※記事の内容は筆者の調査・推測をもとにした独自の考察で構成されており、公式設定ではないことをご了承ください。
待ちに待った「ファイアーエムブレム」シリーズの最新作、『ファイアーエムブレム 万紫千紅』がついにリリースされましたね。楽しみに待っていた人も少なくないと思います。
本作は公式インタビューでも明らかにされているように、人々の生き様を描いた広大なシミュレーションRPGとなっています。シリーズお約束の「途中で死亡した仲間は二度と復活しない」というシビアなルールも健在で(オプションで変更可能)、絆を育てるというシステムが仲間たちへの感情移入度を高めてくれます。
『万紫千紅』の大きな魅力の一つは、登場するキャラクターたちが背負う宿命の重さと、それを体現するかのような美しいネーミングセンスにあります。今回は筆者がダグザの地で体験したプレイの中で、特に印象に残ったキャラクターについて考察していきたいと思います。
◆ティアラ・アウグスト(Tiara August)
第一部カイ編で登場する初期メンバーの一人で、回復役として活躍してくれるティアラ。知識欲の塊とも言える言動は、どこか危なげながらも一途で、パーティの精神的な意味でも癒やし役として頑張ってくれるのが、彼女でした。
ファーストネーム「ティアラ」は、皆さんもご存じの通り高貴な女性が頭に乗せる「小型の冠」を意味する言葉です。王権や高貴さ、あるいは特別な位の象徴として使われる言葉です。
またファミリーネームである「アウグスト」はヨーロッパ圏の男性名・姓として使われており、古代ローマの初代皇帝アウグストゥスに由来する言葉で、「尊厳者」「神聖な者」といった意味を持ちます。
冠と威厳という、姓名どちらも気高さや権威を感じさせる組み合わせの名前。
◆ディートリヒ=グレゴール=ラミーヌ(Dietrich Gregor Lamine)
救世主イシュマールが導く真焔将の一人ディートリヒは、前作『風花雪月』の舞台であったフォドラの地の出身ですが、船旅の途中で嵐に巻き込まれてしまい、海獣に船を破壊されてダグザに漂流しました。第一部の主人公の一人でもあり、神殺しの剣「魔剣アンスウェラー」を持ち、自らの逸楽のために戦いに興じる人物です。
ファーストネーム「ディートリヒ」は古代ドイツ語に由来する人名で、「民(theod)」と「支配者・力(rich)」を組み合わせた言葉です。歴史上の人物や神話にも見られ、古くから「強い指導力を持つ戦士・王」を象徴する名前として使われてきました。
ミドルネーム「グレゴール」は、古代ギリシャの「グレゴリオス(watchful/警戒する、目を覚ましている)」に由来する名前です。教会関係者などに好んで使われてきた名前で、研ぎ澄まされた観察眼や過酷な宿命の中でも気を抜かない緊張感を連想させます。
最後に「ラミーヌ」ですが、こちらはフォドラ十傑のひとりである祖母ラミーヌの名前をそのまま受け継いでいるものと思われます。現代の世界でも先祖の名前をそのまま名付ける文化圏がありますので、彼の場合もそうではないかと推測します。
貴族らしい威厳のある名前と緊張感、それに祖母の名前。個人の武勇と戦闘狂としての側面、そして背負うべき血筋の重みが、このフルネームから重層的に浮かび上がってきますね。
◆トビヤス・ビクトリーノ(Tobias Victorino)
セオドラ編でサラミス王国の将軍として登場し、セオドラのために命をかけて戦う闘士、それがトビヤスです。
ファーストネーム「トビヤス」は、ヘブライ語の「トビヤ(Tuviah/神は善なり、神の恵み)」を語源とする、ヨーロッパ圏に広く伝わる伝統的な男性名です。旧約聖書の『トビト記』に登場する義人トビヤの名としても知られています。聖書的な背景を持つ名前は、過酷な運命の中でも失われない道徳心・誠実さを象徴することが多く、荒々しい戦場にあっても自らの信念や祈りを胸に秘めて戦うキャラクター像を連想させます。
ファミリーネーム「ビクトリーノ」は「ビクトリー(Victory/勝利)」や「ビクトル(Victor)」の派生・縮小辞的な響きを持ち、ラテン系の名前や姓に使われます。日本語に直訳すれば「勝利に属する者」といった意味合いを持ち、勝利を掴み取るために生きる騎士や戦士の家系、あるいは武門の血統であることをストレートに物語るような、力強いネーミングです。
「神の恵み・誠実さ」を意味する「トビヤス」と「勝利」を宿す「ビクトリーノ」の組み合わせ、一見すると相反するようにも思えるこの二つの要素は、「自らの正義を胸に抱きながらも、勝利という残酷な結果を追い求める戦いに身を投じる宿命」を体現しているように感じられます。セオドラへの忠誠を貫きながら、戦場を駆け抜ける彼の一挙手一投足に、この名前の重みが重なってきますね。
◆レイリダーナ・キジェルモ・コーエンディア(通称レダ、Leilirana Guillermo Coendia)
