トヨタ カローラ&カローラ ツーリング」より

 9月17日に発表予定のトヨタ自動車の次期型「カローラ」(セダン&ツーリング[ステーションワゴン])は、当初の情報通りに3ナンバーサイズとなって登場することがわかった。ボディ寸法は4495×全幅1745×全高1435(セダン)・1460(ツーリング)mmとなり、5ナンバーサイズとなる現行「アクシオ」(セダン)と新型セダンを比較すると、全長でプラス95mm 、全幅がプラス50mm 、全高がマイナス25mmとなり、ホイールベースはプラス40mm となっている。

 当初は、すでに北米や中国などでデビューしているグローバルモデルと共通になるとされていたが、そのグローバルモデル比では、全長がマイナス135mm、全幅がマイナス35mm、全高は同じとなっている。ホイールベースはマイナス60mmとなり、「カローラスポーツ」と同じになっている。TNGA思想に基づく共通プラットフォームを採用するものの、国内販売ディーラーには“国内専用ナローボディ”と説明しているようだ。

 グローバルモデルでも、メカニカルコンポーネントの基本部分は共用しているものの、北米市場向け(中国市場でのレビン顔)と、中国、欧州、ASEAN地域などへ向けた2つの仕様が存在しているのだが、これに日本国内専用ナローボディが加わるので、現状で新型では世界市場で3タイプのカローラシリーズがでは存在することになる。

 日本でもセダンだけで毎月2000台前後はコンスタントに販売しており、世界各地でも販売基幹車種となっているだけに、なかなか“グローバルワン”で仕様統一できないのがカローラだ。今回も、結果的には複数のタイプが存在するということは、メーカーも“まだまだグローバルマーケットで量販が期待できる看板モデル”と考えているのかもしれない。

 全幅を1750mm以内に収めたり、全長をグローバルモデル比で縮小したりすることで、最小回転半径5.0m(現行車は4.9m)にするなど、トヨタ以外の日系メーカーのライバル車がグローバルスペックのまま(つまり、けっこう大きいということ)日本国内に導入していることを考えると、国内専用ボディの導入は“トヨタの日本市場への気配り”を感じる。また、それができるだけの強固な販売力を持っていることを物語っているともいえよう。

 ちなみに、国内仕様の搭載エンジンは1.8L+モーターとなるHEV(ハイブリッド)と、1.8Lバルブマチックガソリンエンジン、そして6iMT専用となる1.2Lターボが設定されている。

新型カローラの悩み

 日本市場への気配りから国内専用ナローボディにしたといえる次期型カローラだが、それが逆効果となる可能性もはらんでいる。

 カローラは2006年にデビューした10代目から、日本国内仕様のみ5ナンバーサイズとなるナローボディを採用している。そして、現行11代目の国内仕様は「ヴィッツ」のプラットフォームをベースとした、グローバルカローラとは完全に異なる日本専売(香港など一部輸出あり)モデルとなっている。

 中古車業界に詳しいA氏によると、「セダンについては、国内専売モデルとなった先代と現行モデルは、それまでのカローラセダンと比べてリセールバリューが目に見えて良くありません」とのこと。どうやら、グローバルモデルと共通ではないことで、中古車としての需要が期待できるASEAN地域など新興国での人気が下落し、海外バイヤーの間での引き合いが減っているようなのである。

 12代目となる次期型も結果的には3ナンバーサイズとはなっているが、全幅が少し狭くなった程度ではなく、全長を縮小し、さらにホイールベースまで縮小しているとなると、次期型もリセールバリューの伸び悩み傾向が続くことが心配されるところである。

 日本は今や“世界一の中古車輸出マーケット”ともいわれており、カローラだけでなく、下取り査定額や買い取り額算定に際し、海外バイヤーの間での人気、つまり海外マーケットでの中古車としての人気が価値を大きく左右する傾向が目立っているのである。

ツーリングは販売台数を維持できるか

 また、ツーリングについては、今までのような販売台数を維持できるのかという不安もある。2017年10月に行われたマイナーチェンジのときには、カローラ・フィールダーの月販目標台数は3700台なので、年間にすると4万4400台となる。多少サイズは大きくなるが、次期型のステーションワゴンとなるツーリングに近いモデルとして、スバル「レヴォーグ」を挙げることができる。

