Text by 松永良平
Text by 山元翔一
Text by 佐々木しほ
ミツメが8月3日にリリースした新作は、これまでに存在しなかったタイプの録音作品かもしれない。
『mitsume Live "Recording"』は、ライブアルバムのように観客の前でバンドが演奏した音で構成されていながら、スタジオアルバムのように楽曲の土台となるベーシックを録音し、そのうえに歌や楽器をダビングして制作されている。
こうやって文字にするとシンプルにも思えるが、ライブ / レコーディング当日を乗り越え、無事に作品を完成させるということは、ミツメの4人のみならず、レコーディングエンジニアとライブPAにとっても一筋縄ではいかない経験だった。そこにはどのような試行錯誤や挑戦があったのか?
長年、ミツメのレコーディングとライブの現場に立ち会い続けてきた田中章義と松田健一という2人のエンジニアを迎えて、4人とともに話を聞いた。
ミツメ(左から:川辺素、大竹雅生、須田洋次郎、nakayaan)
2009年、東京にて結成。4人組のバンド。これまでに6枚のオリジナルアルバムをリリースし、2022年8月3日には新作『mitsume Live "Recording"』を発表。オーソドックスなバンド編成ながら、各々が担当のパートにとらわれずに自由な楽曲を発表し続けている。そのときの気分でいろいろなことにチャレンジしています。
ーそもそもこの新作『mitsume Live “Recording”』の舞台となった大手町三井ホールでのライブレコーディング(2022年2月26日)のアイデアはどこから?
nakayaan(Ba):仲原くん(※)かな。まず、去年(2021年)の9月に大手町三井ホールで予定されていたワンマンの内容をどうするみたいなミーティングがあって、みんな「うーん」ってなってるときに……。
須田(Dr):タッツ(仲原)と「前回のワンマンとはちょっと違う方向にしたいよね」って話してて。
nakayaan:「レコーディングを見せるのとかどう?」みたいな軽いノリでの提案で、みんなも「それめっちゃいいね!」となったんじゃなかろうかと思います。
ーとはいえ、当日のセッティングは、パーテーションでメンバーを分けたり、ボーカルのブースを簡易でつくったり、というあたりはまだしも、実際にスタジオに置いてあるような大きなコンソールをステージ中央に持ってくるというのは簡単な話じゃないですよね。
田中:結構そこも紆余曲折あって落ち着いたんですけどね。最初にそのアイデアを聞いたときには、(奥田)民生さんがやってるようなこと(※)なのかなと。
でも、タッツに聞いたら「いや、もっと実際のライブっぽい感じで」みたいな話でした。まだ漠然としてたから、「近くなったら相談しようか」ぐらいなノリだったと思います。
左から:須田洋次郎、川辺素、田中章義、松田健一、nakayaan、大竹雅生
須田:具体的なところは正直やってみないとわかんないなって感じで、ぼくらもとりあえず章義に相談してました。
ところが、去年の6月ぐらいからコロナの状況がだんだん悪くなって第5波が来た。そんな状況で準備も進められない、結局延期しましょうとなり、2月に仕切り直し。だから結果的には、延期のおかげでアイデアを練れましたね。
延期がなかったらまた違うものになってた可能性はあります。もっと普段のライブをその場で録る、という方法に近いものだったかもしれない。
田中:結局、今年の年明けぐらいから仕切り直して動き出したんだっけ。
松田:そう。雪がすごい降った日だった。
須田:でも、その時点でもぼくらは「なにをどうしよう?」って状態だった。
田中:メンバー間は意外に「普段のライブを録るのと変わらないんじゃないか?」みたいな雰囲気だったんですよ。
でも、下見の当日に「これ、俺やることあるの?」みたいなことをタッツに言ったら、「なに言ってんの? お前(レコーディングエンジニア)が主役じゃん」ぐらいの感じになっていた。
田中章義(たなか あきよし)
レコーディング&ミキシングエンジニア。ミツメのほか、王舟、PEARL CENTER、橋本絵莉子などのレコーディングも手がける。細田守監督『竜とそばかすの姫』、中島哲也監督『来る』などの映画作品にも参加。
田中:それでその下見のあとに打ち合わせをしたんだよね。あのときに方針が決まった。
松田:「(ライブで)ダビングしようぜ」みたいな話になった(笑)。
田中:そうそう。
