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Text by 山元翔一
Text by 小鉄昇一郎
Text by 寺沢美遊
Text by えちごやミュージック



2021年初頭、Twitter上で大きな話題を集めた高校生テクノユニットを覚えているだろうか。



中学時代、YouTubeで見たYellow Magic Orchestraのミュージックビデオに衝撃を受けた岩井莉子と、その高校時代の友人である高橋芽以によって結成されたLAUSBUB。

本格的な音楽活動期間は1年ほどだったにも関わらず、オリジナル楽曲“Telefon”はSoundCloudの全世界ウィークリーチャート1位を記録した。



コロナ禍の受験期を乗り越え、2003年生まれのふたりは晴れて大学生となり、キャリア初となるCD作品『M.I.D. The First Annual Report of LAUSBUB』を11月16日リリースした。本作に収録されている細野晴臣“Sports Men”のカバーがまず目をひくが、今年8月にふたりは細野のラジオに出演し、LAUSBUBの音楽に大きな影響を与えたであろう張本人との対面も果たしている。



初めての配信リリースから音楽性にさらに磨きがかかった本作について、その背景にあるふたりの環境の変化や音楽的関心について、自身も音楽活動を行なう小鉄昇一郎が話を聞いた。



あの高校生テクノユニットはいま。LAUSBUBが大学生になって語る、音楽的関心、制作環境、将来の展望

LAUSBUB(ラウスバブ)
2020年3月、北海道札幌市の同じ高校の軽音楽部に所属していた、岩井莉子と髙橋芽以によって結成されたニューウェーブテクノポップバンド。2021年1月18日、Twitter投稿を機に爆発的に話題を集め、SoundCloudで全世界ウィークリーチャート1位を記録。

2022年11月、初のフィジカル作品『M.I.D. The First Annual Report of LAUSBUB』をリリースした。 / 関連記事:2003年生まれのLAUSBUBが語る 人生を変えたテクノとの出会い(記事を開く)



─2021年初頭に“Telefon”がバズったとき、おふたりは高校生でしたが、受験を経て、いまは大学生ですよね。学業と並行しての音楽活動となると、今回の制作も、なかなか忙しかったのではないでしょうか。



岩井(Gt,Syn,DJ,Electronics):はい。今回のEPは、SoundCloudにのみアップしていた曲のリメイクと、細野さんの“Sports Men”のカバー、それと新曲“Ambient Fog”と“Wind City”の2曲なんですけど……特に新曲は締め切り直前にできて、慌ただしかったですね。



─“Sports Men”のカバーは、どういった経緯で?



高橋(Vo,Ba):受験が終わって一発目のライブが、同世代の札幌の人たちとのイベントだったんです。

勉強が終わって久しぶりのライブだったんで「新しい曲やりたいね」って話になったとき、莉子が提案したのかな? “Sports Men”のカバーやろうって……ふたりとも好きな細野さんの曲なので。



─ほかにカバーの候補はあったんでしょうか?



岩井:YMOの“ONGAKU”とかも考えていたんですけど、ちょっと、いまの自分たちには早いというか。演奏の技術的なこともそうなんですけど、40~50代とかになってからやってもいいんじゃないかと思ったんです(笑)。



─あれって教授(坂本龍一)が、自分のお子さんに向けてつくった曲ですよね。たしかにもうちょっと年齢を経てからのほうがいいのかもしれませんよね。



岩井:“Sports Men”のように、自分たちの音色でいろんな曲のカバーをするのは今後もやってみたいですね。



─先日は細野さんのラジオに出演されていましたよね。どんな印象の人でしたか?



岩井:神々しくてよく見れなかったんですけど(笑)、空気が変わるというか……背負ってきている歴史が、そういう空気を運んでくるのかなあと。まさか会えると思ってなかったので、感激でした。



高橋:ずっと緊張しっぱなしで、いま考えてもドキドキするくらいで、夢見心地な感じだったんで、印象はうまく言葉にできないですね。でもいま思えば、すごく優しい方で、話を振ってくださったり、自分たちみたいな年の離れた人間にも興味を持っていただいて、ありがたかったです。



―細野さんのほかに、いつか会ってみたいアーティストはいますか?



