「都心では物価が高いので、生活していくのが大変だ」または「地方は物価が安いので、生活費が都心に比べてあまりかからない」と世間で言われていることは、本当なのでしょうか。

お金の扱い方について、都心部と地方部では、違いがないのでしょうか。
連載コラム「地方の生活コストは本当に安いのか?」では、ファイナンシャル・プランナーの高鷲佐織が、実際に東京と地方、両方の生活を経験して感じたことを交えながら、お金に関する情報などをお伝えいたします。

今回のコラムでは、都心(主に東京)と地方の「値段」がテーマです。執筆者が東京と地方の生活を経験したことを基にお伝えいたします。

東京から地方に引越しした後に、東京に戻る機会があり東京在住の人と会うと、
「地方は物価が安くて暮らしやすいでしょ?」
と「地方は、値段が安い」ことを前提に質問をされたことがあります。

はたしてそうなのでしょうか?
すべての物の値段は、都心よりも地方の方が本当に安いのでしょうか?

○統計情報

総務省が公表した「消費者物価地域差指数~小売物価統計調査(構造編)2021年(令和3年)結果~」によると、物価水準が最も高い都道府県は、9年連続で東京都、2番目に神奈川県です。また、指数が100(全国平均=100)以上の10都道府県のうち、4都県(東京都、神奈川県、埼玉県千葉県)が南関東の地域となっています。
東京都および神奈川県の物価水準が高い理由として、「住居」の価格が高騰していることがあげられます。

ちなみに、都道府県庁所在市(東京都は東京都区部とする)および政令指定都市で見ると、物価水準が最も高いのは東京都区部、2番目は川崎市、3番目は横浜市、4番目は相模原市となり、こちらも南関東の地域が上位を占めています。

※出典(総務省「小売物価統計調査(構造編)結果」)
○実生活での値段

実際に生活していて、すべての物の値段が、東京より地方の方が安いかというと、そういうわけではないと思います。

あくまで執筆者の生活範囲内において実感したことをお伝えしますので、ご了承ください。なお、「東京都」は区部、「地方」は県庁所在市とします。

○【1】賃貸住宅

「東京都」「地方」→主要駅周辺住宅は、ほぼ同レベルの家賃相場である。

(「家賃」には共益費や管理費も含む)

上記の統計情報では、住宅価格の高騰等により東京都や神奈川県の物価水準が高いとお伝えしましたが、住宅を購入する場合だけでなく、東京都は賃貸住宅でも家賃が高騰しています。地方であっても、地方都市と呼ばれているような地域の主要駅周辺では、東京都と同レベルの家賃相場の物件が多かったです。私が物件探しをした際には、新幹線が止まる駅周辺のマンションは50㎡以上で家賃15万円以上、また主要駅から離れた場所であっても、家賃10万円以下の物件は少なかったです。「地方」とひとくくりにしていますが、駅周辺ではない物件でも、イオンモール等の大型商業施設が近くにある場合は、築浅でなくても、家賃が10万円以上となる物件が多かったです。ただし、「広さ」で言えば、東京都と同じ家賃であっても、地方の方が広い物件が多かったですし、家賃の中に駐車場代が含まれているという物件もありました。つまり、「便利なエリアでの家賃相場としては東京も地方も変わらないですが、家賃や設備等同条件であれば、地方の方が広い住宅で暮らすことができる場合が多い」と言えるのではないでしょうか。

○【2】食料品

生鮮食品(青果、鮮魚、精肉等)の場合
「東京都」>「地方」→地方の方が安い。

地方のスーパーでは、「産直エリア」と呼ばれるエリアがあり、地元で農業をされている方々が、生産した新鮮な野菜等を直に販売される場所があります。「地産地消」となるものは、価格も安く設定されているようです。

加工食品の場合
「東京都」<「地方」→東京の方が安い。

地方のスーパーでは、チラシに載っている加工食品以外は「定価」であることが多く、東京のスーパーでは、チラシに載っていなくても、加工食品の値段を下げて販売していることが多かったです。また、東京のスーパーの方が、加工食品の種類は豊富であると感じました。

○【3】光熱費

「東京都」<「地方」→東京の方が安い。
例えば、東北地方の場合、寒い冬に電気やガスのエネルギーを多く使うため使用量が東京よりも多くなるので、電気代やガス代が高くなります。また、東京では多くの住宅が都市ガスであるのに対し、地方ではプロパンガスである住宅も多く、ガス料金においては、都市ガスよりもプロパンガスの方が高いです。
○終わりに

すべての物の値段において、「地方の方が安い」というわけではありません。地方の賃貸住宅で暮らす場合、東京で支払う同じ家賃で、広い部屋で暮らすことはできますが、光熱費が高くなることもあります。

東京の主要駅周辺で暮らす場合、自炊しなくても、深夜まで営業している飲食店は多く、加工食品も安く手に入るので、食生活では便利だと思います。
「1ヵ月の家計の支出」という面では、住まいが都心か地方かではなく、その「暮らしぶり」によって支出額が異なると思います。

高鷲佐織 たかわしさおり ファイナンシャル・プランナー(CFP 認定者)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/DCプランナー1級。 資格の学校TACにて、FP講師として、教材の作成・校閲、講義に従事している。過去問分析を通じて学習者が苦手とする分野での、理解しやすい教材作りを心がけて、FP技能検定3級から1級までの教材などの作成・校閲を行っている。また、並行して資産形成や年金などの個人のお金に関する相談を行っている。一般社団法人理想の住まいと資金計画支援機構 FPスタッフ。
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