須田:ぼくらはぼくらで、当日はお客さんも入るし、ぼくらもお客さんも楽しめる内容にしたい。そうなると曲数はある程度多くやるつもりだったんですよ。だけど田中くんは「いや、(レコーディングするなら)1曲か2曲でいいと思うよ」って意見だった。
田中:松田くんもタッツもわりとぼくと同じ感じのイメージだったかな。
須田:でもメンバーはそのアイデアに驚いて。なので、4人であらためて当日用のデモをつくりながら話して、ちょっと違う方向に一転しました。
川辺(Vo,Gt):やっぱり「お客さんの前で何回も何回も同じ曲をレコーディングするのは面白くはないんじゃない?」みたいな話になったんですよ。
なので、ぼくらのあいだでは「せーの」で4人で録音する曲を前半にやって、後半は普通のライブのセットで、という案だった。そしたら、それじゃ面白くないという意見が出て、根本からプログラムを見直してたら、だいぶ複雑なセッティングが必要という流れになってきて。
田中:だったら卓を借りよう、SSL(※1)に知り合いいるから連絡取ってみよう、と話がどんどん膨らんで、やりたいことをまとめてみると結構複雑だぞ、どうする? みたいな。
松田:やっぱりシステム的に、ダビングをライブの現場でやるのってめちゃくちゃ大変なんですよね。「レコーディングのシステムとライブのPAってぜんぜん違うのにどうやってプレイバック(※2)するの?」とか、非常に頭を抱えました。
松田健一(まつだ けんいち)
三重県出身のライブPA。2016年に株式会社Synkを設立。ミツメのほか、スカートやさまざまなアーティストのライブPAを行なう。アミューズメント施設やホテル、店舗の音響システムなども手がける。
田中:ぼくが普段レコーディングスタジオに持って行ってる機材を全部持ち込むとなると、とにかくややこしい。当日仕込みで間に合うのかもわからない。それを考えるところがすごく大変だったよね。
松田:そうだよね。何回も機材の検証とかで集まって、はたして機能するのか実際につないでみて。
田中:当日一緒に手伝ってくれる人たちに指示するのも大変だからZoomの会議もやったし。
ー結果、ものすごく大がかりなことになったってことですね(笑)。
田中:めちゃくちゃややこしいことにはなったけど、お互いにすごい勉強にはなったよね。
須田:セッティング中の卓を横から撮ってる写真がすごかった。
nakayaan:ケーブルがぐちゃぐちゃで(笑)。
田中:ぼくと一緒に後輩がやったんですけど、タッツがあれ見て「仕事できない人のケーブルのさばき方だな~」って(笑)。
川辺:徹夜して準備してくれてたんでしょ?
田中:「少ない人数で頑張ります!」みたいな感じだったんですけど。蓋を開けてみたらあの倍以上必要だったな(笑)。
ーいま話してもらったのは演奏を録る側の話ですけど、演奏する側は、当初いわゆる一発録りライブを想定してたわけですよね。
川辺:そうです。最初に想定してたのは本当にシンプルなかたちでしたね。
ーでもそれは、お客さんに対してエンターテイメントとしてどう応えるかみたいな意識がすごくあったってことですよね。実際、当日の様子は、想像したよりもずいぶんライブ寄りでした。ベーシックを一回録って、歌と楽器のダビングでもう一回。あれは実際のレコーディングの工程をすごく簡略化したスタイルですよね。
田中:タッツは「ソファをステージに持ち込んで、演奏してないメンバーはそこに座ってるのが面白い」ってずっと言ってたんですけどね(笑)。でも、やりたい曲数とダビング工程とかをメンバーで精査した結果、あのかたちになりました。
川辺:本当なら1曲を4時間とかかけてレコーディングしてるんですけど、それをお客さんが見るのは絶対つまんないだろうって。
川辺素
須田:それぐらいかかるけどね。音づくりから何回もテイクを重ねてだいたい4時間。1日にやれるのは2曲。でも、あの日のライブは1時間半ってことが決まっていた。本当は1曲すら無理(笑)。
nakayaan:そのあいだをどう埋めるかめちゃくちゃ探した結果、ライブでダビングという、誰もやったことのない謎のかたちに落ち着いた。
田中:しかも、二回し(2回演奏)で完結するし、直さない。
nakayaan:すごい縛りですよね。
ーリテイクできないのは、ミュージシャンには恐怖ですよね。
田中:「(最終的に)直していいよ」ってことにしといたんですけど、誰も手上げなかった。
須田:途中で(大竹)雅生のギターソロのやり直しは一回あったよね。ソロだけやり直した。
松田:“恋はかけあし”も1分ぐらいやって止めたよね?