岩井:うーん、Corneliusの小山田圭吾さんはいつかお会いしてみたいですね。



高橋:私は莉子と出会ってから、本格的に音楽を聴きはじめたという意識があるんですけど、最初に勧められたのもCorneliusでした。



岩井:『FANTASMA』(1997年)の初回盤を「絶対になくさないでね!」って念押ししながら貸しました(笑)。



─イヤホンが付属品としてついてくる初回盤ですよね。1990年代のCDって、そういうパッケージングも魅力的ですよね。



岩井:凝ったパッケージによって、より作品がコンセプチュアルになってるものがいっぱいありますよね。自分もせっかくデザインの勉強をしているので、今後のLAUSBUBの作品で活かしたいです。



─岩井さんはデザインの勉強をされているんですね。ビジュアルやアートワーク面ではどんなものに影響を受けてきましたか?



岩井:やっぱりYMOやKraftwerkのジャケットですね。「ロシア構成主義」は勉強しましたし、Molchat Doma(※)みたいな現代のバンドのアートワークもカッコよくてチェックしています。



岩井:あと今回のEPの収録曲ではないですが、“Solaris”のミュージックビデオや音像は映画からの影響もありますし、ほかにもいっぱいあります。



─そういった情報を得るのはインターネットが多いですか?



岩井:そうですね、SNSだったり、あとは周りに映画が好きな人とかも多くて、人から教えていただくことも最近は多いです。高校生のときに比べると人脈が少しずつ広がっているので。



─ニューウェイブとか電子音楽って、2人組の魅力的なグループが昔からいっぱいいますよね。Suicide、Soft Cell、DAF、日本だともちろん電気グルーヴだったり。3人組だったら曲の方向性について意見が割れても、多数決という手がありますが、ふたりだと難しいですよね。そういう場面ではどうしていますか?



岩井:音楽的なぶつかりはないですね。ぶつかるのは……夜ごはん何にするかとか(笑)。私が結構せっかちで……。



高橋:逆に私がちょっとルーズというか(笑)。イライラさせないようにしないとって、急いで。



岩井:そのプラスマイナスがあるから、成り立っている部分もあります(笑)



─もう大戸屋でいいじゃん! っていう。



高橋:いや、大戸屋は普通に好きです(笑)。



─今回のEPを客観的に紹介するとしたら、どういうふうに説明しますか?



岩井:EPのタイトル『M.I.D. The First Annual Report of LAUSBUB』は、Throbbing Gristleのアルバム『D.o.A. The Third And Final Report』(1978年)のオマージュなんです。



「第一次活動報告書」というとおり、高校時代からの活動の総集編という趣旨で、いままでのふたりの活動をみんなに報告しよう、という。



あの高校生テクノユニットはいま。LAUSBUBが大学生になって語る、音楽的関心、制作環境、将来の展望



─これまでのLAUSBUBの曲は、ニューウェイブやテクノポップといった言葉が似合うものが多かったですが、今回のEPは、その延長線上にありつつ、1990年代以降のテクノ、アンビエントの要素があるように感じました。そこは意図的なものでしょうか?



岩井:あまり意識はしていなかったんですけど、受験勉強に集中している時期に、YMOの『TECHNODON』(1993年)を聴き込んでいたんです。



『TECHNODON』にはその時代の音がすごく反映されていると思うのですが、曲をつくるときも、自然とその影響から音色を選んでいたのかもしれません。



あの高校生テクノユニットはいま。LAUSBUBが大学生になって語る、音楽的関心、制作環境、将来の展望



─『TECHNODON』、最高ですよね。リイシューが少し前に出ています(※)。



岩井:私もリイシューのニュースを見たときに、そういえばYMOのアルバムのなかであれだけあまり聴き込んでない、と気づいて、改めて聴いてそこからハマりました。いま聴くとすごく2020年代にぴったりな音というか……すごく尖ってる曲ばかりだと思うし、これを東京ドームで演奏したのが信じられないです。



─でもあのアルバムだけストリーミングにもないし、メンバー3人もあまり言及しないし、ちょっと不遇な扱いというか……。



岩井:あんなにいい作品なのに。あの作品についてSNSなどで触れられている方は、私の知る限りパソコン音楽クラブのおふたりくらいしかいない(笑)。いま、2022年に聴くとまたいい作品というか……みんなあのよさに早く気づいてほしいです!



