建築資材のスパンクリートコーポレーションが6月26日に開いた定時株主総会で、株主が提案した取締役選任案が可決された。提案した株主は創業家出身で、経営方針をめぐって会社側と対立していた。

会社提案の取締役選任案も可決されており、全員が取締役に就任するという事態になった。

 スパンクリートは建築用の床や壁に使う特殊コンクリートパネル(穴あきPC板)の製造販売が主力。自社株(自己株口)を除くと三菱商事が15.23%(議決権ベース)で筆頭株主。創業家一族の村山典子氏(8.02%)と村山知子氏(6.07%)、創業家が経営する日本スパンクリート機械(14.03%)と合わせて28.12%の株式を保有している(19年3月末時点、株主総会招集通知に基づく)。

 総会では創業者の娘で元取締役の村山典子氏が、自身を含む3人の取締役を選任する議案を提出。村山氏が50.43%の賛成を得るなど、いずれも過半数をわずかに上回った。個人からの賛成票を集めた。

 会社側は「会社提案の経営体制が最良」と株主提案に反対したが、反対票をまとめきれなかった。浮田聡社長の賛成比率は52.27%。会社提案はいずれも賛成比率50%台前半で再任された。この結果、会社案6人、株主案3人の計9人が取締役に就任するイレギュラーなものになった。

 筆頭株主は三菱商事、主要な仕入先・販売先は三菱商事建材。

浮田社長は三菱商事出身で、三菱商事建材取締役常務執行役員を経て2016年6月、スパンクリートの社長に就任した。一方、株主提案の2人の取締役は旭化成建材出身。旭化成建材も仕入先だ。経営権を握る三菱商事建材と創業家を支援する旭化成建材の“代理戦争”と見る向きもある。

 三菱商事は「株主総会で可決された提案内容の是非にはコメントを控える。結果は一株主として尊重する」とコメントした。

JR九州、ファンド提案の自社株買いに34%が賛成

 九州旅客鉄道(JR九州)が6月21日に開いた株主総会では、発行済み株式の6.1%を保有する米投資ファンド、ファーツリー・パートナーズが役員選任案や計720億円を上限とする自社株買い、指名委員会設置会社への移行など6つを提案した。

 すべて否決または不成立だったが、自社株買いの提案に34.10%、指名委員会設置会社への移行に34.36%の賛成があった。ファンドが求めた社外取締役3人の選任については、それぞれ41.69%、40.09%、24.77%の賛成が集まった。賛成率の高さに、JR九州の経営陣は驚きを隠さなかったという。

 ファーツリーの提案には、米国の資産運用会社でJR九州株式の1%を保有するモアブ・キャピタル・パートナーズが支持を表明した。また、米議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホールダー・サービシーズ(ISS)は、自社株買いや社外取締役2人(3人のうちの2人)の選任などに賛成を推奨。

自社株買いは「資本効率の向上につながる」とした。グラスルイスは3人の社外取締役の選任に賛成を推奨した。議決権行使助言会社は、外国人投資家に影響力を持つ。ISSが推奨した2人は40%台の支持率があったが、推奨しなかった1人への賛成率は24.77%にとどまった。

 JR九州の海外投資家の保有比率は18年3月期末の38.01%から19年3月期末には44.71%と6.7ポイント増加した。

 JR九州はファーツリーが株主名簿に記載のない「実質株主」なので発言を認めないとしたため、ファーツリーは株主総会を欠席した。

 JR九州の有価証券報告書には、関東財務局に「変更報告書」を提出した海外の機関投資家が記載されているが、議決権行使の基準日までに所有株式数が確認できなかった。ファーツリー以外にも「実質株主」の海外投資家が多数存在する。こうした「実質株主」を加えると、外国人の株式保有比率は5割を超える。

 悲願としてきた上場を果たしてから2年半。JR九州は実質的な官営企業から完全な民営企業に転換したが、さっそく「モノ言う株主」(アクティビスト)の洗礼を浴びた。

 彼等が目をつけるのは内部留保だ。

会社側に自社株買いを求め、それが実現すれば、手っ取り早く利益を確保できる。

 今回の総会では、投資ファンドの株主提案に、会社側が想定した以上の賛成票が集まった。短期的な利益を求める「モノ言う株主」との対峙は今後も続き、一層、激化するだろう。「鉄道会社の公益性、公共性」(JR九州の会社側の主張)よりも、どれだけ稼いで、それをいかに素早く株主に還元するかを迫られる。

 関西電力が6月21日に開いた定時株主総会では、原子力発電に反対する団体の株主から脱原発につなげる計21の株主提案があった。このうち、取締役報酬の個別開示を求めた提案の賛成率は43.1%に達した。

 三菱UFJ信託銀行のまとめによると、株主提案があった3月期決算企業は54社。前年より12社増え、1981年に法改正で株主提案の権利が付与された以降で最多となった。株主が出した議案数は175件に上る。

 持ち合い株式の解消により、金融機関、取引先などの安定株主が減少しており、相対的に個人株主や海外の株主の声が強まっている。来年以降、株主提案はもっと増えるだろう。
(文=編集部)

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