『深夜快読』(筑摩書房)著者:森 まゆみAmazon |honto |その他の書店

◆あとがき
「おかあさん」

「ん」

「おかあさんてば。あした遠足でお弁当いるんだけど」

「ん?」

「ちえっ、また無視された」

「ん」

三つのときから読書病に罹っている。
本の中の人物に憧れ、本を読んで世界を旅し、地球の反対側の人びとの暮らしに思いを馳せた。心弱く落ち込むときも、本のおかげで立ち直った。ゆかいな、さっぱりした気分になることができた。

しかし書評をなりわいとすれば本は頭の上から勝手に降ってくる。締切もある。「読書休日」は毎日新聞の書評委員をやめてホッとしたとき成った。
本書は懲りずに読売新聞の委員をやっていた主に一九九三-九六年に書いたものである。

ほかに「毎日夫人」に毎月書いたもの、全集の月報や文庫本の解説を加え編んでみた。編集については筑摩書房の金井ゆり子さんにお世話になった。

深夜快読。ようやく家事が片づき、子どもたちが寝しずまる。さあこれからが私の時間、とワクワクしながら本を読んできた。
しかしそれで良い書評がかけたかどうか……。「台所仕事や育児からかすめとった時間で芸術家になれると思うのは幻想だ」。このメイ・サートンの言葉を、三人の子持ちの主婦でもある私は銘記しよう。

同じような悩みをかかえる本好きな仲間にこの本を贈りたい。

一九九八年四月

森まゆみ

【書き手】
森 まゆみ
作家・編集者。1954年東京都文京区生まれ。
早稲田大学政経学部卒業。東京大学新聞研究所修了。1984年、地域雑誌『谷中・根津・千駄木』を創刊、2009年の終刊まで編集人を務める。専門は地域史、近代女性史、まちづくり、アーカイブ。98年に『鴎外の坂』で芸術選奨文部大臣新人賞、03年に『「即興詩人」のイタリア』でJTB紀行文学大賞、14年に「青鞜の冒険」で紫式部文学賞を受賞。そのほかサントリー地域文化賞、建築学会賞(文化賞)他。
著書に『「谷根千」の冒険』『女三人のシベリア鉄道』『海に沿うて歩く』『おたがいさま』『暗い時代の人々』『子規の音』など多数。

【書誌情報】
深夜快読著者:森 まゆみ
出版社:筑摩書房
装丁:単行本(269ページ)
発売日:1998-05-01
ISBN-10:4480816046
ISBN-13:978-4480816047