●時間に追われる生活から解放され「のびのびとしている」
競泳の背泳ぎの第一人者として実に18年にもわたり日本代表として活躍してきた入江陵介が、引退会見を行ったのが2024年4月3日。その際に清々しさと悔しさをにじませていた入江に後日インタビューし、改めて今後のビジョンについて聞いた。


今年3月22日に行われた代表選考会。入江は200メートル背泳ぎ決勝に出場したものの、惜しくもパリ五輪への切符を逃し現役引退を表明した。会見ではやり切った気持ちと、悔しさを滲ませていたが、その後、心境の変化はあったのだろうか――。

入江は「現役のときは、朝練があったので、朝アラームをセットしていたのですが、いまはそれがないので、とても清々しい朝ですね」と笑い、「いまはまだルーティンとなるような仕事が決まっているわけではないので、とてもゆったりとした時間を過ごしています。これまでできなかったこと、例えば夜ご飯に行ったり、お酒を飲んだり……。現役時代はどうしても練習が頭にあり、時間に追われているような生活だったので、少しのびのびとしています」とリフレッシュした生活で、現役時代の疲れを癒しているという。


引退を表明してから「水に浸かっていない」という入江。しかもこれまで行ってきた筋トレも休止し、一旦体もリセットしたという。それでも現役時代と同じような筋肉質の体型を保っている。「まだトレーニングは再開していないのですが、食事は結構気をつけています。あまり太らないように……と言われているので(笑)」。

入江が日本代表に選ばれたのが16歳のとき。
18年間という長い年月をトップアスリートとして過ごした。2012年ロンドン五輪では男子200メートル背泳ぎ、男子400メートルメドレーリレーで銀メダル、男子100メートル背泳ぎで銅メダルを獲得するなど、4度の五輪に出場。今年開催されるパリ五輪への出場を目指したが、残念ながら出場は叶わなかった。

入江は「パリ五輪で引退するという目標があったので、少し早まってしまった部分はありますが、元々パリのあとにやりたいと思い描いていたことがあったので、いまは少し前倒しになったと考えています」と現在の状況を説明し、「来年大学院に行くとか、ベースとして会社に残るとか、やってみたいメディアの仕事に向けていろいろな話をしているところです」と語る。

○「選手に寄り添って思いを伝えていければ」 理想のキャスター像は松田丈志

メディアの仕事という部分では「小さいときの夢がアナウンサーだったんです」と述べ、「将来的にはスポーツキャスターのような仕事もやってみたいという夢は持っていました。でもやりたいと思ってもできる仕事ではないので、まずは自分自身がしっかりと競技に向き合って、結果を残さなければ……という思いは強かったです」と現役時代から漠然とした思いはあったという。


水泳は言わずもがな、ほかのスポーツにも興味があるという入江。「スポーツって各競技に物語があって、観戦するのが好きなんです。いままではやっぱり水泳がメインでしたが、これからはいろいろなスポーツを観て、その魅力を知ってもらいたいという思いが強いです。僕はラグビー選手の友達が多くて、元日本代表の福岡堅樹さんなども仲良くて、この間もご飯に行ったりしたのですが、アスリートならではの悩みやしんどいことというのは共有しやすいので、選手に寄り添って思いを伝えていければと思っています」。

理想のキャスター像は、競泳の先輩である松田丈志。「とても仲良くさせていただいているのですが、JOCや日本水泳連盟の仕事はもちろん、メディアの仕事もされていて、とても多方面で活躍されている。
僕も松田さんのような存在になれればなと目標にしています」。

バラエティも「オファーをいただければチャレンジはしたい」


もう一つ、18年間代表として過ごしてきた日本競泳界への思いも強い。「自分に何ができるかというのはまだ分からないのですが……」と前置きしつつ「自分が練習メニューを作るなどのコーチ業は多分やらないと思いますが、試合に向かうモチベーションや、自分の失敗談、成功談を伝えることはできるので、それがメディアを通してキャスター的な仕事になるのか、小さい子への水泳教室などになるのかは分かりませんが、いろいろなことはしていきたいです」と何かしらの形で水泳界に恩返しすることを誓っていた。

会見ではバラエティ番組などへの興味も語っていたが、入江は「ほどほどに」と笑うと「タレントとしては絶対やっていけないと思いますし、僕はスポーツ専門にやってきた人間なので、オファーをいただければチャレンジはしたいと思いますが、そちらに重心を置くということはないですね」とあくまで軸は水泳を含めたスポーツだという。

パリ五輪には、現役時代に切磋琢磨した選手たちをはじめ入江にとってもなじみの深い選手たちが参加する。

「これまでオリンピックをゆっくりと観戦したことがないので、まずいろいろなスポーツを観たいです。
水泳はもちろんいろいろなスポーツの魅力を知り、競技を行っている選手を知り、メダルを獲得したならば、一緒に喜びたいです」。

入江自身「これからがセカンドキャリアのスタート」と位置づけている現在。作り上げていく未来については「正直すごく不安もあります」と率直な胸の内を明かすが、一方で「いままでやったことないことにチャレンジできると思うので、好きだと思うことはもちろんですが、苦手だと思うことも積極的にやることで、なにか新しいことが見えてくるかもしれない。懸命に努力することで、人の心は動かせると思うので、いまはいろいろなことに挑戦してしっかりと頑張っていきたいです」と意気込みを語っていた。

■入江陵介
1990年1月24日生まれ、大阪府出身。イトマン東進所属。
高校1年時、高校総体200m背泳ぎで優勝をして以来、数多くの記録を打ち立て、日本競泳界を代表する選手として活躍。2012年、ロンドン五輪で銀メダルを含む3つのメダルを獲得。2016年、第92回日本選手権の200m背泳ぎにおいて史上初の10連覇を達成した。2021年、東京五輪に出場し、4大会連続五輪出場を果たした。競泳日本選手団の主将も務めた。今年4月3日に会見を開き、引退を発表した。

衣装:ZEGNA