元モーニング娘。

鞘師里保が、BABYMETALのサポートダンサーとしてコンサートに出演し、アイドル界に衝撃を与えた。このような形で、有名アイドルグループの元エースが、所属事務所の異なる別の有名グループでサポート役を務めるのは、芸能界では異例なことだ。

「BAYBYMETALのSU-METALこと中元すず香と鞘師とは、広島のダンススクール『アクターズスクール広島』で共にレッスンを積んだ旧知の仲であり、その縁もあって実現したようですね」(音楽事務所関係者)

 鞘師は、モーニング娘。時代から所属していたアップフロントプロモーションとのマネージメント契約が2018年11月いっぱいで終了しており、今回はフリーという立場での出演だった。

「鞘師はあくまでも“助っ人”として出演しただけで、BABYMETALの正式メンバーとしてアミューズの所属になるというわけではなさそうですが、アップフロントとしては手塩にかけて育てたアイドルを別の事務所に持っていかれるようなもの。いくらフリーになったとはいえ、アップフロント側からNGが出ることも考えられるケースです。

でも、実現に至ったというのは、ある意味アップフロントの懐の深さも感じます」(同)

 モーニング娘。やアンジュルム、Juice=Juiceなどによって構成されるアイドル集団「ハロー!プロジェクト」が所属するアップフロントプロモーションは、アイドル界きっての“ホワイト企業”と呼ばれることも多い。

「アイドルたちのプライベートでの行動やSNSなどでの発信が制限されることはありますが、その分マネージメントはしっかりしている。そして何より、メンバーたちに“辞める自由”が与えられています」(芸能事務所関係者)

 モーニング娘。のエースとして期待されていた17歳のときに、海外でダンスを学びたいと卒業した鞘師のほか、バラエティー番組などでも活躍していたにもかかわらず介護の道に進みたいとモーニング娘。を2016年に卒業した鈴木香音、短大進学を理由にモーニング娘。

を2018年に卒業した尾形春水など、実質的な活動期間は比較的短いままに卒業するメンバーも多い。また、カントリー・ガールズとJuice=Juiceを兼任していた梁川奈々美は進学を理由に17歳で芸能界を引退、アンジュルムの勝田里奈はファッション関係の仕事に進むことを理由に、今年9月で卒業することを発表している。ハロプロでは、アイドルとしての将来が期待されているなか、アイドル以外の道に進むために卒業するメンバーが多いのだ。

「特に鞘師や鈴木のような知名度が高いメンバーは、事務所として見れば大きな“戦力”であり、それこそ重要な“飯のタネ”になるわけで、卒業や引退を引き止められてもおかしくない。しかし、アップフロントの場合、基本的にメンバー本人の意志が尊重されることが多い。芸能活動よりも、メンバーたちの人生が優先されているという状況は、本人たちにとってはありがたいものだと思います」(同)

ハロプロ研修生という“理想のシステム”

 では、エース級のメンバーが次々と辞めてしまうかもしれないというのに、どうしてハロプロは20年以上も継続することができたのだろうか? その鍵は「ハロプロ研修生」にあるという。

「ハロプロの大きな魅力となっているのが、歌とダンスのパフォーマンスレベルの高さ。そして、そのレベルの高さを支えているのが、ハロプロ研修生という研修組織です。仮に人気メンバーが卒業してしまっても、研修生としてレッスンを積んできたメンバーを新たに加入させることで、グループのパフォーマンスレベルをある程度は保つことができる。そうすることで、できる限り魅力を損なわずに、メンバーの入れ替えが可能となっているんです」(前出・音楽事務所関係者)

 ハロプロでは定期的に一般公募のオーディションも開催されており、そこからメンバーが選出されることもある。しかし昨今では、ハロプロ研修生からの正規メンバーへの昇格がメインルートとなっている。

「研修生からの昇格が増えてきたのは2011年以降。

当時はアイドルブーム真っ只中で、いろいろなアイドルグループがいるなか、元々パフォーマンスレベルが高いハロプロは、結果的にその部分で差別化されることとなったんです。また、この頃は℃-uteが“アイドルに憧れられるアイドル”として認知され始めた時期でもあり、パフォーマンスレベルを高めることが人気につながるということを、ハロプロの運営サイドが実感していったのだと思います」(同)

 たとえばプロ野球のチームであれば、チームを強化して優勝争いをするようになれば、自然と集客が増えていく。ハロプロのパフォーマンス重視の方針は、まさにそれと同じ。プロスポーツチームのようなことをアイドルの世界でやっているのだ。

「メンバーの個性を重視した方向性だと、どうしてもメンバーに頼らざるを得なくなり、そのメンバーの自由を奪ってしまいかねない。しかし、グループの基盤としてパフォーマンスというものがあれば、メンバーの自由を尊重しつつ、グループを続けることもできる。

また、研修生にとっても、パフォーマンスを磨けば正規メンバーに昇格できるチャンスが増えるわけで、努力が報われやすいというメリットもあるでしょう」(同)

 誰もがまねできることではないだろうが、ハロー!プロジェクトは“アイドルたちから搾取しない”運営の理想形なのかもしれない。

(文=編集部)