nakayaan:ああ、「間違えた」って最初からやり直した。
ーとはいえ、2回(ベーシック+ダビング)で曲を完成させるって、現代のレコーディングとしては一種の発明でしょ? 必要に迫られて生み出したとはいえ(笑)。
nakayaan:ダビングの曲は4曲ぐらいやるとなって、じゃあ2周目はパーカッションやってみようとかウッドベース弾いてみようとか、そういうアイデアが出てきて。それでなんとかかたちになったかな。
nakayaan
田中:雅生が結構ギター重ねるかなと思ったけど、意外とそうならなかったよね。
須田:複数テイクを録らないレコーディングなんていまは普通ないと思うけど、今回は複数テイクを録れない。その環境でダビングをやるっていうのは、まずうまくいかないだろうなって思ってました。
ーネガティブシンキング(笑)。
須田:録ったあとに「ちょっとこの曲はボツにしたいな」とか、「俺はこっちの曲ボツにしたい」で、結果曲が残んなくなって発売中止というすごくつらいミーティングをしなきゃいけないんだろうなっていうのが、僕は結構見えてました。
一同:(笑)。
川辺:だからライブセットの後半は、普段ライブでリアレンジして演奏してる曲の一発録りで固めました。保険というか。
須田:ダビングする4曲はファーストセットとセカンドセット同じにして、ちょっとでもいいテイクを採用できる確率を高めようと(笑)。
須田洋次郎
松田:冒頭の何曲かはリアレンジした曲ばっかりなんで、たぶん1回目の演奏でどの曲をやってるかわかったお客さんはほとんどいなかったんじゃないかな。ミニマルなリズムをずーっとやってる1回目を聴いて、2回目に歌入ったときの安心感(笑)。
川辺:最初の4人で弾いてるベーシックをお客さんが聴くことって本当にないんだなと、今回あらためて思いましたね。
ーお客さんからすると、ある意味でクイズ感があって。
田中:「サビどこ?」みたいな(笑)。よく間違えずにやったよね。
川辺:普段のスタジオでは仮歌を入れてるけど、あの日はそうすると初めにベーシックだけを聴いてもらう面白みが損なわれちゃうかもしれないって話になったんですよね。
須田:川辺がマイクから離れてメンバーにだけ歌を合図してくれた曲があったじゃない? みんな見失っちゃって、わかんなくなりそうだったとき、川辺がマイクに被らないように微妙に合図してくれた。
川辺:みんな、視線がすごい飛び交ってたので(笑)。
大竹(Gt):ダビングの練習自体、直前のリハでしかやってなくて、いろいろギリギリだったから、ベーシックな演奏自体を聴いてて楽しめるのかってところまでは配慮できてなかったんですよね。
そこが不安だったんですけど、お客さんは結果楽しんでいただいたみたいで、結構マニアックな人がいるなって思いました(笑)。
大竹雅生
川辺:自分たちで乗り越えた部分と技術の力を借りた部分もいろいろありました。まあ一番「なんとかなるっしょ」って思ってたのは仲原くんだと思うんですけど。
やっぱり彼はひらめきがすごいんで。今回も、それをどうかたちにしていくかって過程で大変な作業が何度か発生したけど、それも面白かった。
田中:そもそも最初、ぼくのコンソールはステージの中央に置く予定じゃなかったんですよ。
ーあ、そうなんですか。
田中:最初の配置はステージ袖の予定だったんですよ。でも、「レコーディングスタジオみたいにしたい」ってタッツが言うから、ぼくがお客さんを背負うようなかたちに変えました。あそこまでスタジオ感を出すことは当日にひらめいたんじゃないかな。
