みずほフィナンシャルグループ(FG)の巨額損失の波紋が広がっている。3メガバンクの一角を占めるみずほFGは、2019年3月期決算を下方修正した。

純利益は従来見通しの5700億円から約9割減の800億円となる。約6800億円の巨額損失を計上するためだ。

 7月に統合完了する新銀行システムの償却の前倒しなどで4600億円を減損処理する。損失約6800億円のうちの7割弱だ。

 グループで約500店舗あるが、このうち約100店舗を閉鎖するという、これまでの計画に加え、大都市を中心に数十拠点を追加で統廃合するのに伴い、固定資産の減損が400億円発生する。

 みずほFGの坂井辰史社長は記者会見で「莫大な固定費をかけて預金を集めるビジネスモデルは維持できない」と述べた。

 巨額損失の背景にあるのは、岐路に立つ銀行のビジネスモデルの陳腐化である。銀行は従来、顧客から集めた預金を貸し出しで運用し、金利の利ザヤで稼いできた。店舗は預金を集めるための顧客との接点であり、口座管理は「勘定系システム」と呼ばれるソフトウェアが担う。店舗やソフトウェアの優劣が収益を左右するからこそ、各行は店舗の新設やシステムに莫大な資金を注ぎ込んできた。

 だが、丸3年が経過した日本銀行のマイナス金利政策で利ザヤは極端に縮小。人口減やフィンテックへの異業種の参入もあって、店舗への来客は減る一方だ。


 従来の事業モデルが成り立たなくなるなか、店舗網はメガバンクに共通する“負動産”と化した。

 こうしたなか、三菱UFJフィナンシャル・グループと三井住友フィナンシャルグループは18年3月期、店舗閉鎖にそれぞれ430億円、250億円の損失を計上している。みずほFGは三菱UFJ、三井住友に比べて周回遅れの決断ということになる。

●旧3行の主導権争いでシステム障害が発生

 勘定系システムに関しては、みずほFGには特有の事情もある。みずほFGは18年6月から、グループ内で併存する3つのシステムを、新たに開発した次期システムに移行する作業を始めた。19年7月、みずほ信託銀行の使う旧システムを統合し、作業を終える段取りだ。4600億円の減損をシステムの全面稼働の前に実施したことになる。

 みずほFGは02年4月1日、新銀行の発足当日に大規模なシステム障害を起こした。旧富士銀行、第一勧業銀行、日本興業銀行(興銀)の3行の主導権争いからシステムを統合できず、旧行のシステムを中継(リレー)方式で接続する弥縫策を取った。システムについて門外漢の旧3行の当時のトップが政治的な妥協を図った結果が、巨額の減損処理につながった。

 みずほ銀行の勘定系システムは第一勧銀が使っていた富士通製、営業店システムの端末には富士銀行が使っているIBM製を採用した。みずほコーポレート銀行(CB)は興銀が採用していた日立製をそのまま使った。
3行のメンツに、コンピューター各社の思惑が絡み合ったため、こうした歪なかたちで決着したわけだ。

 最初のボタンの掛け違いが、みずほ銀行の開業初日の大規模システムトラブルの原因となった。

 11年3月15日、東日本大震災の直後、みずほ銀行で再びシステム障害が発生した。2度の大規模なシステム障害を起こしたみずほFGは、合併前の旧3行でポストを分け合う「3トップ制」と非効率な「2バンク制」から決別することを選択した。

 3行が合併して2つの銀行をつくるというビジネスモデルそのものが間違いだったことを思い知らされることとなる。みずほCBは、みずほ銀行に吸収合併され、新「みずほ銀行」として再出発した。

“One MIZUHO”を掲げ、12年、みずほ銀行の新システムの構築が発表された。新システムの開発は旧みずほ銀行のシステムベンダーである富士通、旧みずほCBの日立、旧富士銀とみずほ信託のIBMが分担することになった。旧みずほ銀行と旧みずほCBのシステム統合だけではなく、両行とは距離を置いていたみずほ信託まで一緒にしてしまおうという大プロジェクトである。

 当初の計画ではシステム刷新に4000億円を投じるとしていたが、減損を前倒しする分だけで4600億円に膨れ上がった。この資産に釣り合う収支が見通せないことから、5~10年かけて減価償却するとしていた従来の計画を見直し、一気に巨額の減損処理に踏み切ったことになる。

●代表執行役は坂井社長と新任の加藤純一執行役専務の2人

 今回、みずほFGが「負の遺産」を前倒し処理する決断をしたのは、就任1年目の坂井辰史社長だ。
旧3行による主導権争いと決別すべく、みずほFGは社外取締役で構成する指名委員会が首脳人事を決める体制に移行した。

 指名委員会の指名で、4月1日付で代表執行役に加藤純一執行役専務が就いた。代表執行役は社長の坂井氏と加藤氏の2人体制となった。坂井氏はみずほ証券社長、加藤氏はスイスみずほ銀行社長の経験があり、銀行の外のメシを食べてきた。次期社長の有力候補と目されていた岡部俊胤代表執行役副社長は副会長執行役員へと一歩、退いた。

 社外取締役として指名委員会委員長を務めてきた川村隆氏(元日立製作所会長)は、6月下旬に開催予定の株主総会で退任する。

●収益構造が地銀に近いみずほがメガバンクから脱落する日

 今回の損失計上は、低迷が続く銀行業で重荷になっている「負の遺産」を一掃し、キャッシュレス決済などへの投資に舵を切るための前向きの措置と説明されている。

 坂井氏は「経営基盤の構造を変える。減損の必要のあるものはすべて終わり、(これ以上は)見込んでいない」と“反転攻勢”を目指すが、みずほFGの金融業界での地盤沈下は鮮明だ。

「3メガバンクの3番手」が定位置になっているだけでなく、メガバンクからの脱落の懸念が強まる。

 みずほFGは3メガバンクのなかでもっとも経費率が高く、銀行や信託以外の収益基盤が厚くないことから、収益構造は地方銀行に近いといわれている。

 巨額の減損処理を前倒ししても「ストック部分の粗利の減少は今後も見込まれる」(坂井氏)といった厳しい状況が続く。
資産運用などの手数料収入や現金を使わないキャッシュレス決済の「Jコインペイ」といった新規事業で、いかに稼ぐ力を高められるかが勝負だ。

 3メガバンクのなかで唯一、周回遅れとなってしまった、みずほFGがメガバンクから脱落する日は近いかもしれない。稼ぐ力のないのが致命的だ。

【大手・準大手行の2019年3月期の純利益の見通し】
1.三菱UFJフィナンシャル・グループ        9500億円
2.三井住友フィナンシャルグループ         7000億円
3.ゆうちょ銀行                  2600億円
4.りそなホールディングス             2000億円
5.三井住友トラスト・ホールディングス       1700億円
6.みずほフィナンシャルグループ          800億円

(文=編集部)

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