高橋:私も受験期は、何か音楽をかけたいけどテクノって気分じゃない、という感じでずっとアンビエントをかけていました。



アナ・ロクサーヌっていう女性ミュージシャンの作品とか……だから今回、莉子が“Ambient Fog”って曲をつくってくれたことはすごく嬉しかったです。



岩井:たしかにその時期、芽以が「これいいよ」ってアンビエントとかドローンの曲を送ってくれたことも何回かありましたね。サム・ゲンデルがふたりのあいだで流行ってたり、あとはクレア・ラウジーが去年出した『a softer focus』もよく聴きました。



あの高校生テクノユニットはいま。LAUSBUBが大学生になって語る、音楽的関心、制作環境、将来の展望

アナ・ロクサーヌ『~~~』(2019年)を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)
クレア・ラウジー『a softer focus』を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)



─同世代のミュージシャンで気になる人、シンパシーを感じる人はいますか?



岩井:面識があるわけではないんですけど、Salamandaっていう韓国のアーティストは気になっています。女性の2人組で、いつ見ても「カッコいいなあ、こんなふうにできたらなあ」と思います。



─自分たちと同じ組み合わせというか、同じ「シルエット」のチームを見ると意識しますよね。女性2人で電子音楽というと、ベルリンのgroup Aなども有名です。



高橋:あと、この前の渋谷PARCOのイベントで共演した玉名ラーメンさんは、年も近いし、昔から好きだったので、会えてすごく嬉しかったですね。お姉さんのhanaさんがアートワークを手がけて、ふたりで作業をうまく分担して活動されてるのとか、すごいなあと尊敬してます。



─でもおふたりがもう、後続のアーティストの卵たちにとって、ロールモデルとなる存在になりつつある気がします。札幌から友達ふたりで音楽をつくって、ネットを通して世に出て、憧れのミュージシャンに近づきつつ、CDを出す、というステップアップを経ているわけで。



岩井:ありがとうございます。



─制作環境についてお聞きしますが、今回、Live(Ableton)を購入されたそうですね。



岩井:Liveを使って初めてつくったのが、今回の“Wind City”です。機能をいろいろ使い過ぎてごちゃごちゃしてるんですけど(笑)、いろいろ試してるうちにできました。



─ソフトでも楽器でも新しく買ったら1曲できる、みたいなのはありますよね。



岩井:これまでギターはアンプ直挿しだったのが、エフェクターとかも最近買って、制作のときにかけてたエフェクトをライブでも再現できるようになったりしています。



高橋:私も最近エフェクターを買いはじめて、ライブでの音をもっとよくしたいなーと。



岩井:バイトの休憩時間、ずっとサウンドハウスのホームページを眺めています(笑)。



─KORG MS-20 miniは昔から使っているんですか?



岩井:あれは最初に買った実機のシンセで、高2の冬くらいに買って、いまでも気に入ってます。



オリジナルのKORG MS-20はDAFも使ってるし、安いし、見た目もカッコいいと思って買いました。いつかはライブでも、ドラムマシンとかもMIDIで同期して、いっぱい機材を並べて演奏したいんですが、手が足りないんで……芽以ちゃんにも操作を覚えてもらって手伝ってもらおうと思ってます。



高橋:手伝います(笑)。



岩井:あとRolandのサンプリングパッドを買ったので、それも芽以ちゃんが叩くようにして、ライブ中のモーションがひとつ増えました。



─New Orderが腕振り上げてバチで叩いてるみたいなあれですよね。



高橋:その映像を見せられました(笑)。



岩井:こうやって叩いて! っていう。



─いま一番欲しい機材は何ですか?