川辺:ぼくらは「できるだけドラムはほかの楽器から離そう」とか、どうしても音優先の考えをしてしまうんですよ。でも、仲原くんはやっぱりショーとしてどうなのか、みたいな目線を持ってるんで、それに助けられた結果、見た目的にもとてもいい感じになったのかな。
田中:(大手町三井ホールの)あの環境じゃなかったら、あそこまでよくならなかったかもね。音もそうですけど、やっぱロケーションとしてステージの後ろ側の景色が見えるのはすごくよかった。ぼくらが下見に行ったときには雪が降ってたから、とにかくそこに胸打たれたんですよ。すっごい綺麗だったから。
一同:(笑)。
松田:本当は後ろのカーテンを閉じたほうが音の反射が少ないみたいな話をしてたけど、「いや、絶対開いたほうがいい、これは見せよう」みたいな(笑)。
川辺:テンションが上がるから(笑)。
ー音響的な話かと思ったら、気分が上がる景色の話だった(笑)。
『mitsume Live "Recording"』当日の様子 / 撮影:トヤマタクロウ
―ここからはアルバムに収録された8曲に対して、6人それぞれに思い入れがある1曲を挙げてもらいたいと思います。
田中:ぼくは“恋はかけあし”ですね。今回、録り終わってから、普通に録った音のままミックスするか、それともなにか加えて面白い音像にするかを相談したんですよ。
そしたら、意外にもメンバーからポストプロダクション(※)があっても面白いかもしれないっていう反応が帰ってきた。じゃああえて思ってたよりいじろうって感じになったんですね。
ドラムやリズムマシーンの定位を左右に振ったりとか、そういう面白いことをやるならこの曲かなって思いながら当日聴いてたんで、実際にできてよかったなって。
松田:ぼくは“停滞夜”かな。今回の“停滞夜”は、最近よくライブでやってるリアレンジバージョンなんですよね。
ぼくは以前のオリジナルバージョンが好きで、オリジナルではレコーディングでテープエコーをボーカルにめちゃくちゃかけていて、あれをライブでもやるのがすごい気持ちよかったんですよね。
松田:でも、リアレンジになってからは、あんまりはまらないと思ってずっとやってなかった。でも、今回収録されたバージョンを聴いたら、ボーカルだけオリジナルを踏襲したテープエコーがかかってる感覚があって。
田中:そうだね。なんの疑問もなくかけてる(笑)。
松田:そうだよね! 意外とこのバージョンでのテープエコーもいいなと思ったんで次のライブからやろうかな(笑)。
ぼくらライブPAって、まず音源を聴いてそれをライブで再現してみるところからはじまるんです。なので、レコーディングのエンジニアがやることにはすごく影響される。そういう意味で“停滞夜”のサウンドの解釈が、ぼくと田中さんのあいだでもう一往復したみたいな感じ。
―ライブではテープエコーはかかってなかったですもんね。松田さんのライブのサウンドを受け取って、田中さんがポストプロダクションでさらに打ち返すという。
田中:ぼくらレコーディングエンジニアもライブ作品のミックスのときに、現場でどう変わって、どういうエフェクトがついているか参考にしますからね。
今回みたいに会場で出ている音を無視して作業できることはあまりないかもしれないです。しかも、それでオリジナルバージョンのエフェクトに戻るという。
須田:初めてレコーディングのエンジニアとライブのエンジニアが同じ場所にいたから起きたとも言えますよね。
田中:リアルタイムにやったからこそ生まれたラリーというかね。
ーいきなりエンジニア2人から模範解答出ました(笑)。
川辺:ぼくは“cider cider”ですね。このアレンジで、もう2、3年やってるんですけど、当日は「なんかめっちゃ音いい!」みたいな衝撃がありました。