第一部の主人公の一人、レダことレイリダーナ。かつては「カエルスの薔薇」の称号を得るほど素晴らしい舞姫でしたが、「シドニア事変」で父キジェルモがベルトランに殺されてしまい、事変に関わった全ての者たちへの復讐を遂げる旅に出ることになります。表向きは善良で面倒見の良い人物ですが、人生の全てを復讐に捧げており、巨大な闇をその胸に秘めています。
ファーストネーム「レイリダーナ」という名前は、語源とおぼしきものは見つけられませんでした。ただ「レダ」で調べると、いくつか語源らしい名前が確認できます。リュキア語では伝統的に「女性」「妻」を意味し、ギリシャ語では「貴婦人」「喜び」といった意味を持つとされています。特に有名な人物としては、ギリシャ神話に登場するスパルタ王妃・レダがあげられます。
ミドルネーム「キジェルモ」は、英語の「ウィリアム(William)」やドイツ語の「ヴィルヘルム(Wilhelm)」に相当する、「強い意志の兜」「守護者」を意味するスペイン語圏の男性名です。作中ではレイリダーナの父親の名前ですから、本作の世界観では親の名前をそのままミドルネームにする文化圏があるのではないかと推察されます。
ファミリーネーム「コーエンディア」については語源とおぼしきものは見つけられなかったのですが、作中で説明があります。彼女は伝説の吟遊詩人とされるコーエンの子孫で、そのためこのファミリーネームを名乗っています。家系がそのまま苗字となったパターンですね。
全体的に優美で神秘的な印象のあるフルネームを持つレイリダーナ。現実の世界には存在しない名前ながらも、作中に登場する世界観を反映した素敵な名前だと思います。戦乱の世を気高く生き抜く彼女の生き様を感じさせる、深みのあるネーミングですね。
◆アレキサンドラ・タムサンカ(Alexandra Tamsanca)
彼女はテルス白銀騎士団に所属する可憐な天馬騎士です。通称「銀の乙女」と呼ばれる人気者ではありますが、伯父の思惑で政略結婚させられそうになっていました。プレイヤーに飛兵の特徴を教えてくれるポジションであり、同時にドレイクの秘宝に呑み込まれかけたセオドラの物語に巻き込まれてしまう、どこか不憫な影を持つキャラクターです。
早速名前について見ていきましょう。ファーストネームの「アレキサンドラ」は、古代ギリシャの「アレクサンドロス(Alexandros)」の女性形に由来する、ヨーロッパ全域で広く愛されてきた伝統的な名前です。「守る者(alexein)」と「男・人間(andros)」を語源とし、古くから王妃や貴婦人に好まれてきました。また、愛馬の名前が「ブーケパラス」ということから、「アレクサンドロス大王」に由来しているのではないかと思われます。
また、ファミリーネームの「タムサンカ」はそのままの名前は見つけられませんでしたが、似たものとして「タマサンカ(Tantsanqa)」というものがありました。南アフリカの公用語の一つであるコサ語などの名前で、「祝福」や「幸運の日・吉日」という意味を持ち、キャラクター的に似合っているようにも感じられます。
フルネームのイメージとしては、「過酷な宿命の中にありながら、祝福をまとい立ち向かう気高き魂」というイメージが浮かび上がりました。個人的には、非常にドラマティックなネーミングだと思います。
◆銀雹のシラクシオ(通称シロッコ、Siraksio)
シロッコという名でレダの前に現れる謎の吟遊詩人ですが、真の姿は芸術の神カーラに仕える精鋭「バルカン」であり、「銀雹(ぎんひょう)のシラクシオ」というのが彼の本当の姿です。
二つ名の「銀雹」とは、日常的に使う言葉ではないため、馴染みのない言葉かもしれません。その名の通り「銀色の雹」を意味する単語だと推測されますが、詩歌や小説などの文学作品において「非常に美しく、ときに冷徹で鮮烈な情景」として稀に使われる造語のようです。銀色の剣閃の閃きや、氷や風を操る特殊な能力を感じさせる、素敵な言葉ですね。
ファーストネームの「シラクシオ」について、こちらも明確な由来は確認できませんでした。似た単語としては、強力な海上都市国家「シラクサ(Syracuse)」や東欧圏の響きにある「シャクシ(Shakshio)」など、都市や要塞を思わせる響きを感じさせてくれる単語があります。
ゲーム内では物理も魔法もこなせる万能キャラクター、シロッコ。その本名を調べてみたところ非常に珍しい名前であることが判明しました。自らを「気まぐれな風」と呼び、どこか掴みどころのない彼の性格を体現しているようで、良い名前だと感じます。
今回は『ファイアーエムブレム 万紫千紅』の個性豊かなキャラクターたちにスポットを当て、その名前に秘められた由来や背景を考察しました。
名前に込められた神話のモチーフや歴史的な背景、そして血筋や宿命の重みを知ることで、彼らが繰り広げるドラマはより一層深みを増していきます。戦乱の世を駆け抜ける彼らの生き様を、あなたもぜひ細部までじっくりと味わってみてください。
それでは、ダグザの地で紡がれる最高の冒険の続きをお楽しみください。


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