――あなたはコンビニのない世界を想像できますか?

いまや日本の日常生活に欠かせない「コンビニ」。もしそのコンビニがなくなったとしたら……。
コンビニの最新施策を分析し、小売業の未来図を説く書『コンビニが日本から消えたなら』の著者で、日本一のコンビニ流通アナリスト渡辺広明氏が問いかける。(『コンビニが日本から消えたなら』より一部抜粋し再編集)
バスチー、悪魔のおにぎり、コンビニで新商品が続々。ナゼ?の画像はこちら >>
■「約5万8600店という大規模店舗数が裏付けるマス化の可能性」が商品開発の原動力 

 近年、家電メーカーの低迷により、「日本の商品開発力が弱まっている」との指摘があります。これは〝日本が得意とする多種多様すぎるものづくりからくる負のスパイラル〟が原因なのかもしれません。高スペックでさまざまな機能を詰め込むという手法が、世界では受け入れられなくなっているのです。代わりに、サムソンのような使用頻度の高いスペックに絞り込んだ商品が発展途上国を中心に人気を集めています。

 しかし、「日本の多種多様なものづくり」は、一般的な消費財においては強い武器だと私は思っています。

シャンプーや化粧品、食品など、お客様の多様なニーズに合わせ、これだけ豊富な種類を取り揃えている国は日本だけです。これらの商品を、世界に目を向けて開発していけば、素晴らしい進化を遂げる可能性があります。 そのなかでも、とくに私が期待しているのはコンビニが持つ商品開発力です。

■商品開発に適した巨大なロット数 

 まず前提として、日本の商品の品質が高い理由は工場(大手メーカーのOEM/ 製造受託工場)にあります。日本の工場は徹底した生産管理と時間管理によって高品質を保っています。中国やベトナムなどの工場でも、日本が指導している工場ならば、均一で同品質で製造できるものが増えています。

ただ、時間管理に関しては 日本ほど正確な国はありません。正確できめ細やかに対応できるというのは、商品づくりにおいて、とても大切なのです。

 そして、コンビニの商品開発力が工場とどう関わっていくのかというと〝巨大な ロット数〟を保有していることが武器となってくるということです。商品はロット数で売価が決まります。3000個つくるのと、3万個つくるのと、 30万個つくるのとでは原価が大きく変わってきますからね。コンビニは店舗数が多いため、大手3社が「1店舗あたり3個売れる」と想定したら、各社のロット数は1.5~2万店のため、4万5000~6万個になります。

コンビニの店舗数は、商品づくりに向いた大ロット数なのです。 世界の小売業を見回しても、これほどの店舗数を抱えている企業はありません。 業界トップの売上高を誇るウォルマートでも、店舗数は世界で約1万1300店舗です。これに対し、コンビニは〝国内〟だけでセブン-イレブンが約2万1000店舗、 ファミリーマートが約1万6500店舗、ローソンが約1万4600店舗。世界最高峰の店舗数を大手3社が抱えているのです。

 コンビニのロット数と商品開発の関係を示す良い例が「中華まん」です。

中華まんと言えば、現在は肉まん・あんまん・ピザまん・カレーまんなどが定番です。しかし、コンビニではしばしばエビチリまんやカルボナーラまんといった「変わり種中華まん」が発売されます。 この理由は、コンビニのロット数をもってすれば十分に利益を計算でき、開発可能だからです。ゆえに、売価も100円台を実現できるのです。一方、もしもスー パー1社だけで販売するとしたら、300円や400円で売らないと採算が合わないということが起こりかねません。

 また、売場面積の狭いコンビニは、とても早い回転で商品が入れ替わります。

1 店舗あたりの品揃えは約3000品ですが、1年を経過して定番商品として残るのは3割程度。週1ペースで約100品、年間で約5000品が入れ替わるという超激戦区です。このため、コンビニは商品に対する厳しい目を持っている。これも商品開発をする上で大きな武器となってくるのです。

■コンビニは売れ筋商品を生み出せる

 2019年のコンビニの大ヒット商品は「悪魔のおにぎり」と「バスチー」で、 どちらもローソンの商品です。 「悪魔のおにぎり」は、白だしで炊いたごはんに、天かす・天つゆ・青のりなどを混ぜ合わせたおにぎりです。

2018年10月に発売されると、約11ヵ月でシリーズ 累計販売数は5600万個を突破しました。一方、「バスチー」は表面をこんがりと焼いたバスク風チーズケーキです。2019年3月26日に発売されると、わずか 3日間で販売数100万個を突破( 11月22日時点で累計販売数3000万個)。コンビニスイーツの先駆け的存在となった同社の「プレミアムロールケーキ」が発売5日間で100万個でしたから、当時のブームを超える反響と言えます。

 両商品に共通しているのは、どちらも「流行っているものをいち早くコンビニで商品化した」という点です。「悪魔のおにぎり」は、南極地域観測隊が夜食として食べていたおにぎりから着想を得ました。観測隊のおにぎりがテレビで紹介されると、SNSで話題になり、これをローソンがアレンジして商品化したものです。また「バスチー」も、2018年夏頃からバスク風チーズケーキが専門店を中心に人気が出始めていたため、これを食べやすいコンビニサイズとして開発・商品化したものです。

