山形県沖で6月18日に発生したマグニチュード(M)6.7の地震は、総務省消防庁の発表(6月21日時点)によれば、新潟県、山形県、秋田県宮城県石川県で33人の負傷、145棟の住宅被害を引き起こした。山形県鶴岡市では、液状化現象も起きている。



 今回の地震の特徴、今後の注意点や見通しを、東北大学災害科学国際研究所の遠田晋次教授に聞いた。まず、報道では「ひずみ集中帯」という言葉がよく聞かれたが、これはどういうものなのだろうか。

「一言で言うと、活断層が集中しているゾーンです。日本海側の沿岸の、北海道、青森、秋田、山形、新潟の沖合にずっと続いています。この部分を『プレート境界』として示す論文や本もありますが、それはまだ仮説の段階で、まだよくわかっていません。3.11の震源や南海トラフのようなイメージではなく、むしろ日本海沿岸に南北に延びる内陸地震型の地震多発帯と考えたほうがいいです。
そのさらに南西には、断層のタイプは違いますが、能登半島や若狭湾を経て、島根、鳥取沖、山口、福岡の沖合まで、活断層が比較的多い傾向が続きます。

 いずれにしても、東西方向の圧力を受けていて地殻(地盤)が極端に縮んでいる地域です。日本のなかでも、特に断層の密集度が高いエリアということです。特に長野県北部や新潟、日本海沿岸地域は今回のようなM7弱規模の地震が多く、日本海側といえども津波の危険があります。今回は、このことをあらためて認識させられました」(遠田氏)

 2016年の熊本地震では、M6.5の地震が起きた2日後にM7.3の地震が発生した。そのように、大きな地震が相次いで起こることはあるのだろうか。


「可能性はあるので注意しないといけません。ただ、地震発生後の数時間から1日くらいの地震活動を見ていると、だいたいの傾向が見えてきます。熊本地震では、最初の大地震が来てからも揺れの大きな余震が続きました。現時点でのデータを見ると、今回の余震活動はそれほど活発でもなさそうなので、極端に心配する必要はありません。とはいえ、“地震の巣”と言ってもいいくらい活断層がたくさんある場所なので、近傍の断層に“飛び火”する可能性もあります。引き続き注意は必要です」(同)

●M6クラスの地震は全国で起こり得る

 昨年は大阪府と北海道、今年も北海道、そして新潟と大きな地震が続いている。
日本は地震の活動期に入っているのだろうか。

「大きな地震が発生するたびに『活動期に入った』と主張されることがありますが、特にこだわらなくてもいいと思います。そもそも、世界地図を1枚の紙にして見ると、日本列島がまるまるプレートの境界の中に入ってしまっているわけです。火山もたくさんありますし、地震が多く起きる国なんですね。統計的に見ても、震源の浅いM6くらいの地震は陸地の下では年に1回くらい発生します。

 いろいろな意味で誤解があるのは、政府から発表されている大地震の確率というのは、M7.5以上の非常に大きい地震を対象にしているんです。
Mが1つ小さくなるとエネルギーは30分の1に落ちますが、発生数は約10倍多くなるのです。ですから、政府発表の大地震の発生確率が低くとも、一回り小さいけれども被害の生じるM6の地震は10倍ほど起こりやすくなります」(同)

 今回の規模の地震は、いつ起きてもおかしくないということだろうか。

「基本的にはそうです。ただし、科学的に十分に検証されていませんが、それぞれの地域で地震の起きやすい時期というのが以前から指摘されており、『地震発生の季節選択性』と呼ばれます。今回のような日本海東縁地域の大地震は、初夏から夏に起きやすいんです。また、山陰地域では春と秋が多く、南海トラフでは冬に多いといわれています。
メカニズムは複数提案されていますが、まだ明らかになっていません。今回の地震も1964年6月16日の新潟地震(M7.5)に発生日が近く、単に偶然と片付けにくいところです」(同)

 また、遠田氏は「今回の規模に相当する地震は、ほぼ全国で起こり得る」とも指摘する。

「今回のようなM7弱程度の地震は、日本全国の8~9割くらいの地域で起きてしまう可能性があります。人口が密集している都市直下で発生すれば、局地的に建物の倒壊が人的被害につながる場合もあるでしょう。山間部では地滑りが起こります。同じ規模の地震であっても発生地域によって災害の起こり方が変わってくるため、それを踏まえた対策が必要でしょう。


 首都圏の場合を考えると、震源が地下30~100キロくらいのやや深い地震が多いんですね。そのため、M6.7くらいでは地表に至るまでにそれだけ衰えるので、揺れる範囲は広がりますが、それほど強い揺れにはならないかもしれません。ただ、それでも人口密集地では複合的に災害につながる恐れがあるので注意が必要です」(同)

南海トラフ巨大地震の脅威

 大きな地震が起きるたびに懸念されるのが南海トラフ巨大地震の発生だが、それはどう捉えるべきか。

「大地震が起きると、すぐに南海トラフ地震や首都直下地震が注目されますが、誤解を招きやすいとも言えます。確かに、今後何十年かの間に南海トラフ地震は起きるかもしれません。そして、南海トラフ地震や首都直下地震は、起きてしまえば経済的、人的な被害はとてつもないものになりますが、日本ではほかの地域でも多様なタイプの地震が高頻度で起きます。

 重要性はわかりますが、南海トラフや首都圏ばかりに目が行くと、ほかの地域での防災がおろそかになってしまいます。それでも南海トラフが気になると思いますが、はっきり言えるのは、今回の地震が南海トラフに影響を与えることはないということです」(同)

 世界に類を見ない地震大国に、私たちは住んでいる。それぞれの地域で行政が対策を立てていくのと同時に、それぞれの個人が備えをしておくことが必要だ。
(文=編集部)