ニュースでよく見る「雑居ビル」ってどんなビル?
東京のビルの、ほとんどが、「雑居」だといっても過言ではないのかも?
「雑居ビルで火災」――そんな物騒なニュースを、よく見聞きする。
でも、そもそも「雑居ビル」って、何なのか? 

イメージとしては、飲食店やらエステやら金融やら多業種が入っているビルだけど……。

近所にも「雑居ビル」と呼ばれるビルがあって、友人が行く漫画喫茶も、知り合いのママが夜な夜な通うダーツバーも、知り合いのパパがこれまた夜な夜な通うキャバクラも、新しくオープンしたメイド喫茶も、みんなこの小さなビルにあると知ったとき、「そうか! 小さいながらもヒミツがいっぱいの場所が、『雑居ビル』なんだ!」と思った。

そう、「雑居ビル」には、「小さいこと」「少し薄暗いこと」などが欠かせない条件の気がするのだ。
たとえば、風通しの良い大きなビルだったら、夜な夜な通う気分になんて、なれやしないじゃないか(←偏見)。
思うに、「雑居ビル」には「○階まで」とか「△坪まで」とか、「どこかにお色気アリ」みたいな定義があるのではないか。

そう思い、『広辞苑 第四版』を調べてみると、「系統性のない多種の用途によって占有されるビルディング」とあるだけ。じゃ、六本木ヒルズなんかも「雑居ビル」なのか?
これ、建築基準法などでは、どうなっているのか。

国土交通省の建築基準法関係の担当者に聞いてみると、
「『雑居ビル』は、報道などで使われる一般的な名称で、法律上の定義はないんですよ」
という。
避難階段の構造や高さ、広さなどは建築基準法で定められているが、ビルの中には、「基本的に何が入ってもOK」なのだとか。
「ただし、衛生上、消防上の問題があるので、それはむしろ保健所の管轄ですね」

そこで、渋谷区保健所に問い合わせてみると……、
「保健所でも、ビルの登録などは特にないんですよ。建物の大きさによって、一定以上のものは東京都、それ以下は区役所の建築課に手続きをとる必要がありますが、建物ができたら消防法などの検査をし、OKなら、特にビルは保健所に届出なしで大丈夫なんです」

保健所では、飲み水が貯水タンクを使っているなら、「設備を報告願いたい」とは言っているそうだが、これも法律上の義務ではないとか。
「届出の必要な『ビル衛生管理法』というのもありますが、これは建物面積が3000平方メートルを超えるものが対象。ほとんどのビルは関係ないですよね。
ただ、飲食店や美容院、クリーニング屋さんなど、ビルに入る個別の商売が届出をし、許可をとるという必要はあるんですよ」
つまり、ビルができたときはもともと「何が入っても良いいれもの」であって、場所やら家賃やら諸々の事情で、いろんな業態が集まってきて、たまたま「雑居ビル」になっているだけのよう。「雑居」は、あくまで「イメージ」だ。
「たぶん役所などに聞くと、雑居ビルは『物販用ビル』『店舗用ビル』と呼ぶんじゃないですかね」

淫靡な雰囲気も、「夜な夜な」な感じも、ビルのもともとのつくりではなく、そこに集う店、人によって、つくられるだけなのでした。
(田幸和歌子)