ここに1冊の雑誌がある。「テレビブロス」の2005年3月19日号だ。



 このなかに「オダギリジョーのジャンケンは後出しで」という連載コラムがあり、この号(第43回)では酒にまつわる思い出が綴られている。その内容を紹介しよう。



 まず、書き出しはこうだ。



「酒は人間を変える怖い液体である。年齢を重ねると失敗も少なくなるが、若い時はそりゃもう失敗しまくった。特に中学や高校の時は飲み方も分からずとにかく量に走る」



 そんなわけで、学校帰りに梅酒や酎ハイを買い、友達とカラオケボックスに繰り出したオダギリ。

「一気を競いながら、酔い方も同時に競い合う」として「壁や天井に空けた穴で勝敗を決め」たり「1部屋ずつ訪問して」「酒や食べ物を頂戴してはまた暴れ」たりしたという。



 さらに「カラオケを歌いながらモニターを蹴り倒し小爆発」「エアコンを蹴り落とす」「照明器具は明るすぎるから叩き割る」「注文した食べ物はただ投げ合い、ぶつけ合う。たこ焼き合戦で部屋はソースだらけである」と続き「最終的にはトイレに行くのも諦めて、観葉植物に肥料を注ぐ」という、上手いこと言ったぞ的な下品な告白も。外から野良猫を連れ込んで「戦闘」したともある。



 ここまでやって無事に済んだのかと思ったら「そのまま」「商店街に」「逃げ去った」そうだ。



 なお、これを書いた当時は29歳。

十代でのこの行為について、一応、謝ってはいる。本文とは別のひとこと欄で、



「いや、当時迷惑かけた方々、ホントにすみません。改めて文句のある方、反省はもう出来上がってますんで、忘れて下さい……」



 ただ、ここは活字も本文より小さいし、これを「反省」だと思えるかはビミョーだろう。ちなみに「酒は人間を変える怖い液体である」という書き出しの一文も、酒飲みのはしくれである筆者としてはいささか不快だ。酒が人を変えるのではなく、その人の本性が出るだけ、という、戒めによく使われる言葉を送りたい。



 さて、そんなオダギリは今、45歳にして俳優人生最大級の賞賛を浴びている。

NHKの朝ドラ「カムカムエヴリバディ」(以下「カムカム」)の第2期に二代目ヒロインの相手役として出演。ハマり役だとする声も多い。



 ただ、本人はこのオファーに対し、躊躇したという。「朝ドラはあまり見たことがなかった」「自分との距離が遠いものだった」「僕は夜中の作品のほうがしっくりくるタイプだし(笑)」ということで「朝ドラは自分らしくないかなとだいぶ悩みました」と語っている。



 役者としての柄について言っているのだろうが、あるいは自分のキャラクターのことも頭をよぎったかもしれない。前出のコラムを読む限り「清く正しく」がモットーの朝ドラとは距離が遠そうだからだ。



 では、なぜ受けたのかというと「カムカム」の舞台のひとつが岡山だからだという見方がある。昨年1月、出身地である岡山県津山市で行われたトークショーで彼はこんな発言をしていた。



「例えば、B'zの稲葉さんとかはコンサートを津山でやることで恩返しができるじゃないですか。でも僕は俳優をずっとやってきて、恩返しの方法が全くなかったんですよ」



 朝ドラ出演が恩返しになる、とも考えたのだろうか。しかし、かつてオダギリに店を汚され、機材などを壊されたカラオケボックスにしてみれば「恩返し」よりまず「カネ寄こせ」という気持ちかもしれない。



 そういえば、飯島直子が前田亘輝と結婚した頃、同じく「テレビブロス」の読者欄で興味深い投稿を見つけたことがある。

ヤンキー時代の飯島にいじめられた人による、祝福する気分にはとてもなれないという内容だった。



 一度やらかしたことは、そうやって蒸し返される。小山田圭吾イジメ騒動もそうだし、あびる優窃盗騒動もまたしかりだ。オダギリのこのコラムも当時、週刊誌やネット掲示板で問題視されたが、最近は忘れられているようなのでちょっと蒸し返してみた。







 ところで「カムカム」第2期において、彼が演じる役と恋に落ち、結婚するヒロインに扮しているのが深津絵里だ。じつはこちらにも最近、こんな記事が飛び出した。

「深津絵里を『カムカム』に導いた『不良10代』『母との別れ』『内縁の夫』」(週刊文春)である。



 これによると、地元・大分の中学時代には不良グループに属し、ヤンキーの先輩と付き合ったり、授業をよく抜け出してサボったりしていたらしい。本人が雑誌で告白した「悪ガキの中心」で「出席簿を破ったり、教室のカーテンを切ったり」していたという発言も引用されている。



 気になって検索してみると、ミクシィにこの中学関係者のためのコミュニティがあった。そこには、深津と同時期の在校生らしき人の書き込みで「『深津軍団』とか作ってツッパってたなぁ~。懐かしい~」(投稿されたのは2010年)というものが。とはいえ、デビューするために14才で上京して転校しているので、そんなに本格的なヤンキーでもなかったのだろう。



 ただ、筆者は新人時代の彼女にインタビューした際のことを思い出す。80年代から90年代にかけて、女性アイドル中心に何百人もの芸能人を取材したが、深津の印象は五指に入るほどよくなかった。態度が悪いとかではなく、輝きをまったく感じなかったのだ。会話にも響くものがなかった。やんちゃだった子が清楚路線で成功することは意外と珍しくないものの、この時点ではまだまだキャラを作り込めていなかったのかもしれない。



 それだけに、その後の大成には驚くばかり。「カムカム」でも実年齢より30歳も若い役を演じ、概ね好評だった。しかし、これは最近の風潮もプラスに働いているのだろう。公の場で女性を「若作り」などと言うと、フェミニストみたいな人たちに噛みつかれるので、メディアは忖度もしていると考えられる。



 実際、彼女が褒められる記事のヤフコメではこんな異論も出た。「無理がある」「違和感ありまくり(笑)」「ファーストショットはトラウマになった」などなど。筆者も同意見だ。30歳の年齢差を超えるのは、容易ではない。老け役をやるときもそうだが、何よりも、年相応の身のこなしに限界があるのだ。



 深津ほどではないが、オダギリも20歳くらい若い役で登場。その結果、ふたりが若いカップルを演じた期間は若者世代での視聴率が明らかに低下したことが報じられている。オジサンとオバサンのイチャイチャを見せられても、若者がキュンとしないのは当然だろう。若者ではない筆者なども、物語が進んでふたりの娘が小学生になり、中年の親を演じるようになったときはホッとさせられたものである。



 とまあ、過去の狼藉を平気でさらけだすオダギリが「いいひと」を演じていることにせよ、異例ともいうべきヒロインの若作りにせよ、どうにもしっくりこない。だったら、見なければいいともいわれそうだが、厄介なのはこの朝ドラがいつもと違い、三代百年を描く3部構成であることだ。



 上白石萌音が初代ヒロインを演じた第1期は気に入っていたし、川栄李奈が三代目ヒロインを演じる第3期にも期待が持てる。いくらしっくりこなくても、この第2期を見ておかないとつながらないのだ。



 それでも、今週後半には川栄が登場して、第3期がスタート。頑張って視聴してきた甲斐があったと半年間のドラマの最後に思えることを、楽しみにしている。





文:宝泉薫(作家・芸能評論家)