レンズ一体型のコンパクトカメラが好調だ。スマートフォン(スマホ)にすっかりお株を奪われたかに見えたコンパクトカメラ。
ここにきて揺り戻しが起きている。全国2300店舗の家電量販店やネットショップの実売データベース、BCNランキングの集計で明らかになった。販売台数前年同月比は、昨年11月以降2桁増基調で前年越えが継続。また販売金額は販売台数を上回って伸びている。この6月の販売前年比は台数が112.7%だったのに比べ、金額は134.0%と大幅増を記録。一方コロナ禍後の特需を経て、レンズ交換型は振るわない。台数が80.0%、金額78.1%と大きなマイナスだ。昨年秋以降、前年割れ基調で推移している。

 コンパクトカメラの販売ランキングを見ると、台数ランキングでは比較的安価な製品が上位に並び、金額ランキングでは、個性的なモデルが上位にランクインしている。この6月では、台数ランキング1位はKODAKの「PIXPRO FZ55」。2022年8月の発売以来、台数でTOP6以内に常駐している人気モデルだ。今年に入っても好調で、2月以降連続してトップシェアを維持している。
6月の台数シェアは11.8%。1676万画素と普段使いには必要十分な撮像素子。光学ズームは28mm~140mm(35mmフィルムカメラ換算、以下同)と使い勝手がいい。それでいて6月の平均単価(税抜き、以下同)は2万500円。コンパクトカメラ全体の平均単価、3万8800円に比べると、かなりのお手頃価格だ。近頃激減している「ザ・コンパクトカメラ」といったデザインも人気の秘密だろう。
 一方、販売金額ランキングでこの6月、トップに立ったのは、パナソニックの「LUMIX TZ99」。11.2%のシェアで1位を獲得した。平均単価は5万9600円と、こちらは全体平均よりもだいぶお高い。今年2月発売の新しいモデルだ。発売直後の2月に販売金額で1位を記録して以来、4か月ぶりにトップを奪還した。2110万画素の撮像素子を備え、24~720mmの光学30倍ズームが特徴。
やはりオーソドックスなコンパクトカメラだ。それでいて、ズーム倍率が30倍以上の、いわゆるハイズームモデル。このカテゴリーは消滅しかかっていただけに、スマホでは実現できない小型で高倍率ズームのカメラを求めるユーザーに「刺さった」格好だ。このTZ99は、販売台数ランキングでもシェア7.3%で2位につけている。比較的高単価ながら台数も稼げる有望株だ。
 販売金額シェアでは、10.7%で2位の富士フイルム「X100VI」も目立っている。平均単価が25万4000円。コンパクトカメラの中ではとびぬけて高価だ。オーソドックスというより、レトロなデザインの本体が特徴。4020万画素と高画素数のAPS-C撮像素子を備えた本格派だ。レンズは35mmの短焦点で光学ズームなし。フィルムメーカーならではの豊富なフィルムシミュレーションモードを備える。
アナログカメラに似た操作と画像を楽しめるのも持ち味だ。富士フイルムと言えば個性派ぞろい。6月に発売したばかりの「X half」も金額シェアでは7.2%で4位、台数シェアでも2.6%で10位につけている。35mmフィルムを縦に割って、縦位置で撮影する、昔のハーフサイズカメラを模したデジカメ。もちろん、売れに売れたデジタル版チェキとも言える「instax mini Evo」も台数6位、金額9位で健在だ。
 レンズ交換型カメラは敷居が高くなってしまった。フルサイズのボディーともなれば、レンズも大型化。撮影するにもかなり気合が必要だ。価格も高騰している。スマホよりちょっと上のカメラ、スマホでは実現できない撮影スタイルを楽しめるカメラ。コンパクトカメラ好調の要因は、そんなカメラのニーズが再び顕在化してきたからだろう。スマホの攻勢に白旗を上げ、コンパクトカメラから半ば撤退状態のメーカーは少なくない。
新たな需要を背景に、コンパクトカメラプロジェクトの再起動を期待したい。(BCN・道越一郎)
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