 流行に敏感で「どちらもローソンが商品化する前から知っていた」という人からすれば、どこかズルいような印象を受けるかもしれません。しかし「南極地域観測隊のおにぎり」も「バスク風チーズケーキ」も、ローソンのヒットを経て大きく知名度を上げました。これは、紛れもない事実です。 つまり、何が言いたいのかというと、コンビニは流行っているものを〝一気にマスマーケット化(マス化)〟するのが、ものすごく得意だということです。そして また、マス化することがコンビニの役割とも言えるのです。

 一方、ネット通販はロングテールは得意ですが、マス化は苦手です。このため、商品開発という点では、ネット通販からはプライベートブランド(PB)のヒット商品は生まれにくい傾向にあります。AmazonがPBのポテトチップスを開発したとしても、セブン-イレブンのPBのポテトチップスには敵いません。なぜなら、目に触れる機会に大きな差があるからです。 セブン-イレブンでPBのポテトチップスを全国約2万1000店舗で販売すると、 毎日1店舗あたり1000人前後のお客様の目に触れるチャンスがあり、全国では 2100万人以上にリーチできます。ところが、ネット通販では自分で調べて自分が好きなものは買えますが、意図しない他ジャンルの商品には触れにくい性質がありますよね。このため、ネットショッピング商品をマス化するのは非常に難しいのです。

■マスの目線で商品開発に臨む

 このため、多くのメーカーは大手コンビニ、とくにセブン-イレブンに頭が上がりません。コカ・コーラや日清食品サントリー、さらには文藝春秋や講談社といった出版社までもが「セブン限定」の食品や週刊誌を出しているほどです。 だからこそ、こうした商品づくりの能力を進化させ、海外を意識した商品開発にも力を注げば、世界のヒット商品をつくることも夢ではないのです。

 「マスマーケットの目線」で考えるということは、コンビニに限らず、商品開発に関わる多くの企業にとっても大事です。商品開発となると、つい個性やオリジナリティを求めがちです。しかし、マスに向けたオリジナル商品は非常に難しい。マニアックな商品はマニアックな層にしか売れず、マス化しにくいのです。 コンビニは最初からロットの大きい、生活に密着した商品を売ります。このため、 マニアックな層ではなく、マスに向けた商品開発を行います。世界に向けて物を売るならば、マスの目線を意識するべきなのです。

 なお、マニアックな商品で成功するとしたら、D2C(Direct to Consumer)です。 D2Cは、自社で開発した商品を自社のECサイトや直営店などで販売し、そこから展開を広げていく手法で、アメリカを中心に流行り始めています。ひと昔前の例で言えば、モンシェールのロールケーキ「堂島ロール」です。当初は自社が直接販売を行っていましたが、人気が出るなかで百貨店などに出店した直営店でも販売されるようになりました。

■なぜ、コンビニですぐに類似商品が登場するのか?

 ローソンの「バスチー」の大ヒットを受けて、セブン-イレブンは2019年 10月8日に「バスクチーズケーキ」を発売しました。実は、業界トップのセブン-イ レブンが他社のヒット商品を追従するのは非常に珍しいこと。むしろ、追従されることの方が多いのですが、この事例からも分かるように、コンビニ業界における類似商品の開発は日常茶飯事なのです。

 コンビニでヒット商品が生まれると、他社本部からは「すぐに似たような商品を開発しなさい」との指令が下されます。そもそもコンビニ間の商品の違いに関して、専門家は理解しているものの、多くの一般消費者はそれほど気にしていません。同じ業態なのだから、同じ物が売れる。それならば、急いで同じものをつくった方がいいじゃないか......という単純明快な理由です。 商品開発において、コンビニは強い発言権を持っています。このため、メーカーや工場に対して「あの商品よりも美味しい商品を2週間で開発してください。来月には発売したいので」といった要求が通ってしまうことも。さらに、そんな要求に応えて実際に開発できるのですから、日本のメーカーや工場の優秀さには恐れ入ります。

 

 

 コンビニは日本の誰もが利用する、日本国民が作り上げた、世界最強のリアル小売業であり、そのことに異論を挟む人はいないでしょう。 

 ただし、昨今、コンビニ問題がネットでテレビのニュースで話題となっています。 

 いま必要とされている社会的課題との向き合いは、オーナー・本部ともに大変厳しい戦いとなります。そんな現状と処方箋を、日本の未来になぞらえて、この本を書きました。皆様が感じた異論反論・斬新なアイデアで、前向きな議論が活発化する機会になれば幸いです。

 

 

では、前回のクイズの答を公開!

Q.コンビニのレジ袋が有料となるのは、いつから?

答えは

②2020年7月
全国で5万8669店舗を誇るコンビニ。大規模店舗数を誇る日本社会の縮図と称されるコンビニで実施されれることによって、環境対策への意識の高まりも大きく広がっていくのではないでしょうか?

 

最後に今回のコンビニクイズを出題します。

Q.コンビニでのタバコの売上は、全売上の何%を占めている?

①10%
②15%
③25%