3700平方メートルの敷地に地下5階、地上11階、延床面積4万9700平方メートルの大型ビルになる予定で、地下2階から地上11階の13フロアは商業エリアとしてテナントを誘致する。
外観デザインは「光の器」というコンセプト。伝統工芸の江戸切子をモチーフにしたユニークなものだ。数寄屋橋交差点側のメインコーナーから幅115メートルの西銀座通り(外堀通り)に面した一帯はグローバルなブランドなど複数の旗艦店の出店が計画されており、銀座の入り口に新たなショッピングストリートが形成される。東急不動産にとっては「東急プラザ表参道原宿」に続く都心の大型開発案件となる。
再開発されるのは、「モザイク銀座阪急」として昨年まで営業していた銀座TSビル(旧・銀座東芝ビル)の跡地。1934年に建設され、一時期、東芝本社があった。56年に数寄屋橋阪急が開業し、2004年にモザイク銀座阪急に衣替えした。
東急不動産は07年に東芝から1610億円でこのビルを取得し、建て替えを計画してきた。メインのテナントだったモザイク銀座阪急との立退訴訟が補償金60億円で和解が成立したことから、昨年9月から建物の解体工事に着手し、今年9月に着工した。当初16年1月の完成を予定していたが、15年秋に前倒し開業する。施工は清水建設だ。
数寄屋橋交差点周辺には、07年にJR有楽町駅前に「有楽町イトシア」が開業。11年秋には有楽町マリオンの中に「ルミネ有楽町」「阪急メンズ・トーキョー」がオープンするなど、比較的若い世代をターゲットにした店舗が相次いでいる。東急不動産による新たな商業施設の建設で、銀座のファッション戦争が過熱することになる。
大正時代から88年の歴史を持ち、銀座で最初の百貨店である松坂屋銀座店が今年6月30日、建て替え工事のため閉店した。松坂屋銀座店は1924(大正13)年開業。履物を脱がず土足のまま入れるという、当時としては画期的なスタイルを採用。その後、銀座で続々と開業した他の百貨店もそれに倣った。日本で初めてエレベーターガールを導入するなど、人の目を引く仕掛けを次々と考案した。
閉店後の跡地は、持ち株会社のJ.フロントリテイリングと森ビルなどで構成される組合が、銀座6丁目地区を再開発する。9080平方メートルの敷地に地下6階、地上13階の複合商業施設となる予定であり、 “脱百貨店”を掲げるJ.フロントは「松坂屋の店名を残すかどうかは未定」としている。
●ファストファッション大型店の出現08年のリーマン・ショック以降、銀座の風景は様変わりした。ファストファッションと呼ばれる若者向けカジュアル衣料の大型店が出現した。
マウリッツ(H&M)、米アバクロンビー&フィッチ(アバクロ)、米フォーエバー21、米GAPが相次いで銀座に旗艦店を構えた。
カジュアル衣料大手、ファーストリテイリングが運営するユニクロは12年3月、銀座の中央通り沿いに旗艦店をオープンした。地上12階建てで売り場面積は4950平方メートル。ユニクロとしては当時世界最大だった。外国人観光客を接客するため日・英・中など6カ国語に対応できるスタッフを配置した。
ファストファッション店が相次ぎ出店するだけではない。一時、撤退していた高級ブランドの直営店が続々再出店してきた。ユニクロがオープンした12年3月の同じ日に、コム・デ・ギャルソンが新商業施設「ギンザコマツ」西館の1階から6階までの6フロアに自社製品のほかルイ・ヴィトン、セリーヌなど50以上の高級ブランド品を扱うセレクトショップをオープンした。
銀座は高級品と廉価品が共存する街に変貌をとげた。銀座を訪れる買い物客は30~40歳台が中心で、ここ数年は20歳代も増えてきた。半面、これまでの主な客層だった50歳代以上は減っている。東急不動産による5丁目の再開発、J.フロントの6丁目の再開発が完成すれば、銀座は「大人の街」から「若者の街」になるかもしれない。
今春以降の日銀の大規模な金融緩和により、不動産市場にリスクマネーが流入した。国内外の投資家が銀座一等地の不動産価格の回復に期待して、盛んに物色した。
そんな中、ソフトバンクの孫正義社長が個人で9月末、米高級宝飾店ティファニーの銀座中央通りにある「ティファニー銀座本店ビル」を320億円で買ったと話題になった。
このビルはゴールドマン・サックスの不動産ファンドがリーマン・ショック前の07年に380億円で取得、都心の不動産ミニバブルを象徴する高額物件といわれた。その後、リーマン・ショックのあおりで価値が下落。ゴールドマンのファンドが期限までに借入金を返済しなかったためビルの権利は銀行に移り、10年にアジア・パシフィック・ランド(APL)が買収していた。APLは物件の貸付残高(250億円)を上回る価格で売却手続きを開始。海外のファンドなど複数のグループが応札したが、孫正義氏が320億円という破格な高値で落札した。
米不動産調査会社、ジョーンズラングラサールのまとめによると、13年第3四半期(1~9月までの累計)の日本の商業用不動産への投資額は、前年同期比2倍の2兆8420億円に達した。12年通年の投資額1兆9850億円をすでに上回っている。
伝統と格式を供え、日本を代表する繁華街といわれる銀座に、大きな変化の波が押し寄せようとしている。
(文=編集部)