川辺:あの日は、章義くんのレコーディング用機材を通過した音を使って松田さんがPAをしてたんですけど、一つひとつの機材から出る音がめちゃくちゃ違って。
3人が演奏してるのを客席で聴いたけど、すごい音でびっくりしましたね。「こんないい音でPAすることって本当にない」みたいなことを松田さんも言ってたし、ライブ録音を聴いても違いをかなり感じた。
須田:松田さんは、当日いかにその音に感動したかを楽屋でぼくらに話してくれたんですよね。その道でやってきた人がそんなに感動するって相当のことだなと思いました。
川辺:ぼくらの演奏とか声とかに合わせて全部チューニングをちゃんとした機材でライブをやる機会ってたしかに全然ない。それが体験できて、すごく面白かったですね。
大竹:個人的に好きなのは“モーメント”ですね。章義が言ってたみたいに、この曲もライブではあるけど録音物としてミックスで手を加えたものなので、仕上がりがすごいよくなった。ハイファイな環境で録ったのを汚したというか、テープみたいな音質に加工してるんですよ。お気に入りですね。
nakayaan:“モーメント”には、自分の非常に拙いトランペットが入ってますが(笑)。
須田:でもミックスは、nakayaanのトランペットを中心に考えてたよね。
田中:そうだよ、だってテープエコーかけたのもあれをいかによく聴かせるか、みたいな狙いだったから(笑)。
須田:あのヘロヘロ具合って出そうとしても出せない。だけどヘロヘロでもよさがあるからOKテイクなわけで。じゃあそのよさを押し出していくにはこういうエフェクトをかけてってところから曲全体の音像になっていったんじゃないかな。
nakayaan:俺ね、章義さんに「すっごいリバーブとか入れてぼやかしてトランペットちっちゃくしてくれ」ってお願いしてた。なのに、ミックスで一番でかくなってた。
田中:そういうのだけ、nakayaanは個別で送ってくるんですよ(笑)。
nakayaan:そして、結果的にトランペットめっちゃでかくなるっていう(笑)。
田中:前面に押し出してあの雰囲気で持っていっても絶対いいと思ったからね。
ートランペット吹く場面は名場面だと思いますよ。ちょっとドキドキしちゃうけど。
nakayaan:自分でもめちゃくちゃドキドキします(笑)。
控え室でトランペットの練習をするnakayaan / 撮影:トヤマタクロウ
ーnakayaanのセレクトは?
nakayaan:1曲目の“Fly me to the mars”ですね。リアレンジとしてすごく気に入ってる。キーボードの音が何重にも重なっていて、レコーディングのライブっていう縛りがあるなかであんな綺麗なアンサンブルを重ねられたってすごいなと思います。
あと自分の話で言うと、初めてウッドベースを録音できました。このウッドベースも非常に拙いですけど。ライブのちょうど1か月前に新間功人さん(※)から安く譲ってもらったんです。本番まで血が出るくらい猛練習した日々を思い返すとすごいジーンとする。
川辺:nakayaanチャレンジタイム、今回は結構あった。
田中:ウッドベースだけはとにかく練習しろって言った。トランペットはヘロヘロでも味が出せると思ったけど、ウッドベースは音をちゃんと出せないと結構やばいなって。
nakayaan:章義さんにそんなことを言われたのは忘れてましたが(笑)、そんなこんなでチャレンジの年でした。
ーさっきのライブダビングのチャレンジ性でいうと、“Fly me to the mars”はそれをすごく感じますよね。アルバムの1曲目にこれが入ってると、そういう個性のアルバムなんだとよくわかる。
田中:実際のライブでは“トニックラブ”が1曲目で。
川辺:なんでアルバムの1曲目にしたんだっけ?
