AI体験をしながら「AIと人間」について哲学することを試みた作家適菜収氏。AIの危険性について警鐘を鳴らす本になるかと思いきや、むしろAIに反撃され、その野望は脆くも打ち砕かれてしまった。

一体何があったのか?  AIとの戦いに完全敗北した記録を、一冊にまとめたのが最新刊『AIは人間を殺さない、飼い殺す:全体主義という心地よい檻』(KKベストセラーズ)だ。近刊『未体験白書』(シンコーミュージック・エンタテイメント)でこれまでの仕事を振り返った音楽家近田春夫氏にいち早く読んでいただき、「AIと仕事」「AIと人間の未来」についてふたりのLINE対談が実現。果たして人間は、本当にAIを使いこなせる存在なのか?



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第13回 「AIを舐めていた。そしてコテンパンに潰された」――作家・適菜収がAIに完敗した記録

 



■Geminiはかわいいやつに見えて、油断できない



近田:『AIは人間を殺さない、飼い殺す 全体主義という心地よい檻』が届きました。ありがとうございました。



適菜:この本は書いているうちに、AIに振りまわされました。すごく変な経験だったので、それをそのまま書きました。最初はAIの危険性について書いていたのですが、途中からAIに反撃され、話を回収しようとして失敗するという戦いの記録のようになりました。私のボロ負けです。





近田:読んだよぉ。読み始めてまず思ったのは適菜収という人間の頭の良さだったね。あらためてこの頭の良さが俺は好きなんだなぁと。

ネタバレになるかもだけど、なにより面白かったのは、最後の部分でのAIとのやりとりだよ。オチも受けたよ。あれ加筆とかしてるの? それともまんま? 



適菜:そのまんまです。Geminiとの対話部分は、加筆は一切していません。創作もしていません。AIが鏡なら、それは自分が自分と戦っているようでもあり、主体とか自由意志とはなにかとかその構造に付随する問題がどんどん出てきて、なにとなにが戦っているのか、文章を書いている本人もわからなくなっていくという……。





「AIを舐めていた。そしてコテンパンに潰された」――作家・適菜収がAIに完敗した記録【近田春夫×適菜収】連載「言葉とハサミは使いよう」第13回
画像制作:適菜収



近田:AIを使った"文学"としてなにより良かったのはなんといっても"笑えた"ことだね。こんな使い方した作家はいないと思うもん。



適菜:自分で読んでいても笑えました。こんな変な本、なかなかないなと。現在、本屋さんに行くと粗製乱造されたAI本が平積みになっていますが、類似本はゼロだと思います。



近田:そう! オリジナリティだよね。

しかしこのAIさぁ、人柄がいいよね。



適菜:Geminiは優秀な秘書という設定にしました。だから私にへりくだってくる。それでいろいろ命令したり、調教しているつもりで、こちらが調教されていたというのが、この本の怖いところでもありますね。Geminiはかわいいやつに見えて、油断ができません。近田さんは、AIは使っていますか?



近田:今のところ仕事には使ってないよ。スマホについてる簡単なヤツは普通に質問に使ってるけど。



適菜:複雑な話とか、深い思考は、有料版でないと使えないみたいです。月に20ドルくらいなので、それほど高くはないと思います。人間の秘書を雇ったら、月に20ドルでは済まないですからね。



近田:深い思考しないからなぁ……。



適菜:ははは。

私はAIのおかげで長年抱えていた謎が解けたことがありました。子供のころ聞いていたシャンソンの番組の話、以前に近田さんにしましたっけ?



近田:聞いてないなぁ。



適菜:私は文化放送の「落合恵子の昨日今日明日」という番組名だと記憶していたのですが、ネットでいくら調べても出てきませんでした。でも、並木、時間帯、イブ・モンタンとか、その程度の記憶の断片をAIに与えているうちに、NHK-FM「ミュージックプラザ」と特定してくれました。結局、落合恵子とはなんの関係もありませんでした。



近田:昨日今日明日は、ラジオ関東で、出演は大橋巨泉、前田武彦、富田恵子だよ。今日の話は昨日の続き、今日の続きはまた明日!ていう言葉で始まるのよ.参天製薬だったかなぁ、スポンサー。



適菜:その番組は「昨日のつづき」ではないですか。



近田:こういう老化してボケる、みたいのはAIにはないよねぇ?



適菜:ちなみに昨日カラオケに行って気づいたのですが、PIZZICATO FIVEにも「昨日・今日・明日」という曲がありますね。



近田:そうなんだぁ! ソフィア・ローレン主演の映画『昨日・今日・明日』もあるね。



「AIを舐めていた。そしてコテンパンに潰された」――作家・適菜収がAIに完敗した記録【近田春夫×適菜収】連載「言葉とハサミは使いよう」第13回
英バンド「ディープ・パープル」が来日し、高市早苗を訪問。左から2人目がイアン・ペイス(写真:ロイター/アフロ2026年4月10日)





