というのも、砕けるプロセスが今回ほどはっきりと観測されることは滅多にないからだ。
砕ける前の彗星は200メートルほどの大きさだったと推定されているが、破片となった今、それぞれは家ほどの大きさで、地球から1億4500万年キロ先を移動している。
これを観察することで、氷と岩石の彗星がバラバラになるメカニズムの理解につながるとのことだ。
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Animation of Hubble’s Observations of Comet C/2019 Y4 (ATLAS)
【なぜ彗星は太陽に近づくと崩壊してしまうのか?】
太陽に近づく彗星がバラバラになってしまうのは、氷の「昇華」が関連していると考えられている。
昇華とは、固体から液体を経ずに気体へと変化(その逆もしかり)する現象のことで、彗星を印象的な姿にしているコマや尾は、太陽に熱されて氷が昇華することが原因だ。
しかし、そのために気体がジェットのように吹き出し、彗星を回転させる。この回転による遠心力が強くなると、彗星はバラバラに砕けてしまう。
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image by:Animation of Hubble’s Observations of Comet C/2019 Y4 (ATLAS)
【5月末に太陽に最接近。そして旅立ち】
明るく輝く天体ショーは逃してしまったものの、砕けた彗星を研究するチャンスはまだまだこれからだ。
現在(4月29日の時点)、アトラス彗星は、火星軌道の内側を飛んでいる。そして現在の速度ならば、5月23日頃には地球から1億1500万キロの距離にまで接近するという。
5月31日頃には、太陽に3700万キロの距離まで接近。水星よりもずっと近づくことになる。
そこからさらに太陽の向こうへと進み、私たちの目には見えなくなる。その後は6000年周期の公転軌道へと旅立ち、少なくともこの時代に生きている私たちにとっては今生の別れとなる。
アトラス彗星とはこれでサヨナラだが、行く星、来る星、新たなる星との出会いは必ずやってくる。ちなみに6月は水星の観察の絶好の機会があり、8月にはペルセウス座流星群が極大となる。
空を見上げていればいつかきっと素晴らしい天体カーニバルに遭遇できるはずなんだ。
References:phys / iflscience/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:今年最大級の天体ショーと期待されたアトラス彗星、はかなく宇宙に砕け散る http://karapaia.com/archives/52290429.html