◆細木数子は水商売女性の「人生の師匠」        



   最近、友人の水商売女性のあいだで細木数子が話題だ。



 きっかけは、Netflixが2026年4月27日に配信を開始した戸田恵梨香主演の連続ドラマ『地獄に堕ちるわよ』である。



 水商売女性だけでなく、ある不動産王の妻も細木数子氏を自分の人生の師と仰ぎ、自宅には「細木数子」シリーズを常備し、頼まれてもいないのに来訪者を六星占術で占っていたという。



 なぜこれほどまでに細木数子は人々を魅了するのか。



 それは細木数子が「敗戦後の女帝」であるからだと私は考える。



 細木数子は、「戦後」の象徴だった。





◆なぜ細木数子は没してなおパパ活女子を魅了しつづけるのか



 細木数子の物語に出てくるのは、まさに「昭和」であり「戦後の焼け野原」だ。



 敗戦、売春、ヤクザ、詐欺師、政治家……ありとあらゆる脇役が昭和だからこそ存在を許されたものであり、細木数子と昭和は切っても切り離せない関係にある。



 1938年に生まれ、敗戦時にはまだ7歳。銀座のクラブママとして名を馳せた20代、占術家として転身した中年期、そしてテレビで「あんた、大殺界よ」と若い女優を一喝してお茶の間を凍らせた晩年。彼女の人生の節目には、必ずその時代の「昭和的な」濃い人々の顔ぶれが付き添っていた。



 そして、平成を迎えてもなお、細木数子を支えてきたのは「昭和への憧憬」だった。



 なかなか現代社会で公言しづらくなった儒教的な価値観——親孝行、家を守る、男を立てる、先祖を敬う——を堂々と説いて憚らない存在こそが細木数子だった。スタジオで若手芸能人に向かって「親を大切にしないやつは、 地獄に堕ちるわよ」と本気で説教する人物は、令和の地上波テレビには絶対に出てこない。



 だからこそ、人は細木数子に惹かれ、今もなお惹かれ続けるのだ。





◆細木数子復活現象とは、衰退していく日本社会の象徴



 もうひとつ、人が細木数子に魅了される理由があるとしたら、それはおそらく現代の日本社会が「第二の敗戦」とでも言うべき「経済敗戦」に巻き込まれているからだ。



 乱発した国債が日本円の価値の低下を招き、その結果として外国人観光客が大手を振る中で日本人は肩身の狭い思いをしている。



 「売春」は「援助交際」、そして「パパ活」と名を変え、さほどそのことに対しての忌避感もなくなってきた。



 今では、パパ活専用のアプリさえ登場するほどだ。



 そうした中で人々は細木数子のようなダークヒーローを受け入れる土壌を再び持ちつつあるようだ。彼女が口にした「大殺界」という独自の運命カテゴリは、本来は六星占術における12年周期のうちの不運な3年間を指す技術用語にすぎなかったが、平成のテレビが繰り返しこの言葉を流したことで、いつしか「人生のどん底」と同義の流行語になった。



 令和のパパ活女子が「大殺界」という言葉に妙な親近感を覚えるのは、自分たちの稼ぎどきが、社会から見ればまさに「大殺界」的な暗部に位置づけられているからだろう。細木数子はその暗部を否定せず、「あんたの今の苦労は、運命の周期だから仕方ない、ただし正しく生きれば必ず抜けられる」と言い切ってくれる、数少ない大人だった。





◆法治と自由が消え、人治と縁故が栄える日本での今後の生き抜き方



 令和がどんな時代か、ということを一言でまとめるなら、それは「法治と自由が消え、人治と縁故が栄える」時代だと言えよう。



 もはや何も持たないものが自らの気概だけで立身出世できた時代は終わりつつあり、受験、起業、投資、それらの成否の何もかもが「親ガチャ」という言葉でまとめられがちな時代だからこそ、細木数子の物語はこれほどまでに注目を集めているのだ。



 Netflixの『地獄に堕ちるわよ』が全9話で描こうとしているのは、おそらく、法治と自由が機能しなくなった戦後の焼け野原を、人治と縁故と気合と占いだけで生き抜いた一人の女性の物語である。

そしてそれが令和の今、最も切実に必要とされているロールモデルだということを、配信プラットフォームは正しく見抜いている。



 パパ活アプリで小遣いを稼ぐ令和の女子大学生が、戸田恵梨香演じる若き日の細木数子の銀座開業シーンに自分を重ねるのは、決して荒唐無稽な話ではない。彼女たちが必要としているのは、令和のきれいごとを重んじる社会では誰も口にしてくれない、「あんた、地獄に堕ちるわよ」と「あんた、ちゃんとやれば必ず抜けられるわよ」を同じ口で言ってくれる、敗戦後の女帝の声である。





文:林直人

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