 日本自動車販売協会連合会によると、2018暦年でのレヴォーグの年間販売台数は1万5685台(月販平均約1307台)となっている。スバルとトヨタでは販売力に大きな開きがあるので、レヴォーグの数値はあくまで参考値となるが、フィールダーは代々5ナンバーサイズという手頃なサイズのステーションワゴンということで、個人商店などでの貨客兼用や、ライトバンほど酷使しない法人の営業車としての需要もかなり多かった(事実、ビジネスパッケージというものも用意されている)。

 しかし、次期ツーリングは3ナンバーサイズになるだけでなく、現行フィールダーとは比較にならないほどプライベートカー色を強めているので、貨客兼用や法人需要の減少は織り込み済みで開発されているようにも見える。

 現行フィールダーは「プロボックス」&「サクシード」との価格差がそれほど開いていないこともビジネスユースが多かった理由だが、次期型のツーリングでは価格上昇も避けられないところで、間違ってもビジネスパッケージなどは設定されないだろう。そのため、今まで通りのビジネスユースを確保するのは難しいだろうし、トヨタとしてもそれは望んでいない様子が十分に伝わってくる。

失ったビジネスユースの穴をパーソナルユースでどこまで埋めるのかも、興味深いところである。

 ただし、次期型デビュー後もバリエーションを絞って、現行アクシオ(セダン)とフィールダーは1.5Lガソリンと1.5L ベースのHEV搭載車を“EX”として新旧併売とし、ビジネスユースはこちらで対応することになっているとのことだ。ガソリンには4WDやMTなども用意されている。

 新車販売の事情通に聞くと、以下のような答えが返ってきた。

「9月17日の正式デビューまでに、各セールスマンには厳しい予約受注のノルマが課されているようです。ただ、今回は3ナンバーサイズとなっているので、実車を見せられないなかで『実車を見ないと決められない』と結論(契約)を先延ばしにされるケースが多くなることをセールスマンは危惧しています。当面は、カムリやプリウスなど3ナンバー車の既納ユーザーに代替え促進をかけるしかないという声が目立ちます」

カローラを3ナンバー化するトヨタの戦略

「一億総中流時代」という言葉が完全に死語となり、格差社会化が進む今の日本では、カローラが3ナンバー化して上級志向のモデルとなっていくのは、新しいユーザーを求めて「脱大衆車」の道を選ぶという意味で理解できる。

 ファミリーカー自体もミニバンや軽自動車にほぼ移行している現状を踏まえれば、多少のリスクは覚悟しても、カローラが次のステップへ進もうとしている現状は応援したいところである。

 トヨタは今後、全店舗全車種扱いを進める過程で、車種ラインナップの整理を進めるとされている。次期カローラシリーズも「プレミオ」&「アリオン」が廃止されることを前提としているともいわれている。「マークX」は今年いっぱいで生産終了するし、となれば近い将来には、トヨタのセダンは「センチュリー」「クラウン」「プリウス」「ミライ」、そしてカローラぐらいに集約されることが考えられる。

 ただ、過去にトヨタは数多くのセダンをラインナップしてきており、今でもその多くが現役で走っている。

「プログレ」や最終型の「マークII」「チェイサー」「クレスタ」「カムリ」などなど……。これらのセダンはすでに3ナンバーサイズとなっており、カローラの3ナンバー化は、このような過去のトヨタセダンユーザーの取り込みを容易にすると見られている。

 ミニバンやハイト系軽自動車が街にあふれる現状では、トランクを持ったセダンというのは、かなり特殊なスタイルとなっている。ただ、メルセデスベンツBMWアウディといった高級輸入車ブランドでは、セダンはまだまだ販売の主力となっている。次期型ではパーソナルカーの色彩を強めた3ナンバー車となれば、今までになかった新たなカローラユーザーの獲得を十分に狙えるのである。

 3ナンバー化も含め、カローラの「格上げ」は時代の流れであり、大きく期待する部分もある一方、やはり拭いきれない不安も残ってしまうのである。
(文=前之橋三郎/ジャーナリスト)

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