災いを取り除く“来訪神”はひとに智慧を授け、教え諭す
よく、日本には“八百万の神さま”がいるという。それほど多くの神様がいる、という意味だ。
むかしからひとびとは森や山や川、巌や巨樹など自然のさまざまなものに超越的な力を感じ、祀ってきた。祖先の霊(精霊)も神さまとして大切にされた。
この国は神さまだらけだ。國學院大學文学部の民俗学者小川直之先生は言う。「民俗学では神さまを3つに分けて考えています」。
いつもいる「常在する神」、行ったり来たりする「去来する神」、神輿や山車に乗って村や家々を訪れる「巡行する神」の3種類だ。
「去来する神」は、ひとびとが招き、来てもらう「招来神」と、勝手に来る「来訪神」に分かれる。各地で行われる祭りは、こうした神々をもてなす行事である。
「お盆の迎え火、正月の門松など用意した〝依代〞に降臨する神さまが『招来する神』です。
来訪神とは年に一度〝外から〞ひとびとを訪れる。作物が豊かに実ることを予言・約束して言祝ぎ、災いを除き、智慧や生き方を教えを諭してくれる。「ときには罰したりもします」。
「奇妙な格好」の神さまがムラや家を訪れて祝福する「来訪神は、ワラの蓑をまとったり、ソテツや蔓草で作った衣装を身に着けたりして“異形”のものであることを示します。メンドンやボゼがそうです。
ナマハゲやスネカのように鬼の面を被る神、翁や媼の面を着けるアンガマのような例もあります」。
小川先生は言う。どの祭りでも、訪ねてくる神さまは素顔ではない。顔を隠したり、顔に墨を塗ったりするのが常だ。この世の外から来た、わけのわからないもの。自分たちの理解を越えた恐ろしい存在を神さまと呼ぶことで、ひとびとはある種の納得と安心を得ていたのではないだろうか。
意味が分からない呼び名の神が多いのも、もともとわけが分からない存在だからだろう。
「来訪神の名前の語源や意味を詮索するのはあまり意味がない、と私は思います。お面にしても、鬼のような分かりやすい図象はおそらく仏教が伝来した後、平安時代以降のものでしょう」。
むしろ、ボゼやメンドンのような奇怪な形に、ひとびとが持つ奔放な創造力・想像力を考えるほうが楽しいではないか、と先生。
やって来る神さまをていねいにお迎えし、お送りしないと災いが起こる、という恐怖心がひとびとにはあった。それがお酒を振舞い食事を供する風習となって伝わっている『まつり』は酒食を奉ることである。
「石垣島川平村のマユンガナシは、典型的な来訪神です。豊年を言祝ぐ神さまは、タータバリ(田圃の作り方)やムイ(麦)など作物の栽培法を教えるカンフツ(神口)を唱えます。ひとびとは馳走と神酒で神さまをもてなします」。
来訪神は、季節の変わり目、暦の区切り目にやって来る。それは、時の裂け目にやって来る神さまなのだ。刈り取りや田植えといった農耕の“節目”に、豊作を願うひとびとの心と、おそらく関係がある。
そのように、生活に根差した神祭りだから、当然、部外者としては、ちゃんと敬意を払わなければならない。祭りでタブーとされていることは守る。見学者はフラッシュを焚いたり、祭りの場に侵入したりしてはならない。見かけは面白くても、神聖な神さまは敬うべきだ、と先生は言う。
「こうした祭りは、ひとびとの暮らし、わたしたちの文化を豊かにしてくれるのですから」。
当記事掲載の来訪神の神々は「祭りを彩る神々 日本の各地に伝わる来訪神がスゴイ!」の記事にて詳しく解説している。
〈『一個人』2017年8月号より構成〉
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