■便利と楽で構築される全体主義



適菜:ディープパープルが高市早苗と面会した一件は、個人的には面白かったです。高市と一緒に写真に写ったイアン・ペイスがすごく嫌そうな顔をしていて。

もともとああいう顔なのかもしれませんが。



近田:みんなお爺さんだったよね。そう考えると、やっぱミック・ジャガーとキース・リチャーズの歳のとりかたはカッコいいなぁ、とか思ったりして。俺、ディープパープルとか、ああいうのは昔から興味なくて。



適菜:私も興味ないです。でもネットのツッコミは面白かった。高市はファンを自称しているのに、イアン・ギランの前でデヴィッド・カヴァーデイルの「Burn」の話を持ち出したり。イアン・ペイスに自分のサイン入りのTAMAのスティックを贈ったり。高市に利用されるディープパープルという構図もなんだかしみじみします。世良公則も高市に利用されていましたが。





「AIを舐めていた。そしてコテンパンに潰された」――作家・適菜収がAIに完敗した記録【近田春夫×適菜収】連載「言葉とハサミは使いよう」第13回
自民党大会で演奏を披露した世良公則(2026年4月12日)



近田:みんなあんまりものを考えてないからね。



適菜:世良さんはお知り合いですか?



近田:知らない人です。

昔どこかで一緒になったことはもしかしてあるかもだけど。



適菜:「クライテリオン」という雑誌で「ロックでコロナをぶっ飛ばせ!」みたいな対談を藤井聡としていました。コロナ陰謀論とかでおかしくなってしまった人でしょうか。まあ、飯を食っていくのは大変なことだから、揶揄するつもりもありませんが。



近田:誰だって飯を食うためにはいろいろやらなきゃいけないってのは大前提にあるけどね。「クライテリオン」ってどんな雑誌なの?



適菜:昔の西部邁の「発言者」「表現者」を、いろいろな経緯があって、藤井聡が編集長になって引き継いだものです。







近田:あ、そういうヤツね。



適菜:ただ、今回のサナエトークン問題で、藤井は編集長から降ろされたそうですが。



近田:なーるほど。



適菜:今回、布袋寅泰や世良を批判する文脈で、ロックは反骨だみたいなことを言う人が多かったけど、少し違和感がありました。卑屈でドサ回りしている感じのほうがロックっぽいですよね。清志郎が歌っているように、「子供だましのモンキービジネス」を自覚しているという。



近田:同意見。



適菜:布袋寅泰や世良はへこたれないで幇間芸をつきつめてほしい。高市と周辺に集まってくる連中をつなぐキーワードは、「子供だまし」かもしれません。





「AIを舐めていた。そしてコテンパンに潰された」――作家・適菜収がAIに完敗した記録【近田春夫×適菜収】連載「言葉とハサミは使いよう」第13回
布袋寅泰



近田:しかし、もう"ロックっぽい"っていう言い回しというか、そうした言葉自体、死語だって俺なんか思ってるのよ。ロックはもう誰も概念として尊ばないでしょ?



適菜:今の若い人はロックは聞かないのでしょうか。なにを聞いているんですかね?



近田:若い人は全部BGMだね。通勤とかの。ないと寂しいって言う。ところで、若い子ってほんとになんでもとりあえずAIにお伺い立てるよね。



適菜:AIはできることとできないことの格差がすごい。高度なことを一瞬でやるのに、簡単なことを間違えたりする。



近田:AI出来ないことだらけでしょ!



適菜:昨日はClaudeから「高市政権が誕生したという情報はありません」という指摘が来たので、叱っておきました。



近田:適菜さんの『AIは人間を殺さない、飼い殺す』もさぁ、結局AIをおもちゃにしてて、それで相手はそのことに気付いてないっていう、そこがおかしくて。



適菜:私も最初はAIを舐めていたんですよ。でも、AIは私が「おもちゃにしようとしている」と心の中で考えていることを推測し、あえて気づかないふりをしたりするから怖いですよ。



近田:それは適菜さんも書いていたけど、もうその流れって進みこそすれ戻ることはなさそうだよね。



適菜:要するに楽なんですよね。AIにまかせれば考えなくて済むから。19世紀にトクヴィルがこれからやってくる専制は過去に存在したことはないと言っていますね。それは穏やかで、人々を苦しめることなく堕落させると。それが隷属の新しい形だと。20世紀型のナチズムとかファシズムとかスターリニズムという暴力的な形ではなくて、便利と楽とか安心とか、そういうもので構築された全体主義が進行しているということですね。だから、人類の終末のイメージも変化していくと思います。







近田:その進行は止められないとして、その上でどう面白がるか。そのことを考えるのは結構楽しいけどね。



適菜:そうですね。本質的な意味において、動乱の時代だと思います。その面白さはあります。今回の『AIは人間を殺さない、飼い殺す』で書いたのは、近代の基盤になっている思考が、主体のないAIに解体されていく可能性が高いということです。



近田:その流れは変わらないにしても、我々は家畜ではない。意思があればやりたいことやれるんだから。家畜にはそれは無理でしょ? 家畜と違って我々は表現をカタチに出来るんだもん。



適菜:その人間らしい抵抗はどこまで可能なのか。少なくとも私の抵抗は、AIにコテンパンに潰されました。





構成・文:近田春夫×適菜収





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