「24時間営業」が代名詞のコンビニエンスストア(以下、コンビニ)が時代の波に呑み込まれようとしている。人手不足、店舗機能の変化、客層の変化や顧客の消費傾向の変化など、経営環境が大きく変化していることで、フランチャイズ(FC)加盟店の経営が成り立たなくなっている。

 コンビニの経営悪化の大きな理由の一つには、加盟店のFC制度という問題点もあるが、今回はコンビニの経営環境の変化を取り上げる。

 ファミリーマートは11月14日、FC加盟店オーナーが希望すれば営業時間を短縮できる時短営業を原則認めると発表した。時短営業希望のFC加盟店は本部と協議をした上で、23時から翌朝7時までの間で、毎日か日曜日のみから選べるようになった。2020年3月から実施する。

 同社では、2019年6月から一部地域で時短営業の実験を開始、10月からは全国約620店に拡大していた。セブン-イレブン・ジャパンでは約280店で時短実験を実施し、11月から8店舗で時短営業を開始、ローソンではすでに現在118店舗が時短営業をしている。

 コンビニ経営が苦境に立たされている要因はさまざまだが、深夜営業での人手不足は深刻だ。開業から10年を経過したFC加盟店のオーナーは、「開業以来1日も休みを取っていない。それでも、年々利益は減少しており、廃業を考えている」という。

 人手不足はコンビニに限ったことではないが、人手確保のための人件費の高騰は経営に大きな重しとなっている。例えば、日本でセブン-イレブン第一号店がオープンした1974 年の東京都の最低賃金は 224 円だった。2019年の東京都の最低賃金は1013 円と約4.5倍も上昇している。

FC加盟店の売り上げが4.5倍に増加するなら利益は出るだろうが、実際にはFC加盟店1店舗の売り上げがそこまで伸びることはない。その上、同業のコンビニの店舗数が急激に増加し、加えて、ドラッグストアなど新たな競合関係も発生している。

消費行動の変化も影響

 今やコンビニの店舗機能は、大きく変化した。コンビニ創成期は、商品のバーコードをレジで読み取り、現金の決済を行うだけだったが、今では店内で調理を行ったファストフードを中心とした食品を販売し、宅配便を出すこともできれば、公共料金などの支払いもできる。店内にはATMが設置され、コンサートや演劇のチケットを購入できる多機能端末機があり、コピーやFAXだけではなく、住民票など公的な証明書類を発行することも可能だ。その上、決済方法も現金だけではなく、クレジットカードからキャッシュレス決済まで利用でき、ポイントカードなどのポイント還元も行っている。

 こうした店舗の多機能化が収益に結び付けばよいが、店内での調理にかかる時間や人手、調理のための費用や売れ残り商品の廃棄費用などを差し引けば利益は薄く、加盟店が宅配便の取り扱いや税金などの収納代行から得られる手数料は微々たるものだ。さらには、宅配便で預かった荷物の破損・紛失、収納代行などでの金額ミスは、すべて加盟店の責任というリスクまで抱えている。

 調理から端末の取扱い方法まで多岐にわたるコンビニの仕事は、すべてに対応するのは難しく、それだけに店員を確保するのは困難だ。ベテラン店員が辞めれば、その穴埋めには四苦八苦することになる。結局、求人に対する応募はなく、FC加盟店のオーナーやその家族が長時間仕事をすることになる。それでも利益は減る一方なのだ。

 確かに競合の激化や人件費の高騰、多機能化による仕事の増加に反して、利益幅が薄いことなども利益が減る原因となっているが、実は一番大きな原因は顧客の変化にある。

 1980年代から1990年代にかけて、コンビニの顧客は20代以下が約6割だった。しかし、2000年代から若者層のコンビニ利用は減少し始め、近年では20代以下の利用は約2割にまで低下している。一方で、50代以上の顧客は約1割から約4割にまで増加している。つまり、コンビニの客層は大きく変化したのだ。

 若者層のコンビニ利用が減少すれば、当然のことながら深夜の顧客は減少する。結果、24時間営業というコンビニの錦の御旗は、FC加盟店の経営を圧迫するだけの“悪習”になってしまった。今後、高齢化の進展により、24時間営業の必要性は一段と低下する可能性がある。

 消費行動にも大きな変化がある。インターネット通販の普及やディスカウントストアの普及により、現在の消費者は定価で販売するコンビニよりもインターネット通販やディスカウントストアで商品を購入する。

 未婚化や晩婚化、核家族化、高齢化の影響は、高齢者や単身者の増加につながり、少量の商品が好まれるようになった。量の多い商品は売れず、小分けされた、あるいは少量の商品が売れる。

このため、販売個数が増えても、売り上げが増加するわけではなくなっている。

24時間営業取りやめは“両刃の剣”

 こうした経営環境の変化が、コンビニの経営を大きく圧迫しているわけだが、コンビニ業界も対策を進めてはいる。たとえば無人レジの導入などだ。しかし、無人レジはコンビニの主力商品であるタバコや酒類を販売することはできない。有人対応が必要だ。宅配便も取り扱えなければ、ファストフードも扱えない。弁当などの加熱もできない。

 加えて、無人レジは万引きが非常に多い。結局、店員が監視するか、監視カメラを設置するなどの対応が必要になり、今のところ、無人レジは有効な手段とはいえない。

 こうなると、今のところコンビニの経営を改善して、少しでも利益を回復するための手段としては、24時間営業をやめるというのは有効な手段に違いない。だが、深夜帯の営業停止は“両刃の剣”でもある。当然、深夜帯分の売り上げは低下するし、深夜帯の営業を停止したことで客離れが起きる恐れもあるからだ。

深夜帯営業の停止が、結果的に利益増加につながり、FC加盟店オーナーなどの過重労働の解消につながればいいのだが。

 まさに、今のコンビニは“前門の虎、後門の狼”という状況にある。

(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)

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