岩井:ちゃんとしたモニタースピーカーですね。いまは音楽制作用じゃないパソコンのスピーカーを使ってるので……今回のEPのミックスでお世話になった齋田さんというエンジニアさんにオススメしてもらったJBLのモニタースピーカーが欲しいです。いま、机もないので制作環境はどうにかしたいです……(笑)。



高橋:私はベースの音をもっとよくしたいんで、エフェクターをもっと集めていきたいですね。



─大阪、札幌、東京とリリースツアーを予定していますよね。どのようなライブになるんでしょうか?



岩井:演奏中の動きやパフォーマンスも高校生のときよりパワーアップさせたいですね。あと最近のライブでは、曲と曲のあいだに無音をつくらず、曲をつなぐように演奏してます。



EPのアンビエント的な曲と、“Telefon”や“Solaris”など過去の曲のあいだに、いま自分たちが聴いてるガバやシンゲリ(※)を反映させた演奏を……自分たちがいま聴いてる音楽をダイレクトに反映して、EPの空気感だけではないツアーにしたいです。曲と曲のつなぎの演奏で、次回作の予告というか、自分たちの次のモードをアピールしたいなと。



─いま自分たちが聴いている、というのは具体的にどんな音楽なんでしょうか?



岩井:受験期は、ガバとか……あとはビョークの新譜はとても好きでした。以前から好きなインドネシアのGabber Modus Operandiも参加してて……自分も長く音楽を続けるとしたら、ビョークのように、新しいことをやり続ける、エネルギッシュな人間になれたら最高だなあと思いました。



─受験勉強しながらガバ、というのも強烈ですね(笑)。



岩井:ガバで踊ってるインドネシアの人の動画がバズってて、その曲や映像の詳細を調べてるうちに、インドネシアのガバシーンに行き着いてハマりました。



受験生活があまりにも淡々とし過ぎていて、音楽活動もできないし……ガバはそういう日々の刺激としてありました(笑)。調べていくと私が好きな民族音楽の要素も入ってたりして、いまもその周辺のシーンは追い続けています。



高橋:私はオランダのDJのUpsammyというアーティストの曲を最近よく聴いてます。受験期からよく聴いていて、シンプルな展開に急に奇抜な音が入ってきたり、華やかなメロディーがあったり、すごく面白いアルバムで。



DJもよくて、LAUSBUBもDJをしたいとよく話してるので、憧れますね。札幌の「Oven Universe」っていうレコード屋でその人のEPを買ったんですけど、その店は他にもラインナップが面白くて、ふたりでよく行きます。



岩井:わりと最近できた店なんですけど、札幌でここしか取り扱ってないだろうなってレコードが置いてありますね。京都の「Meditations」みたいな感じのレコ屋というか。



─もう少し先の未来というか、将来的な展望はありますか? たとえば、ヨーロッパやアジアでのライブ、海外レーベルからのリリースなど。



岩井:海外に対する野望はずっとあるんですけど、それよりもいまは、目の前にあるライブとかを一つひとつ丁寧にやっていくことが最優先だと思ってます。それが次の展開につながっていったら一番ありがたいですね。



高橋:私も海外への憧れはありますけど、いまはライブやリリースなどで去年よりも忙しくなって、考える時間もなく……最近、札幌で同世代の友達とイベントを行なったんですけど、それがすごく楽しかったし刺激にもなったので、そういうイベントをもっとやってみたいなって気持ちがあります。



─ふたりが影響を受けたバンドや同世代のアーティストが集って「LAUSFES」みたいなイベントができたら面白そうですね。



高橋:ラウスフェス……(笑)。



岩井:やってみたいですね(笑)。



あの高校生テクノユニットはいま。LAUSBUBが大学生になって語る、音楽的関心、制作環境、将来の展望