年齢を重ねると、体力だけでなく、仕事や人間関係、社会での役割も変化していきます。こうした複数の「喪失」が重なると、心身にどんな影響が及ぶのでしょうか。


脳神経科学者・虫明元氏の著書『孤独脳 脳のSOSに気づき心と体を壊さない30の方法』では、人生のさまざまな段階で生じる孤独の原因と、孤立・孤独を防ぐための方法を解説しています。

今回は本書から、高齢期に直面しやすい「4つの喪失」と、心身の衰えや社会的な繋がりが弱まる「フレイル」の仕組みについて紹介します。

■年齢への「決めつけ」が孤立を招くことも
高齢者、また高齢者に限らず一般的に年齢に対して、多くの人はなんらかの固定的なイメージをもっています。これを「年齢ステレオタイプ」と呼んでいます。

このステレオタイプの中身もバラエティに富んでいて、人によって真逆のイメージをもっていることもあります。たとえば、老人のネガティブなステレオタイプは、「孤独で、頑固、融通利かず」というイメージです。

一方で、老人のポジティブなステレオタイプとしては、「社交的で、穏やか、経験豊かで寛容、誠実」なイメージです。

しかし、社会全体を見渡すと、高齢者はどちらかというと負のステレオタイプでとらえられがち、偏見の目で見られることが多いのではないかと思います。この偏見ゆえに高齢者は社会の周縁部に押しやられ、孤立化するリスクが高いのです。

ただ、こうした「年齢ステレオタイプ」は、先にも言ったとおり、対高齢者に限った話ではありません。

逆に、年を重ねれば重ねるほど、「今どきの若い者は……」とか「自分がこれくらいの年齢の頃はこうじゃなかった」などというフレーズがつい口をついて出てしまったり、あるいは言葉にはしなくてもそう思っては勝手に腹を立てたり嘆いたりということもあるのではないでしょうか。

異世代との交流に臨む際には、まずは自分のほうから、こうした自分の中にある偏見やレッテル貼りを排除しておきましょう。


■高齢期に経験しやすい「4つの喪失」とは?
よく、高齢期には次のような「4つの喪失」を体験するといわれています。

喪失体験は、無力感や孤独感につながり、うつ、不安障害などの精神疾患を引き起こしやすくなります。また、うつの発症で認知症の発症リスクが51パーセント上昇するとの研究結果もありますが、喪失体験自体が認知症の引き金になることもあります。

▼4つの喪失① 心身の健康の喪失加齢による体力、視力、聴力、味覚の低下は多かれ少なかれ誰にでも訪れるものです。特に筋肉量は、40歳以降、10年で約6%が失われ、50代以降は年間0.5~1%ずつ減少するといわれています。これを放置すると、「サルコペニア(筋肉量の減少、筋力低下、また身体機能低下を伴う状態)」に直結します。

サルコペニアは、「ロコモティブシンドローム(=運動器症候群。骨、関節、筋肉などの運動器が衰え、立つ・歩くといった移動機能が低下した状態)」の主原因であり、また、転倒しやすくなることから骨折→寝たきりにつながるので、運動や栄養面からの予防・改善アプローチが求められます。

▼4つの喪失② 経済力の喪失仕事をリタイアすれば、年金が主たる収入源になります。中には資産運用などにより現役時代と変わらないくらいの収入を得ている人もいることにはいますが、一般的には大幅な収入減となります。

▼4つの喪失③ 社会的なつながり・役割の喪失リタイア後は肩書も地位も失い、職場関係の人との交流は退職したばかりの頃は多少あっても、何年かすれば次第に疎遠になっていくものです。

また、子どもの独立、親の看取り、そして歳を重ねるごとに配偶者や友人など身近な人、親しい人との死別を経験することも多くなります。


▼4つの喪失④ 存在意義の喪失リタイアによって「自分はもはや社会に役立っていない」という思いが強くなりがちです。ひいては「自分はなんのために生きているのか」と生きる意味を見いだせなくなることもあります。

■3つの「フレイル」は互いに影響し合う
こうした喪失体験が重なることで、「フレイル(身体・精神・社会の虚弱)」と呼ばれる、健康な状態と要介護状態の中間の状態になりやすいことにも注意が必要です。

フレイルは身体的、精神的、社会的の3つの要素が相互に影響し合います。

・身体的フレイル:サルコペニアやロコモティブシンドローム
・精神的フレイル:うつ、認知機能の低下、意欲の低下、認知症
・社会的フレイル:一人暮らし、周囲との交流減少、社会的なつながりの希薄化

幸いなことに、フレイルは可逆性があり、早期に適切なケアを行えば、健康な状態に戻せる点に特徴があります。

タンパク質をしっかりとるといった栄養面でのケア、ウォーキングや軽い筋トレなどの運動、趣味のサークルや地域コミュニティへの参加、人とのつながりをもつなどの社会参加によって、要介護予防が可能であると同時に、孤独感や認知症リスクの払しょくないし低減にもつながります。

著者:虫明元(東北大学名誉教授)
東北大学医学部大学院卒業、医学博士。東北大学名誉教授、同大学院医学系研究科・学術研究員。八戸看護専門学校・学校長。専門は脳神経科学。『学ぶ脳──ぼんやりにこそ意味がある』(岩波科学ライブラリー)ほか著書多数。研究では行動調節に関わるシステム脳科学、特に前頭葉を含む大脳皮質の働きを調べている。
演劇的手法、特にプレイバックシアター(即興再現劇)を用いた教育ワークショップを行い、大学や高校でコミュニケーション教育、孤立・孤独防止事業などに取り組んでいる。
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