持ち帰りすしチェーンを展開する小僧寿しが経営危機に瀕している。

 2018年12月期決算で16億円の最終赤字を計上。

10億5700万円の債務超過となった。これを受けて東京証券取引所は3月27日、小僧寿しが上場廃止の猶予期間に入ったと発表した。猶予期間は19年12月期末まで。4月11日に第三者割り当てで新株予約権を発行し、債務超過の解消を目指す。だが、たとえ今回の債務超過が解消されたとしても、収益性を高められなければ、再度債務超過に陥らないとも限らない。抜本的な経営改革が求められている。

 小僧寿しは、持ち帰りすしチェーンの「小僧寿し」「茶月」などの飲食店を18年12月末時点で全国に約250店を展開している。1987年には2300店を超える店舗を展開していたことを考えると、現在の小僧寿しの凋落のほどがよくわかる。収益性の低下も深刻で、最終赤字は18年12月期まで9年連続で続き、18年12月期の売上高は56億円で、10年前の4分の1の水準でしかない。

 小僧寿しの設立は1972年2月。加盟店27店でスタートした。翌年8月には早くも100店を突破。


 持ち帰り専門店というコンセプトと低価格が受けたほか、フランチャイズ方式を採用したことで店舗数はうなぎのぼりに増えていった。店舗数の増加により大量仕入れと大量販売が可能となり、さらなる低価格を実現。安さを武器に出店攻勢をかけ、2000店を超えるチェーンに成長した。2000店を超える前の79年には加盟店総売上高で外食産業日本一になったという。

●回転ずしチェーンとの競合

 だが、2000年代に入ってから回転ずしチェーンがロードサイドに積極的に出店するようになり、回転ずしチェーンに押されて成長に陰りが見え始めた。小僧寿しは主に住宅地に立地していたため、回転ずしチェーンとは商圏が重複する部分が多かった。また、両者はメインターゲットが家族連れであることも重複し、競争は激しさを増していった。

 回転ずしチェーンは価格の安さや、すしが回るというエンターテイメント性を武器に出店攻勢をかけ成長してきた。回転ずしチェーンの登場ですしを外食で食べるという習慣が定着したことは、持ち帰りが専門の小僧寿しには大きな痛手となった。

 一方で、回転ずしチェーンはテイクアウトも強化するようになり、小僧寿しと真っ向からぶつかるケースが増えていった。たとえば、回転ずしチェーン「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトはテイクアウトを強化した結果、08年2月期(9カ月決算)のテイクアウト比率は9.2%にまで高まり、テイクアウトで約46億円を売り上げている。このように回転ずし各社がテイクアウトを強化したため、小僧寿しは窮地に追いやられた。


 住宅地立地で商圏が重複しやすい回転ずしチェーンとの競争が激化したことは、小僧寿しにとっては誤算だった。これは、同業の「京樽」や「ちよだ鮨」とは異なる。京樽やちよだ鮨は住宅地よりも駅前やショッピングセンターに活路を見いだしたため、小僧寿しほど苦戦を強いられていない。また、京樽はほかに回転ずし店「海鮮三崎港」などを展開し、ちよだ鮨は回転ずし店「築地銀一丁」「築地銀一貫」や立ち食いずし店「築地すし兆」などを展開しているため、持ち帰りすし店の不振を他業態で補えている。そのため、ほぼ持ち帰りすし店でやってきた小僧寿しよりも、苦戦の度合いを低く抑えることができているのだ。

●スーパーやコンビニとの競合

 スーパーとの競争激化も響いた。スーパーは買い物のついでにすしを買ってもらえるという点で小僧寿しより有利だ。また、スーパーは鮮魚を扱い、売り場に隣接する調理場ですしを製造して提供しているところが大半のため、「スーパーのすしは新鮮でおいしい」というイメージが強くあることも特長だ。こういったことがあり、小僧寿しはスーパーにも顧客を相当奪われただろう。

 コンビニエンスストアですしが充実するようになったことも大きい。一部のコンビニでは、10年代に入ってから握りずしが充実するようになった。たとえば、コンビニ大手のファミリーマートは低温度でもおいしく食べられる酢飯を開発したことで、それまで使用が難しかったマグロなどの海鮮ネタを新たに使えるようになり、握りずしの品ぞろえを充実させることに成功している。
11年には握りずしの盛り合わせやちらしずしを「チルド寿司」として売り出している。

 ローソンは12年に原材料や製法を見直して新たに「チルド寿司」を展開し、握りずしの強化を図っている。他方、最大手のセブン-イレブンは、手巻きずしは扱うものの、握りずしに関してはこれまで扱いが確認できない。巷では「高い鮮度を保つ技術が確立できていないので、セブンは握りずしを販売することができていない」という声が上がっている。真相はわからないが、いずれにせよ、最大手のセブンが握りずしを販売していないことは小僧寿しに幸いしたといえる。だが、ファミマとローソンだけでも数万店の規模で、鮮度や品ぞろえは小僧寿しにかなわないにしても、コンビニには手軽に利用できるという大きな武器があり、小僧寿しにとって大きな脅威といえるだろう。

●ファストフードとの競合

 さらに、ファストフード店にも押された面があるだろう。面白いことに、小僧寿しの創業者、山木益次氏は自身の著書『寿し革命―小僧寿しの大進軍』(サンケイ新聞社)で「小僧寿しはすし屋ではなく、ファスト・フード・ショップ」と述べている。小僧寿しはマクドナルドのようなファストフード店であり、“手軽に食事したい時に利用する店”という位置付けなのだ。確かにそういった側面はあり、小僧寿しはファストフード店との競争にさらされやすく、その戦いに敗れたといえるだろう。

 ファストフードとの競争では、すしは不利な面が多い。すしはアレンジがしづらい商材のため、差別化が困難で飽きられやすいといえる。
一方、たとえば、ハンバーガーやラーメンであれば、具などを変えることで差別化することができる。また、新商品を適時投入することができるため、簡単に飽きられることはないといえる。回転ずしチェーンが近年、ラーメンなどのサイドメニューを強化しているのは、飽きられやすいすしの弱点を補うことを目的としている側面があり、それが小僧寿しにはない強みにもなっている。

 こういった観点からか、小僧寿しは近年、非すし業態の開発に力を入れている。14年にラーメン店「麺や小僧」を出店したり、宅配ピザのシカゴピザと提携し、同社が展開する「シカゴピザ」と宅配どんぶりの「どんぶり名人」の商品を小僧寿しの店舗で販売したりしている。しかし、どちらも鳴かず飛ばずだ。また、昨年には小僧寿しの店舗にから揚げ店を併設することを始めている。これに関してはまだ始まったばかりでこれからとなるが、予断は許さない。

 すしをめぐる戦いは激しさを増している。そうしたなか、小僧寿しは第三者割り当てで新株予約券を発行し債務超過の解消を図るほか、小僧寿しとから揚げ店が併設した店舗やトンカツ、天丼、海鮮丼などを複合した店舗の開発・展開を進めて中食需要を取り込み、再浮上を図りたい考えだ。小僧寿しのこうした取り組みは、吉と出るか凶と出るか。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

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