須田:結構なんとなく決めたようなフシもありますけど。松永さんがいま言ったように、ダビングしてつくった作品って感じが一番色濃くあわられてる曲ですね。そういう意識があったのかもしれないです。
ーこれで正解だと思ってます。
―では、大トリで洋次郎くん。
須田:ぼくは“number”かな。先行で公開された曲なんですけど、じつはいままでいろんなツアーで“number”のリアレンジしようとして失敗してきた曲でもあるので。もう全然うまくいかなかった(笑)。
川辺:そもそもリリースツアーでも演奏できなかったんだよね。最初のアレンジでさえ無理だった。
須田:元のアレンジが音数を減らしちゃうとよさが成り立たないし、演奏自体もかなりシビアで難しい。4人でできるようなリアレンジも何度も失敗してボツになってきたんです。
しかもこの曲だけ同期を使っていて、かなり細かい16分の打ち込みのリズムがある。そこに僕が16分のビートを重ねるんで、それがズレちゃうと気持ち悪くて聴けたもんじゃなくなっちゃうだろうなと思ってました。またうまくいかなかったら悲しいなって(笑)。
川辺:またしてもネガティブ(笑)。
須田:でも、今回のコンセプトなら今までとは違うやり方でうまくいくかもしれないと思ってやってみて、ようやくうまくいった。ミックスのときも大きいスピーカーで聴いたら意外と面白い感じになってるし、これはありかなと。
nakayaan:リードトラックにもなったし。
須田:ただドラムだけに関して言うと、もう1小節目でとちってる。
一同:(笑)。
田中:ミックスのとき「これ直せないよねー?」ってずっと言ってたよね(笑)。
須田:でも、そんな曲がうまくいってリードトラックになったから、本当にミラクルが起きたなって思います。
ーそういう意味ではやっぱり“number”はこのアルバムの象徴的な曲ですね。
―今回、ほかの曲でも元のアレンジを振り返ってみて特に思うことはありました?
大竹:正直に言うとそれについての感想は自分のなかになくて……今回リアレンジするにあたって聴き直したり、振り返ったりということをしていないので。元のアレンジは考え抜いてたどり着いた答えなので、それを越える新しいアレンジを考えるのはなかなか大変というのはありますね。
須田:それがあるから“number”は失敗し続けてきた。
川辺:あのよさが出ない、みたいなね。あれは越えられない、とか。
田中:でもミツメは、そのときどきのモードでできることをやってるだけだと思うんです。過去を振り返ったところでいまはモードが違うから別に、ってぐらい。同じ土俵でアレンジし直してないのがいいんじゃないすかね。
須田:自分たちが好きなバンドだったらこうするだろうなとか、そういう思いが積み重なってきただけなのかな。「いいな」「好きだな」ってものだけ積み重ねてきました。
『mitsume Live "Recording"』当日の様子 / 撮影:トヤマタクロウ
ーもしも仲原くんが「またあれやろうよ」って言い出したらどうしますか?
川辺:タッツは「毎年やろう」って言ってましたよ。
須田:あの日、終演後のこれから大変な片づけが待ってるこの2人(田中、松田)も「毎年やろう」って言ってましたね。
田中:1回やったから、次はもうちょっと楽だよね。
松田:でも新しいことにまた挑戦しなきゃいけない。
須田:今回こういう形態で作品にするっていうことが、バンド組んだ頃は絶対にできなかったし、5年前でもできなかった可能性が全然あると思う。
なので、結果かたちにできたことは成長してるのかな。実際、ぼくはかたちにできない可能性は全然あるなと思ってたので。少なくとも自分のなかの想像や想定よりバンドは骨太になっていて、力がついてるのかなとあらためて思いました。
田中:やればできるじゃんって思ったよ。
松田:普段のライブでもこれくらい演奏クオリティを高めつつ、かつエモーショナルになったら一番いいんでしょうけどね。
田中:それを俺ずっと言ってるんだけどね!
ー駄目出しタイムはじまりそう(笑)。
一同:(笑)。